それぞれの力
「これで能力者は3人だな、少しずつ土台は出来てきた」
「智嬉はまだ学校ですけど、能力者っていきなり力を発生したりとかはないんですか?」
俺が心配して聞くと、司令官は書類を読むのを止めた
「ないとはいいきれない 貴明も、かつてはよく暴走を繰り返していたから あまりの力の強さに、コントロール出来ずに」
「そうですか…」
「智嬉は滝より能力のレベルは少し低めなんだ だが、彼は力持ち なにかと役に立つだろう」
「智嬉は柔道部でした」
司令官とサロンで話していると、智嬉がロビーから上がってきた
サロンは2階にある
「ただいまー、今日から家じゃなくて、能力者施設で寝泊まりするよ よろしくな、司令官」
「ああ 構わないよ 緊急時も、自宅へ帰っていい そういう決まりはないから」
智嬉も能力者になると、腹を括っていた
やはり、俺も学校を辞めて、能力者一筋に生きる
「司令官!」
「ん?」
「俺も、退学して、能力者施設へ移住します」
「そうか 貴明の息子も能力者に…… 道は逆らえないのか」
俺は司令官室に案内され、武器を渡された
「これは、親父が使っていた武器?」
「ああ、棍棒だ これを君に託すよ」
細く長い武器で軽いのに、なぜかずっしり重たく感じた 気持ちがまだ緊張している
「戦いは……長く続けたくないですね」
「滝 私は貴明の息子だからと、別に贔屓もしない だが、君は貴明の力を受け継いだ 仲間の何倍も強いんだ そこだけは、気をつけてくれ」
「この力で、必ず、仲間を守ります!!」
そうは言っても、まだ能力者になって1週間ぐらい
施設自体もまだ全部回れていない
「瞳は仲間になったけど施設に来ないのか?」
「ああ、瞳なら、まだ力が弱いのでね、戦闘員にはなれないんだよ」
「じゃあどうなるんですか?」
俺は首を傾げた
「瞳と対戦してみるかい? どれぐらいの力があるのか」
「……っ!!」
「それに、私はまだ瞳がどう戦うのか知らないんだ」
噂をすれば、瞳が司令官室の扉から入ってきた
「失礼します 滝!」
「お疲れさん どうしたんだ?」
「入隊届けがまだだったのよ 司令官に届けに」
「ああ、すまないな ところで 瞳」
司令官に聞かれ、瞳は動きが止まった
「はい?」
「瞳はどういう戦い方をするんだい?」
「私は鎖です 武器は鎖を持っています」
「縄術か」
瞳は瞬時に腰から筒状の武器を取り出した
「この中に鎖が入っています 私は敵を縛りつける術があります」
「道場へ行こうか 滝に見せたら早いだろう?」
「滝 勝負よ!」
すっかり俺を呼び捨てするようになった瞳
俺はなんだか嬉しかった
「ああ、行こうか、道場へ!」
その頃、智嬉は自宅へ戻り、荷物の整理をしていた
「ん?なんだ智嬉 引っ越すのか」
智嬉は厳格な父親を持つ
根口 航介
彼もまた、俺の親父、貴明との仲間だった
「ああ 能力者施設だよ」
「お前も能力者だったんだな…… お前を、辛い目に…」
「友達を助けるんだよ」
航介さんは友達、と聞いてハッとさせる
「なに? その友達って」
「幼なじみの蒼山滝だよ」
航介さんは蒼山に反応した
「蒼山…… 蒼山、貴明……!?」
「ん?どうした、親父」
智嬉は航介さんの異変に後ろを振り向く
「あいつに息子がいたのか…… またしても、不幸が始まるのか…… 智嬉!!」
「なんだよ?」
「能力者は辞めなさい!! また悲しい結果にしかならない争いだ!!」
智嬉は体に衝撃が走った
「親父…? 」
「父さんの友も、能力者の戦いで死んだのだ!!力の争いで敵に狙われ、父さんは、その貴明を……助けられなかった……」
所代わり、俺は瞳と司令官と道場へ向かった
「じゃあ、始めようか?瞳」
「ええ!久しぶりに戦うわ」
「滝 とりあえず瞳に攻撃しなさい」
俺は正直女性に攻撃は乗り気じゃなかったが、武器を構えた
「いくぞ、瞳!!」
走り出し、瞳に突きを入れようとした瞬間
瞳は腰から鎖を取り出し、俺を縛りつけた
「なっ……!!」
「私の技、これしか出来ないの……本当は能力で敵を縛りたいわ」
司令官がなるほど、と腰に手をやる
「それなら、そういう能力にすることも出来る 瞳がそれでいいならな」
「お願いします!司令官!」
瞳は自分で縛りつけた鎖を解いてくれた
「それに鎖って重くないか?」
「1度縛ってしまえば終わりなのよ 能力だったら、何度でも可能にしたいわ」
「分かった 瞳、地下へ来なさい 力を与えよう 滝 君は自室で休んでもいいぞ」
「はい!」
能力が高い… まだ実感は湧かない
本当に力が強いのかもまだ分からない
副作用も出てこない
「実感がないのが恐ろしいな…」
自室でぼーっとしていると、天井からカルテー二の声がした
"分からせてやろうか? お前の力を!!"
「なっ!!?」
振り向こうとしたその時、酷い頭痛がした
(あ、っ頭が……割れる――っ!!?)