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第三話 元魔王と翌日


翌朝、玄関を開けたその先には、先日の少女…白鳥萌香の姿があった

ビクッとこちらを見つめ、あたふたしだす。


「あっ、えっ…と、あの…」

「監視の続きなら好きにしろ。どのみち俺に拒否権はないみたいだしな」


改めて見れば、見覚えのある女子制服。近所にある中学校のもので、彼女が中学生であることがわかる。


こんな幼い少女を戦わせているというのか…


「そうじゃなくて…その…―――ごめんなさいっ!」


萌香は勢いよく頭を下げる。どうやら先日の襲撃の件について謝りに来たらしい。

今後は気を付けるように、とだけ伝え、俺は歩き出す。


萌香は恐る恐るといった感じで後ろをついてくる。昨日のことをまだ引きずっているのだろう。

すると、あのっ、と萌香が口を開く。


「本当に、人じゃないんですか…?」

「さぁな。そう思ったから攻撃したんじゃないのか?」

「…そう、なん、ですけど…」


歩みを止めず、視線だけを向ける。


「俺も詳しいことはわからん。だがそのミミキュとやらが言うには、体は人間で魂が異物、だそうだ」

「それって…」

「俗にいう転生というやつだ。記憶を引き継いでこの世界に転生した」

「転生って、あのですか?」

「ああ、どうやらこの世界の人々は異世界転生モノとやらが好きらしいな。広告なんかでもよく見る」


確か「な〇う」というのか。確か「な〇う」とかいう投稿サイトだったか。どこの世界も、都合よく作られてなどいない。それでも、知らない世界に想いを馳せるのは、悪くない。


もっとも、百軍は一見にしかずと言うように、実際に体験するのとでは天と地の差だ。当事者の俺が言うのだから、間違いない。


「…なんか楽しそうですね…?」

「あぁ、すまん、ただの考え事だ。それで、ほかに質問は?あれこれ聞いて来いと言われているのだろう」

「そうですけど…じゃあ、どうしてこの世界に?」

「知らん。勝手にここに生まれた」

「ほかの異星人たちとは…」

「無関係だ」


そんな調子で歩いてすぐ、萌香は学校への道が違うためそこで分かれた。


「お前はついてくるんだな」

「ええ、それが仕事ですから」

「ストラップはつけているぞ」

「ええ、わかっていますよ。ですが、それだけでは正確な監視はできませんから」


学校の中はどうするつもりだと問うと、そこはストラップ越しに監視する、だそうだ。



   *   *   *



学校が近くなると、徐々に人が増え始める。

と、後ろから駆け寄る人影が一人。


「よっ、おはよう勝間!」

「おはよう」

「どうしたよ、辛気臭い顔して」

「いや、ちょっとな。つい昨日ひどい目にあって、少し疲れているんだ」

「お前がそんなになるほどって何があったんだよ…まぁ気ぃ付けろよー、んじゃ先に行ってるわ」

「ああ」


それからも、見知った顔とすれ違う度に、軽く挨拶を交わし、少し騒がしい教室に足を踏み入れる。


窓際の後ろから二番目、そこが俺の席だ。

カバンを机の横に掛け、投げ出すように椅子に座り、深く息を吐く。


「おはよう勝間君、この前のテストわかった?」

「おはよう、多少はな。大問4のあたりの問題は、少し手間取った」


いつも通りの、ただ見知っているだけのクラスメイトとの当たり障りのない会話。

この何気ない平和な『普通』が、俺の数少ない幸せを感じる瞬間だ。


ふと、カバンのストラップに目がつく。

…今この瞬間も、こいつは俺を見ているのだろう。

まさか、年端もいかない少女とそのマスコットが俺を監視しているとは誰も思うまい。たとえ知られたところで、きっとお笑い種だろう。当事者としては、たまったものではないが。


チャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。

そうして、一日が始まり、時は進んでいく。


―――こうしていられるのは、あとどれくらいなのだろう。


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