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第4話 念願の隠居生活開始?

少し大きな荷物を持って、城の外へ出れば、先に外にいたヴォルフガングが荷物を持ってくれた。


「ありがとう、お父さん」

「本当に良いのか?」


荷物を軽々手にしたヴォルフガングが、目を細めて私を見る。その視線を避けるように、私は歩き出す。


「私の選択は間違っていない。そうでしょう」


全部分かってるくせに、そんなこと聞かないでと言い返せば、ヴォルフガングからため息が漏れる。


「潔いところは、マリアそっくりだな」

「そう? お父さんだって、反対しなかったじゃない」

「次期国王が聖女と結婚するのを、良く思わない者などおらぬ」


ふふっと、つい笑みが零れてしまう。

ヴォルフガングはやっぱり分かっていた。アシュレイ王太子殿下は真の聖女と一緒になることで、国民から愛され、支持を得る。それがアラステア国を豊かにすることへ繋がる。

全部分かっていたから、ヴォルフガングは何も言わずに部屋を出て行った。

やっぱり私のお父さんは、最強だわと、なんだか誇り高くなった気分を味わう。


「少しばかり、アシュが可哀想ではあるがな」


アシュレイの気持ちを分かっていたヴォルフガングは、その地位のせいで選択肢を選べないことが残念だと口にしたが、娘がそれを納得しているのなら仕方がないと、諦めて仲良く二人で暮らすことを選ぶ。


「して、王より貰った土地はどのあたりだ」


山を一つもらい受けたアリアにその場所を問えば、ニヤッと不敵な笑みを返される。


「貰った土地は売るわ」


悪魔みたいな微笑みを浮かべて、娘にそんなことを言われ、ヴォルフガングはさすがに驚く。せっかくいただいた住む場所を売るとは一体何を考えているのかと、少々腹も立つ。


「街に住むとでもいうのか」

「いいえ、もっと山奥へ移るのよ」

「何を考えておる」


我が娘ながら、考えが分からないと髪を掻きむしるヴォルフガングに、私はそっと近寄ると「居場所が分かるなんて嫌なの」と、耳打ちをした。


(誰かにここに居るなんて、知られたくないのよ)


しつこいアシュレイのことだから、追いかけてきて、セリーナとの結婚式に招待するかもしれない。さすがにそれは見たくないの。これでも女の子だし、一度は好きになった人の結婚式なんて見たくないのが正直な気持ち。祝福しない訳じゃないけど、心境は複雑すぎるでしょう。

それに、城に住むように強制されるかもしれないし、それこそ地獄だわ。

完全に行方が分からなくなれば、諦めるしかないもの。それでいいのよと、私は偽物で、化け物で、目立ちたくない。だったら、姿を隠すしかないでしょう。


「全く、どこまで山奥に引っ込むつもりだ」

「世界の果てまで?」

「がはっ、ははは……。それはいい、我がねぐらに案内するぞ」


それはドラゴンの住まう世界。この世界とは別の次元だと言われ、時の流れも空間も違うとヴォルフガングが話す。

人間ごときが近づける場所ではなく、アシュレイに永遠に会わずに済むとまで言い出す。


「私はアラステア国の結界を補強しているのよ、遠慮しておくわ」


ここを離れることは出来ないし、そんな怪しい世界に行くつもりはないと、秒で拒否する。そうすれば、ヴォルフガングがまた笑う。


「遠慮せずともよい。他のドラゴンもおるぞ」

「絶対に行かないからね」


ヴォルフガング以外にもドラゴンがいると聞かされて、一体誰が行きたいと思うのか? 私は巨大なドラゴンが大量にいる世界を想像して、ぞっと背筋を凍らせた。


(そんな恐ろしいところに、絶対行かないんだから)







アシュレイがアラステア城に戻ってきたのは、アリアが出て行ってからひと月後。

王妃のクレアが魔法文書を送り届けたことにより、アシュレイはこれでも最速で戻ってきたのだ。


「どういうことなのですかっ!」


城に戻るなり、アシュレイは王と王妃に詰め寄る。アリアが一方的に婚約を破棄して出て行ってしまったなどと、到底納得できるものではないと、アシュレイは顔を真っ赤に染める。


「儂たちは引き留めたのだぞ」

「俺はアリアと結婚すると言ってあったはずです」


それを承知で、よくアリアを出て行かせたと、アシュレイの怒りは頂点に達する。しかも、王が与えた土地はすでに売り飛ばされており、完全に行方が分からなくなっている。

近隣の村や町に聞き込みをさせたが、あの目立つヴォルフガングの姿ですら情報がない。つまり、二人の足取りは闇の中。どれだけ探させても手掛かりなし。


「落ち着いてアシュレイ。アリアさんは城に顔を見せてくれると約束してくれたわ」


驚くほど怒りを露にしたアシュレイに、クレアはそう伝えるが、アシュレイはギロリと睨みつけると、


「ひと月も顔を出しておりませんが……」


その約束はおそらく嘘ですと、奥歯を噛んだ。



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