滝の決意
夕暮れの施設に着いた後、俺は仲間たちと別れ、司令官室へと足を運んだ
扉の前に立つと、重たい木の板の向こうからは静かな気配しか伝わってこない。深く息を吸い、拳を握り直してノックした
「入れ」
低く響く声が返る。俺は扉を押し開け、中へと足を入れた
司令官は窓際に立ち、外の夜空を見ていた。銀の瞳が月光を反射し、こちらを見ている 俺は背筋を伸ばし、正面に立って報告を始めた
「……“記憶の呪骸”は、撃破しました。ロメオ、トヴァース、純と協力し……最後は俺の技で決着をつけました」
司令官は静かに振り返る。視線は冷徹でありながら、どこかに安堵の色がしている
「そうか。被害は?」
「大きな負傷はありません。……ただ」
「ただ?」
司令官に聞かれると、俺は言葉を詰まらせ、拳を強く握りしめた
「ただ、最後に“ありがとう”と……呪骸が言いました。あれは、確かに人の心の声でした」
司令官は机の前に歩み寄り、腕を組んで俺を見据える
「……お前はその声を、どう受け止めた?」
俺は真剣な眼差しで答えた
「怖かったです。けど、あの言葉には救いがあった。だから俺は……次も逃げません。どんな相手だろうと、自分のやり方で、立ち向かいます」
短い沈黙の後、司令官はゆっくりとうなずいた
「よく言ったな、滝。お前は確実に強くなっている。……それは力だけではない。心が成長しているのだ」
だが、司令官の言葉はすぐに冷徹な響きを取り戻した
「だが忘れるな。“異界の扉”はまだ閉じていない。今日の戦いは、序章にすぎん」
滝は頷き、真剣な声で返す
「分かっています。だからこそ、俺は仲間と共に進みます」
司令官はわずかに口元を緩めた
「いい答えだ。……行け、滝。今は休め。お前の背中を追う仲間のためにも」
「はい」
滝は深々と頭を下げ、司令官室を後にした
扉を閉めた瞬間、胸の奥に残る緊張がふっとほどける。廊下の先には、仲間たちの笑い声が小さく響いていた
「司令官、次の戦いは…なんの戦いなんだ… 俺の戦いか、または、…仲間の戦いか…」
俺の言葉に、司令官は机に肘をつき、銀の瞳を細めた
「……滝。戦いは誰のものでもある。時に“お前自身の戦い”であり、時に“仲間を守るための戦い”だ。だが、忘れるな。どちらも切り離すことはできない」
俺は黙ってうなずく
司令官はさらに話す
「お前はこれまで、自分の力と向き合い、仲間を導いてきた。次に訪れる戦いは……その両方だろうな。己を試し、そして仲間を信じ抜く戦いだ」
「……両方……」
俺は呟き、拳を握りしめた
「異界の扉は、いまだ閉じていない。向こうから来るのは、“記憶”だけとは限らん。過去の怨念も、未来への恐怖も、すべて形を成して押し寄せるだろう」
「過去も……未来も……」
俺の胸の奥に、重たいものがのしかかる。それでも俺の目は、逸らさなかった
司令官はわずかに口角を上げれ
「だが、安心しろ。滝、お前はひとりではない。純も、智嬉も、仲間が共にいる。そして……私も、お前を見届ける」
俺は深く息を吸い、視線をまっすぐ司令官へ向ける
「……分かりました。次の戦いがなんであろうと、俺は逃げません」
「よし。ならば行け。心を整えろ。戦場は近い」
深々と頭を下げ、司令官室を後にした
廊下を歩きながら、自分の胸の奥で繰り返す
(俺の戦いでも、仲間の戦いでも、全部受け止める。……そのために、俺はここにいるんだ)




