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Remembers  作者: manaka
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貴明の背中

山を下る途中、滝はふと足を止めた。肩越しに見た夕暮れの空は、さっきまでの戦いが嘘のように、澄み渡っている

「……なあ、純。さっきの“ありがとう”って、やっぱり……」

言葉の続きを探していると、純が静かに答えた

「聞こえてたか。あれ、確かに……“記憶の呪骸”の本音だろうな」

「うん……あんな風に、消えるなんて思わなかった」

滝の声は、まだ揺れていた

ロメオとトヴァースは少し前を歩いている。ふたりの背中を見ながら、滝はもう一度、心の中で自分に問いかけた

(俺たちは……何と闘ってたんだろう)

闇でも、呪いでもない。それは、人間の中に巣食う、どうしようもない“負”の感情

けれど、あの最後の言葉には、確かに温かさがあった

純が、歩調を落として滝の隣に並ぶ

「……滝。俺さ、昔……自分が力を持ってるのが、すごく怖かった」

意外な告白に、滝は驚いて純の横顔を盗み見る。

「今もだけど……でも、お前が“自分の技でやり方で”って、言い張るの、少し羨ましい」

「え?」

「……俺は、たぶん、誰かに“こうしろ”って言われた通りにしか、生きてこれなかったから」

純が不意に、笑う。けれど、それはどこか寂しげな笑みだった

「だけど、今日の滝は違った。自分のやり方で、全部ぶつけたろ」

「そりゃ……怖かったよ。でも、俺、あの影に“分かってる”って言いたかった。悲しいのも、悔しいのも、俺も何度も……」

滝は一息つき、手に握った棍を見つめる

「だから、次も……逃げない。たとえ相手が“記憶の怪物”でも」

前を歩いていたロメオが、立ち止まって振り返る。

「……ふたりとも、よくやったよ。人の“負”に触れるのは、ただの戦いよりずっと辛い」

トヴァースも静かに頷き、

「そして、それを受け止めて立ち上がるのは、もっと難しい」

滝は戸惑いながらも、少しだけ胸を張った

「……ロメオ。さっき“異界の扉”って言ってたけど……」

「そうだ。あれが完全に閉じるまでは、まだ気を抜けない」

ロメオの瞳は、どこか遠くを見ていた。

「“扉”は、そう簡単には閉じない。人の記憶がある限り、どこにだって道は開く。けれど……」

「けれど?」

「……今日のように、向き合い、受け入れ、語りかける者がいる限り、必ず“光”も差す」

ロメオは優しく微笑むと、

「それに……滝、お前の親父…貴明も、きっと今の姿を見ているだろう」

「……そっか。だったら、もう少し頑張ってみるよ」

滝は空を見上げ、目を細める

山を下りながら、純がふいに呟いた。

「……なあ、帰ったら、久々にみんなで飯でも食おうぜ。俺、カレー作るからさ」

「え、純のカレー?珍しいな」

滝が話すと、純はにや、と笑う

「戦いの後は、辛いのに限るだろ?」

「……じゃあ、張り切って帰らなきゃな」

四人の歩みは、徐々に里へと向かう細道へと変わる

戦いはまだ終わらない。それでも、今日だけは、胸を張って、帰れる

その背後で、夕闇がゆっくりと山を包み込んでいく

滝は最後にもう一度、空に小さく呟いた

「親父……俺、いつか本当に、お前の隣に並べるかな」

その答えは、まだ遠い未来にきっとある


四人が山を降りていく途中、ふとトヴァースが立ち止まり、振り返らずにぽつりと呟く

「……滝、お前はもう充分、隣に立てているさ」

その言葉に滝は少し驚いたが、何も言わず、ただ静かに背中を見送った

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