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最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むので、お断りします!【完結】  作者: かの
~【第1部】最強魔力を隠したら、国外追放されて、隣国の王太子に求婚されたのですが、隠居生活を望むので、お断りします!~
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第17話「王太子が負傷!」

「……ローレン様」

「この俺を騙すとは、覚悟はできてるんだろうな」


冷ややかな声が聞こえ、大嘘がバレていることを知る。アシュレイを連れてきたのはローレンで間違いなくて、村人のアリーというのが嘘だと完全にバレていると知る。

師団長を欺いた罰は、当然受けなければないないだろうと、私はガクッと肩を落とす。


「申し訳ありません」


泣きたい気持ちを抑えてとにかく謝ってみる。

すると、首筋に宛がわれた剣が取り除かれた。もしかして許してもらえたのかと、私が振り返れば、超不機嫌な表情で縄を手にしていた。


「村に嫁いできたアリーだったな」


絶対嘘だと分かっていて、ローレンは引き攣る口角を震わせてそう口にした。

これ以上怒らせてはいけないと、私は下を向いたまま口を開く。


「私は、ライアール国より来ましたアリアと申します」

「やけに素直だな」

「アシュレイ王太子様に、お聞きになったのでしょう」

「当然だ」


縄をピンッと張られたら、罪人確定演出が見える。このまま城へ連行されて罰を受けるか、それともここで断罪か、どちらにしてもスローライフにはたどり着けなくなった。


(短い人生だったわ……)


逃げても、暴れても、国から追われる罪人となってしまえば、平和に暮らすことなど叶わなくなる。つまり、詰んだ。

国を滅ぼしてまで逃げたいとも思わないし、世界中の人たちを敵に回すなんて考えただけでも恐ろしすぎる。

私は大人しくローレンに縛られる覚悟を決めて、地面に膝をつく。


「どうした、抵抗しないのか?」

「無駄な足掻きはしません」


下される罰がもしも軽かったら、まだスローライフの願いが叶うかもしれないと、僅かな望みを胸に私は『我慢よ』と、心で言い聞かせる。


「よい心がけだ」


素直に縄をかけられ、私はアシュレイの元へと連行される。



「きゃぁぁ――ッ!」

「うわァァっ」



歩けと指示されたその時だった。村から多くの悲鳴が聞こえ、その中にアシュレイの声も混じり、


「アレフ、皆を安全な場所にッ」

「アシュレイ様、お下がりください!」


村人たちを誘導しているようだった。

当然ローレンは、私の縄を手放してアシュレイの元に走る。私も縄を解いて走るんだけど、体力がないのよ、ほんと。ローレンの背中がどんどん遠ざかって、完全に引き離された。

それでも悲鳴が聞こえる村にたどり着かなくてはいけないと、必死に走る。

私が到着したときには、村の中に人影はなく、ローレンの姿もなかった。


「どこ?」


村の中で必死に耳を澄ませば、村から少し離れた場所で音が聞こえ、私は息を切らせて遅いけどまた走り出す。


「アレフっ、アシュレイを連れて行け」


剣を構えたローレンが、負傷しているアシュレイを早く安全な場所へと指示を出すが、その背後には巨大な蛇の魔物が見えた。

そして、腕から大量の血を流すアシュレイの姿も。


「何があったの?!」


ようやくローレンに追いついた私は、現状が分からず声をあげる。


「アリア、来るな」

「で、でも……、きゃぁッ」


その場で立ち尽くしていたら、突然アレフに荷物のように腰を抱きかかえられて連れ去られる。魔物から少し距離を置いた林の中に連れてこられ、アレフはアシュレイを地面にそっと寝かせた。


「我が主君を頼む」


奥歯を噛み締めて絞り出した声でそう託すと、アレフはローレンの元へ戻って行く。


「ちょ、と、どうしろっていうのよ!」


血まみれのアシュレイを託されても、医者じゃない私には治せない。

だって、これは『毒』だから。

擦り傷、切り傷などの皮膚の再生は治癒魔法で治せるけど、毒や病気は解毒薬の知識、病気の知識のあるものでなければ治癒出来ないのだ。だから医者という魔術師が存在している。解明できていない毒や病気の類は治癒できないが、毒の成分、効果的な薬の知識があれば魔法で治すことができるのが医者の称号を得ている者。

つまり、私にはその知識がないから、アシュレイを助けることが出来ない。

変色している腕を見れば、先ほどの魔物から毒を喰らったのは間違いない。おそらく毒を持つ牙で噛まれたのだろう。


「このままじゃ、死んでしまうわッ」


毒は確実にアシュレイを蝕んでいる。放っておくことなど出来ないけど、今から医者のいる街まで運ぶ時間もない。


「……はぁ、う゛、……ぁ……」

「しっかりして!」


苦し気に呼吸をするだけのアシュレイの腕を持ち上げ、私はスカートを切り裂いて毒が体に回るのを少しでも防ごうと傷口の上の方をきつく締め上げる。

それから無駄だとは思いつつも、手を翳す。


「お願い、少しでも効いて……『アルミス』」


効果はないと分かっていても治癒魔法を詠唱することしかできない。魔法で傷口は塞がり、大量に流れていた血は止まったけど、毒は体内に残ったまま。

このまま毒が全身に回れば、アシュレイは確実に命を落とす。かといって、傷口を塞がなかったら出血多量で危なかった。どうすればいいのかと、私は真っ青になってアシュレイを見つめた。

額に滲む汗が流れ、苦しそうに呼吸を繰り返すアシュレイをこのままにはできないと、私はなんとか担ぎ上げると、村に向かって歩き出す。

もちろん成人男性を担ぎ上げられるはずはなく、アシュレイの足はずっと引きずっているけど、村までたどり着ければ、毒消しの薬草が何かあるはずだと。


「薬草が少しでも効けばいいのだけれど」


毒が全身を蝕む前になんとかしなければと、必死に足を進めるけど、どうしても背後が気になる。


「二人は、大丈夫……」


魔物と対峙しているだろうローレンとアレフ。二人とも腕の立つ騎士だとは分かるけど、あの大きさの魔物にたった二人。


(……私だったら)


ふと過った危険な発想に、私は思いっきり首を振った。誰かの前で化け物みたいな魔法を使うことは、全ての終わりを意味する。あんな化け物を容易く片付けられるとなれば、危険だと、脅威になると判断され消されるか、最悪国の兵器として扱われるのは分かっている。

だからこそ、誰かの前で魔法を使用することができない。しかも相手は師団長だ、絶対に使ってはならないと警鐘が鳴り響く。静かに暮らしたいなら、ここは大人しくしてと、制御がかかる。


「王太子殿下が連れて歩くような方よ、強いに決まってるじゃない」


あんな魔物に負けるわけないと、私は今はアシュレイを助けることを優先しないとまずいと、気持ちを切り替える。次期国王様をこんなところで死なせるわけにはいかないでしょう。

なんとしても助けなければと、私は気合を入れてアシュレイを持ち直す。


「お願い、絶対に死なないでください」


額に浮かぶ汗も酷くなり、顔色も悪く、呼吸も荒くなってきたアシュレイをなんとか背負って、私は必死に村を目指す。



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