第41話「聖女だと国に売った犯人が判明!」
驚愕の事実を暴露され、私の頭の中は真っ白に。物心ついたときにはちゃんと両親はいた、村の人たちもよそよそしい感じはなく、ちゃんと両親の子供として育ってきた。なのに、突然現れて、本当の父親発言? そんなはずはないと、開いた口が塞がらなくなる。
「母上、アリア、何があったんだッ」
祈りの間から放たれた異常なまでの光に、アシュレイが飛び込んでくれば、見たこともない男がアリアに抱きついており、咄嗟に剣を抜く。
「何者だ! どこから侵入した」
「最近の若者は礼儀がなっておらんな」
「今すぐアリアを離せ」
人質にとるつもりなのかと、アシュレイは敵意をむき出しにして剣先を向ければ、男はアリアをギュッと抱き寄せた。
「久しい再会を邪魔するな」
そう言って、覇気を飛ばす。
その凄まじい気配にアシュレイは一瞬怯んだが、すぐにクレアを部屋の外へと促し、再び構える。
この男、只者ではないと、額に嫌な汗を流しながらもアシュレイは「アリアを離せ」とさらに声を発する。
「初対面の者に剣先を向けるか」
「アリアに何かするつもりならば、切る」
両手で剣をしっかりと握り締めたアシュレイは、いつでも踏み込めるように足を少し引く。向ける剣先は脅しなどではなく、本当に切り込むと睨んで。
すると男から信じられない言葉が飛び出し、思わず剣を落としそうになった。
「アリアは我が娘、俺様は父親だ」
妙な空気が満ちる部屋で、私とアシュレイ、王妃、国王、そして赤髪の男が円卓に座っていた。
父親を名乗った男の名は【ヴォルフガング】。しかも自らドラゴンだと言い張る。
ヴォルフガングの話を要約すると……。
私の母親は『マリア=クローディア』
歴代最強聖女様で、ドラゴンを従えていたとも伝えられる人物であり、二人は恋をして子供を授かったのだが、私が生まれてすぐにマリアが亡くなってしまい、子供を育てることが出来なかったヴォルフガングは、子供を失った夫婦の家に私を黙って置き、代わりに育ててもらったとのこと。
その上、女の子は王子様と結婚すれば幸せになれると書物での影響を受け、聖女の血を受け継いでいる私をライアール国に売ったらしい。
つまり、私を聖女だとライアール国に吹き込んだのは、紛れもなくヴォルフガング。
が、しかし、結婚式に出るための服装や挨拶などを調べているうちに、すっかり時を忘れてしまい、気が付けば数か月も経過しており、急ぎライアール国に向かえば、見知らぬ女が聖女として城に居り、私が追放されている事実を知ったとのことだった。
聖女なのだから、王子と結婚すると信じていたヴォルフガングにとって、それはもう大ショックだったとのこと。
ここで問題なのは、マリアが生存していた時代だった。
歴史が正しければ、それはもう500年ほど昔の話。ヴォルフガングの話が本当ならば、私は一体何歳で、人間ではないのかもしれないと、やっぱり化け物だったのだと、酷く落ち込んだけど、ドラゴンの生きる時間軸は人間とは違うと言われた。
竜の血肉を与えたマリアは、姿を変えることなく寿命を延ばしたが、魂がもたず500年を待たずに亡くなってしまったとのこと。仮にその話が本当なら、マリアはつい最近まで生きていたことになる。正確には18年前まで?
当時、聖女の役目を終えたマリアは、ヴォルフガングとともに人や魔物が入り込めない聖域に招かれ、そこで一緒に暮らしていたと言われた。確かに、歴史上では姿を消したという文献しか残っておらず、確かに死亡したという事実はどこにも残っていない。
だからといってこの話を信じるかと言えば、簡単に信用も出来ないのが正直なところ。なにせ証拠などどこにもないからだ。
「信じがたい話であるな」
顎髭を触りながら、国王は半信半疑でその話に耳を傾けていた。もちろん他の者たちも同じだ。
でも、もしもこの話が事実だとすれば、私の魔力に関することの説明はつくし、納得も出来る。大聖女様と最強と謳われるドラゴンとの子供だとすれば、化け物みたいな魔力があってもおかしくない。
(魔法の威力が凄まじいのは、そのせい?)
人並みならぬ魔力を持ち、治癒魔法も攻撃魔法も扱えるという事実の説明としてはかなり有力。ただ、時間軸だけはどうしても引っかかるけど、聖域の時間の流れは人間界とは違うと言われてしまえば、何とも言えない。
現にドラゴンは何万年も生きているというし。
あり得ない話でもないが、半信半疑という状態で、皆がどうなのかと悩めば、ヴォルフガングが席を立つ。
「ならば、真の姿を見せ確かめればよい」
「ドラゴンの姿になるというか?」
「実物を見れば、信用に値するであろう」
「待て、ここで姿を変えれば、民に混乱を招く」
伝説であり、空想の生き物であるドラゴンがいきなり姿を見せれば、国中が混乱すると国王は、ヴォルフガングに席に着くようにいう。
書物の情報が正しければ、その大きさは計り知れず、街など一瞬で潰れてしまうとさえ伝えられている。そんな生き物が突如アラステア国に姿を見せれば、混乱は免れないと、国王は小さく唸る。
「どうするのだ」
ヴォルフガングは、ドラゴンの姿になるのは簡単だと口にするが、それが嘘か真かも分からず、真相はどう確かめるべきかとさらに悩むことになった。
伝説の生き物ドラゴン(竜)。それが今目の前にいる人物などと、完全には信じられない。ドラゴンは本当に人型へ姿を変えることなど出来るのか? そもそも実在するのか? 何かの罠なのか? 疑り始めればキリがなく、部屋に居る誰もがヴォルフガングに不審な眼差しを向けてしまう。
「元の姿を見せぬままで、信じるというか?」
真の姿を見せることを拒まれてしまえば、それを証明することができないが、ドラゴンであることは事実だと、ヴォルフガングは国王に、自分の話を信じるかと問う。不確かなままでそれを認めるには無理があると、国王は口を閉ざしてしまう。
「俺が確かめます」
誰もが口を閉ざしてしまった部屋で、今度はアシュレイが席を立った。
「ならぬ」
「なぜです、父上」
「その者の言葉が事実ならば、お前を危険に晒すわけにはいかぬ」
ドラゴンは魔物であり、人間に味方するものかどうかも分からないと、王太子を生贄にすることなど出来ないと強く言う。
それでもアシュレイは机に手をつくと、身を乗り出した。
「ヴォルフガング殿から敵意は感じない。俺には事実を確認する義務があります」
「ほう、なかなか見る目のある青年だ」
威圧感は消せないが、敵意など始めからないヴォルフガングは、アシュレイの言葉に感心する。足を組み、のけ反るヴォルフガングは、国王に視線を向け口元を上げ笑った。
「我が娘を保護してくれた国に、感謝すれど、仇などなさぬ」
ライアール国より国外追放を受けたアリアを救ってくれたのだろうと、感謝すると頭を下げた。でなければアリアが城にいる理由が見当たらず、祈りの間に入ることなどないだろうと、全てを理解していると、ヴォルフガングは礼を述べる。
ライアール国から罪を課せられ、見捨てられた大切な娘をアラステア国は保護してくれた。そんな国に危害など加えるはずはないとはっきりと告げる。
「私が立ち会います」




