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これ、死ぬやつだよね

「はぇっ?」

目の前の光景に、理解が全く追いつかず間抜けな声が漏れてしまう。

薄汚れた漆黒のローブを纏うのは、骸骨。

普通なら動きも喋りもしないはずのそれが、動いて喋るのだから変な声も出てしまうというものだ。


「どうやってここまで来た?ここに至るまでのダンジョン内に侵入者の気配はなかったはずだ。」

暗い眼窩の奥に見える赤い光が妖しく光る。

朽ち果てた玉座のような椅子から立ち上がり、ローブを揺らしながらゆっくりと近づいてくる。

どうやってここに来たかだって?

そんなのこっちが知りたいよ!!

そんな反論が頭に浮かぶも、凶悪で圧倒的な強者のオーラを纏う骸骨を前にただ震え、怯えることしかできず、もはや声すら出せない。それは生物としての本能的な恐怖に他ならず、骸骨が俺に死をもたらす者だと理解させられる。

「その赤子のような力ではここに辿り着くなど出来ないはず。・・・つまらん。500年ぶりに楽しめるかと思ったのだがな。なぜここに来れたのかは知らぬが、ここに来た自分の運命を呪うがいい。」

表情など無いはずの骸骨が嗤った気がした。

次の瞬間、熱い何かが顔の横を何かが通り抜けた。

ドッゴーン!!

バッと、後ろを振り返ると直径3メートルはあろうかという赤い火柱が立ち昇り、その炎は渦を巻きながら周囲の岩石を溶かす。

「あつっ!!」

遅れてやってきた熱風に腕で顔を覆う。

「な、なんなんだよ、これ…」

しばらくして火柱が消えた後には、ガラス化し滑らな表面になった地面と岩が残り、炎の威力をまざまざと見せつける。

「すまない、私としたことが外してしまった。怖がらせるつもりは無かったのだかな。」

恐怖と驚愕で動けずにいる俺に骸骨が言い放つ。

「ひっ!これ、し、死ぬやつ?」

呆然といま起きた光景を見ていた僕に掛けられた声に驚き、僕の情けない声が空間に響く。

骸骨の表情は何も変化が無いはずなのに、愉悦の笑みを浮かべているのが理解できる。

「ふ、ふははは!そうだその顔だ。恐怖に歪むその顔だ。鑑定しても一般人以下のステータスのお前では戦いを楽しむことも出来ない。そのような者が私に献上できる物は、その恐怖に染まる表情くらいだろう。その顔で死ぬ前に少しは私を楽しませろ。」

ザシュ!

左腕から鮮血が飛ぶ。

「あぁっ!くっ!痛い!」

慌てて右手で傷口を押さえるが、血は止まらない。

チラッと後ろを見れば、岩の壁に1メートル程のえぐられたような傷が出来ている。

見えない刃物で斬られてるみたいだ。

ザシュ、ザシュ!

「ぐぁ~~!」

右足と左足も斬られ、堪らず崩れ落ちる。

「なんで、なんで、こんなことを…」

返事があるとは思わなかったが、聞かずにはいられなかった。だから、答えが返って来たことに驚く。

「なに、ただの退屈しのぎだ。ここは世界最悪のダンジョン【ペッシモス】最深部。そして私はここのダンジョンボス【不死の王】。元は人間だがね。闘いと魔法に全てを捧げ、永遠の命まで得て最強に至った。だが、神の怒りを買ったらしく、このダンジョンに繋がれている。」

「か、神の怒り?」

「なに、世界で殺戮と破壊を繰り返しただけだ。ありとあらゆる種族を殺し、その力を得て最強となった。ふふ、威勢の良かった者共が、恐れ慄き、死ぬ間際に恐怖で顔を引き攣らせながら死んでいくのが堪らないのだよ。そして、神の怒りを買ったわけだ。だが、神にも理があり、世界への大きな干渉は禁じられている。神は私を殺したかったようだが、ここに封じ込めるのが精一杯だったということだ。今は、稀にこの場所まで辿り着く事が出来た者との闘いが私の唯一の楽しみなのだよ。」

骸骨の言葉からは、生命を刈り取ることを純粋に楽しんでいることが伝わってきた。そんな思想は全く理解できないし、魔法だとかダンジョンだとか骸骨の言っていることの半分良く分からない。

ただ唯一分かるのは、骸骨がこれから僕を楽しんで殺そうとしていることだ。

「こんなわけのわからないことろで、死にたくない。」

恐怖に染まりながらも骸骨を見据え、口から漏れた声は

「いや、お前はここで死ぬのだ」

醜悪な笑みを浮かべる骸骨に否定され、死の宣告が告げられる。

どうしたらいい?

