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第3話

   

 今に至るまでの過程を軽く頭の中で振り返ってから、アノードは改めて、魔王の様子に目を向ける。

 この中庭までアノードは騒々しく、ガシャンガシャンと金属鎧を鳴らしながら来たわけだし、先ほどは直接魔王に呼びかけたくらいだ。だから魔王の方でも彼の存在には気づいているはずなのに、魔王は臨戦態勢をとらず、のんびりと桜を眺めるままだった。


 確かに桜は美しく、また珍しい花でもある。桜が植えられている場所は一応、この王宮以外にもあるものの、それらは時期的に既に全て散っているはず。

 ならば魔王は、追い詰められて一人になった自分の姿を、最後に残った桜に重ね合わせているのだろうか。そうやって感慨に(ふけ)っているのだろうか。


 魔斬剣(デモン・ブレイド)の切っ先を魔王の方へと向けながら、アノードはふと考えてしまったが……。

 まるで彼の思考を読んだかのように、ちょうどそのタイミングで魔王が振り返り、アノードに質問を投げかけてくる。

「勇者を名乗る者よ。何故(なにゆえ)ここだけ桜が散らず、まだ咲いているのか。その理由はわかるか?」


「なぜ、わざわざそんな質問を……」

 口ではそう言いながらも、アノードは真面目に考えてしまう。

 元々彼は農村で暮らしてきたのだから、たとえ農作物ではないにせよ、植物にはそれなりに詳しい。桜についても仲間や他の勇者たちより詳しいし、ましてや人間ではない魔王よりも造詣が深いのは当然。そんな自負があった。

「よし、教えてやろうじゃないか。よく聞けよ、魔王。そもそも桜という植物は……」


 桜は、この世界で自然に生まれた樹木ではない。

 ちょうど現在世界が魔族に(おびや)かされているのと同じように、数千年前にも一度、世界は大規模な侵略を受けたことがあった。

 その時も人類は絶滅の危機に(おちい)ったが、やはり神の助けを得て、侵略者の駆逐に成功。全てが終わった後、その記念として神から贈られたのが桜という植物だった。

 もちろんこれは伝説に過ぎないけれど、桜の特別な美しさや希少性を考えれば、単なる作り話とも思えない。おそらくは真実なのだろう、とアノードは考えていた。


「……その伝説によれば、ちょうどここが最後の決戦の舞台であり、この場所で完全に侵略者を排除したそうだ。だから記念となる桜も、ここは最初の一本として、神が自ら植えてくださったという。そんな由緒ある場所だからこそ、最後まで残っているのだろうよ」

 魔王に対してそう言ってのけながら、アノードは内心、ちょっとした皮肉を感じていた。

 先ほど自分は「ちょうど現在世界が魔族に(おびや)かされているのと同じように」と言ったが、今回ここで魔王を倒して終わるのであれば「ちょうどここが最後の決戦の舞台」という点でも、伝説と一致するではないか。

 つい口元に笑みすら浮かんでしまうほどだ。しかしそんなアノードに対して、魔王はフフンと鼻で笑いながら返していた。

「愚かな……。そんな誤った作り話を信じているのか、人間は。すっかり騙されておるのだな、神々に」

   

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