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最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むので、お断りします!【完結】  作者: かの
~【第1部】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むので、お断りします!~
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第38話「アラステア国の祈り」

■■■

「ここが祈りの間ですよ」


穏やかな声に促されて扉を開けば、天窓から光が射しこむ柔らかな空間が広がっていた。

床に描かれた魔法陣は、おそらく全土に祈りが届くように彫られている。


「なんて温かいの」


ライアール国にあった祈りの間は透明な空間だった。それが、アラステア国は光に満ちた柔らかな光の空間。


「どうぞ」


部屋に入ってと促されても、私の足はそれを拒む。

この部屋は聖女しか立ち入りを許されていない場所。私は聖女ではないのだから、入ってはいけないとサイレンが鳴り響く。神聖な場所に足を踏み入れることはしてはいけないのだと、ちゃんと分かっている。






朝を迎え、身支度を整えた私は王様に婚約者として紹介され、そのまま病に倒れている王妃様の部屋へと通された。

誰が見ても弱っているのは明白であったが、ゆっくりと身体を起こしてくれたクレアは、とても優しい表情で私を迎え入れてくれた。

アシュレイが婚約者だと紹介すれば、心からそれを喜んでくださった。


「アシュレイに、こんなに可愛らしい婚約者がいたなんて、知らなかったわ」


ふふっと笑みを零して、嬉しいと言葉にしてくれた。


「突然の紹介になってしまい、申し訳ありませんでした」

「いいのよ、紹介してくれて嬉しいわ。それで式はいつになさるの?」


元気なうちに二人の結婚式が見たいと口にするクレアに、私の心は握り締められるような痛みを感じる。

だって、これは演技。結婚式など開くはずもないのだから、クレアを騙している罪悪感が全身を蝕む。


「それはまだ決めていない。アリアが城に慣れるまで待ってくれないか?」


やんわりと式を遠ざけたアシュレイだったが、クレアに結婚式にはちゃんと呼ぶからと安心させる。

それを聞きクレアは「楽しみにしているわ」と喜んでくれたが、とても長く持つとは思えなかった。やせ細った身体に、青白い顔、色のない唇がそれを物語っていた。

そんな状態のクレアは、なぜかベッドからゆっくりと出ると、私の目の前に立ちやんわりと手を掴んできた。


「アリアさん、少し付き合ってくれないかしら?」

「私?」

「ええ、あなたに見せたいものがあるの」


二人だけで行きたい場所があると言い出す。


「母上、それは……」

「大丈夫よ。今日は気分がいいの」


クレアは、どうしてもアリアを連れていきたいところがあるのだと、微笑む。アシュレイはここにいてと言い残し、手を引かれたけど、さすがに振りほどくことは出来ないし、ついてきてはダメとお願いされたアシュレイも、不安そうに見ていたが、「頼む」と声を絞り出すから、益々行くしかなくなって。

ゆっくりと歩き出すクレアに手を引かれるままに、連れてこられたのは、祈りの間だった。


「アリアさん?」


入り口で立ち止まってしまった私に、クレアが不思議そうに首を傾げるけど、資格のないものが入っていい部屋じゃないのだから、戸惑うのは当然。


「申し訳ありませんが、入室することはできません」

「あらどうして?」

「私は聖女ではありませんので」


きちんとした理由を述べれば、クレアはくすくすと笑い出した。何が可笑しいのかと顔を顰めれば、背後に回られて背中を押される。


「あ、あの、困ります」


強引に部屋に入れようとするクレアに困って、私は足を踏ん張る。アシュレイの強引なところはきっと母親譲りなんだわと、妙な納得をしながら抵抗していたら、クレアが突然「うっ」と胸を抑えた。


「大丈夫ですか?!」


無理をしたから体が、と、焦ってクレアを気遣ったら、ポンッと体を押されて、そのまま祈りの間に足を踏み入れてしまった。


「ごめんなさい。こうでもしないとアリアさん入ってくれないから」


(だ、騙された……)


まんまとクレアに騙された私は、入ってしまったからには仕方がないと諦める。罰とか当たらないわよね、なんて冷や汗を掻きながら。


「心臓に悪いので、おやめください」


本当に発作が起きたのかと心臓が止まりそうになったと言えば、クレアは「ありがとう」と、心配してくれたことに感謝された。


「それで、私をここに案内した意図はなんでしょうか?」

「祈りを捧げてくれないかしら?」


聖女ではないと説明したばかりなのに、クレアは嬉しそうにそれをお願いしてきた。もちろん私が祈りを捧げたところで何も起きないのは明白。

しかも偽聖女で、隣国から国外追放まで受けている身。やはりアシュレイの妻となる人は、聖女でなければ認めないということなのかもしれないし、もしかしたら、可能性にかけているのかもしれないと、期待を裏切るようなことはしたくなくて、私はきちんと説明する。


「残念ながら、私が祈ったところで何も起こりませんよ」

「実行してみなければ、分からないこともあるでしょう」

「期待はしないでくださいね」


初めから聖女ではないとはっきりと伝え、何も起こらなくてもガッカリしないでほしいと先に言っておく。幼い頃に見た落胆した両親をもう見たくないのだと、心が泣く。

魔法陣の中心に両膝を着くように言われ、私はクレアの指示通りの動きをする。両手を胸のあたりで組んで、祈るような恰好を取らされると、背後にクレアが立ち、私の両肩に手を置く。


『聖なる祈りよ、愛する我が国を守りし、結界を付与せよ』


これがクレアの祈りの詠唱。


『……アライア』(結界魔法)


私も釣られるように心で結界魔法の詠唱を唱えれば、祈りの間に信じられないほどの光が満ちた。


「どうなっているの?」

「どういうこと?」


目を開いていられないほどの光に、私もクレアも腕や手で光を遮るので精一杯。

魔法詠唱は言葉(音)にしていない、なら発動するはずはないのに、私たちは何が起こっているのか分からないまま光に包まれた。






■■■

アラステア国より溢れた光は、ヴォルフガングにだけ見えた。だから窓辺に駆け、それを確かめるために、窓を開け放つ。


「この光……、アラステア国か」


光の発生源が隣国だと分かり、そこに会いたい人がいると分かったヴォルフガングは、今すぐにでも飛び立とうとしたのだが、このままでは腹の虫が収まらず、ランデリックを振り返り、レイリーンをチラリ睨む。


「冥途の土産だ。その女からは黒が見える」

「黒?」

「お前たちが一体誰を追放したのか、いずれ分かる」


聖女を失ったライアール国は、近いうちに滅ぶと知り、ヴォルフガングは手遅れだと知りながらもそう口にした。後悔してももう遅いと。


「本物の聖女はレイリーンだ。偽物を追放したまで」


レイリーンをそっと抱き寄せたランデリックは、偽情報に踊らされているのはヴォルフガングの方だと、高を括る。

そして、睨まれるレイリーンもランデリックに強く抱きつく。


「正当聖女は私です」



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