戦うか?

あんな力を持ってる化け物とどうやって?

逃げる?

足を怪我した状態で逃げられるのか?

そもそも、ここはどこだ?どうしてこうなってるんだ?

あまりにも現実離れした状況に、考えがまとまらない。

すると、ふわりと骸骨の周りに複数の拳大の石が浮かぶ。骸骨が嗤う。

嫌な予感がすると思った時には、すでに石は動き出している。

ヒュン、ヒュン!

風切音を残しながら僕に向かって来た石は、顔、腹、足と身体中にぶつかり激痛をもたらす。

明らかに嬲ろうとしている。

すぐに殺すなら、あの骸骨はもっと強い力を使えるはずだ。

「ぐっ、ぐぁ、ごはっ。はぁ、はぁ」

激痛の中で骸骨の方を見ると、石と一緒に火球が浮かんでいる。

ボコ、ガスッ、ジュ。

「ぐぁ、あぎっ、はぁ、はぁ」

石で打ち付けられる痛みに加え、火で焼かれる痛みが加わる。

こんなのどうすればいいんだよ。

あんな化け物にどうしたらいいんだ。

その痛みが、徐々に僕から生きようとする意思も奪っていく。

もう視界も霞んで、骸骨の姿もぼんやり認識できる程度だ。

「もう終わりか。初級とも言えない魔法数発で抵抗もできんか。つまらん。一瞬威勢の良い目をしたかと思ったが、大して楽しみを与えてはくれなかったな。もう、終いにしよう。」

明らかに骸骨の雰囲気が変わった。

禍々しさが増し、もはや僕に何の興味も無くなったことが分かった。

骸骨が身体の前で右手をかざすと、真っ黒な球が生まれる。

ズリッ。

ほとんど動かない身体を引きずって後ずさる。

あれに触れてはダメだ。理屈ではなく本能が告げる。

「ほう、感じるか、この禍々しさを。【混沌の悪食】という呪いに近い魔法だ。お前が恐れる夢を見せ精神を侵し、身体の中を虫が食い散らかすように激痛を与えながら体内から肉体を壊していく。デメリットとしては、直接相手に触れなければならないところか。さぁ、最後に怯え、苦痛に歪む顔を私に見せながら死んでくれ。」

ローブを揺らめかせながらゆっくりと骸骨が近付いてくる。

「くそ、くそ」

迫る死を目前に言うことを聞かない身体を強引に動かし、最後の抵抗を試みる。

少しでも距離を稼ごうと後退りするが、実際は数センチも動けていない。そんなことは分かっているが、少しでも死から遠ざかりたかった。

地面に着いた手に小さな石ころが触れる。

「この!」

力の入らない腕で投げた石ころは、ゆっくりと放物線を描いて、


コツン


と骸骨の胸に当たった。骸骨の顔に驚きが見える。

「ん?…ふ、ふは、ふはははは。そうか、あまりに長きに渡り誰もここに来なかったゆえ、常時発動の完全防御スキルも解除していたのだったわ。これはあまりに久方ぶりに身体に何かが当たる感触を味わった。お前に褒美をやろう。最後の最後に面白いことをしてくれた礼だ。この【混沌の悪食】をお前に食らわせてやりまで、最後の抵抗をしてみるがいい。私はこのまま防御スキルを使わないでいてやろう。」

褒美と言うくせに、ダメージが与えられるとは微塵も思っていないその態度に悔しさが募る。

分かっている。あんな化け物に石ころを投げつけたくらいでどうにかできないことも。

でも…、何もしないまま死ぬわけにはいかない。 

「このぉ!死んでたまるか!」

動かない腕を無理矢理動かし、近くにある石を手当たり次第に投げつける。

拳くらいのものもあれば、爪の先ほどの小さなものまで、片っ端から投げつける。

しかし、骸骨は何の痛痒も感じていない。

僕の抵抗が無駄だと理解させ、絶望に染めるのを楽しむように嗤いながらゆっくりと近づく。あと数歩で骸骨の手が僕に届く。

近くにあった石ころも尽き、なんとか他に投げつけられるものがないか探す。

「くそぉ、もうダメなのか…」

その時、必死に身体の周りを探っていた右手にズボンのポケットから転がり出た硬い何かが当たる。

それが何なのか確認することもなく、僕は骸骨に向かって投げつけた。

もう身体も限界で、力なくふわりと飛ぶそれは


コンッ、パシャ


と骸骨に当たるのだった。

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