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Precognitive dream

作者: 黒猫

ここはどこ。あたたかい。


不安な気持ちがどんどん小さくなる。


全ての力の原点のような力強さと母から感じていた優しさで包まれている不思議な感じ。


真っ白な光を浴びた私は、ゆっくりと目を開いた。


鼻の奥にツーンとくる匂いがある。何これ。


どうしてこんなにカビ臭いの。


辺りを見渡すと泥と枯草で出来ているのか、鳥の巣のような場所に私はいた。


それに何だか視線が低い。


横で二羽の雛鳥が大きな声で話をしている。


「何でいつもお兄ちゃんばっかりたくさん食べてるの!」


「位置取りが悪いんだよ。」


雛鳥の喧嘩か、ここあなた達の家なのか。


「私と勝負して負けたらお兄ちゃんがここから出て行って!」


「勝手にしろよ、お前が俺に勝てるわけないだろ。」


「やってみないと分からないじゃない!」


その時、妹鳥の体が赤く光った。


その光は兄鳥を包み込み次第に大きくなっていく。


どんどん燃えている。


この場所も無くなってしまいそうだ。


「火に油を注いだな。苦水でも飲むか?」


兄鳥は、冷静に自分の中から青い光を放つ。


燃える大きな火が一瞬で消え去った。


空を見上げると雨が降っていた。


呼んでしまったみたいだ。


そうだ、私達は、自分を守るための魔法みたいなものを使うことが出来るのだ。


ただの雛鳥ではないのだ。


「お兄ちゃんずるい!私の火の力が全く役に立たないじゃん!」


「お前の使い方が悪いんだ。」


兄妹鳥達は大人しくなったが、雨は、小降りから強くなり次第に風も吹き始めていた。


豪雨に変わるそんな予感がした。


「兄さんの使い方も悪いんじゃないの?」


気が付くと私は、目の前にいる兄鳥に話しかけていた。


何で兄さんと言ってしまったのかは分からないけど、ここではそうなんだと勝手に分かったつもりになっていた。


「確かに、俺の力がきっかけになったのか今からやばいことになりそうだ。家がなくなるのは決まりだな。」


「最悪、みんなであの世に行く可能性もあるよ。」


「えっ!?何とかしてよ!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


自分の力がどんなものなのか、漠然としている。


でも分かるのはこの状況では役に立たないことだった。


妹が、泣いてしまう。


「希里、どうする?」


兄が私を頼る時は、自分の力ではどうしようもないことが分かった時だ。


それは、今までに一度しかない。


あの時とは違う。


私達の命が消えようとしているんだ。


そんな大切なもの、子供がどうにか出来る重さじゃない。


でも、大人なら救える力を持っている。


「お父さんとお母さんがきっと助けてくれる。帰って来てくれることを信じて待とう。」


「その前に、私達落ちちゃったらどうするの!死んじゃうんだよ!」


不安な気持ちを和らげるのはきっと私達の役目だ。


兄もそのことを理解している。


「いつもの威勢はどうした?俺にずっと怒れ。こうなった原因なんだから。」


「だって…私も悪い…」


「もう考えるのはやめよう。大丈夫。」


私は、妹に寄り添った。


兄もそんな私達に顔を近付けた。


三羽の雛鳥が集まって目を閉じる。


家はボロボロなのに、雨は容赦なく地面に叩きつけていた。


「お父さん…お母さん…」


妹の小さな声と同時に、世界が逆さまになった。


私と兄は妹を庇いながら下へ向かっていく。


少しでも落下時、痛みがなければ妹だけは助かるかもしれない。


覚悟を決めたその時、自分がゆっくり動いている気がした。


死ぬ前ってこうなんだと思った。


でも、何だかとても温かくて懐かしくて安心する。


目を開けると、そこには青、赤、白の色を持つお母さんとお父さんが心配そうに私達を見つめていたのだ。


「気付いたのね。良かったわ。雨が強くなったから急いで帰って来たのよ。」


「お母さん…!」


妹は、泣きながら母にスリスリしている。


その表情は、先ほどの不安なんか何も感じない踊り出してしまいそうな笑顔だ。


「さすがだな母さんは。」


父は、あちこち擦り傷が出来ている。


それなのに自分のことを気にせず、私達のことばかり見てくれていた。


「父さん、時間をゆっくりにしたの?」


兄が駆け寄って行く。


「ゆっくりにしても焦ってしまった。みんなを助けられたのは良かったんだけど、そのまま落ちてこんな姿に。格好悪いな。」


大爆笑している父に私は、気付けば強く強く抱きついていた。


「ありがとう…お父さん…」


感謝の気持ちは伝えられる時に伝えないと、後悔してしまうんだ。


私は、誰かにそのことを伝えたいと思った。


自分のことばかり考えてしまうのだから。


「希里、あの力使ってくれないか?」


父に言われて私は気付いた。


自分の力が役立つ時は今なのだ。


「生み出してくれ、希里。」


「お姉ちゃん、新しいのお願い!」


「希里ならきっと出来るわ。」


みんなの期待に応えられるだろうか、緊張している。


頬も熱くなってきた。


「希里、自信を持て。大丈夫。失敗していいんだ。みんなお前を支えてくれている。ゆっくりでいいから前に進みなさい。」


父がいつものように頬を引っ張ってくれていた。


私の中で何かが生まれようとしている。


みんなの言葉が真っ直ぐ心に響いたから。


真っ白な世界でみんなが必要としている居場所をこの手で作るんだ。


「私の力は夢だ。叶えたい夢なんだ。」




目を開くと、そこにはいつもの光景があった。


私の家だ。


私達の部屋だ。


二段ベッドがあって上にはいつも兄が寝ていて、横では妹が一緒に寝ている。


私達は、雛鳥じゃない。


人間なんだ。


目の前にある鏡台で自分を見ると、肩まである黒い髪が相変わらずはねていた。


季節は冬なのにパジャマは、首元のあたりが緩くなっていてヨレヨレだ。


お母さんに新しいものを買いなさいと朝言われたことを今、思い出した。


「希里、起きたのか?」


「兄さん、音うるさかったね。ごめん。」


「今日は、うなされてなかったぞ。」


青のアイマスクを取った兄は、寝起きなのに目を見開いていた。


じっと私を見て、そして笑ってくれる。


「そろそろ自分を大切にしたらどうだ?」


「ほっといて。」


いつものやり取りが私には、心地良かった。


スヤスヤと幸せそうな顔で寝ている妹を見る。


寝相が悪いので、足が毛布から出てしまっていた。


「お姉ちゃん…お兄ちゃん…待ってた…私も一緒だよ…」


かわいい妹だ。


「あの時、俺達だけで本当に良かったよな。」


「うん、母さんのお腹の中だったからね。守られていたんだ。私達はどうしようもなく不安だった。」


小学一年の私と三年生の兄は、あの日、仕事から帰る父を待つためいつものように家にいた。


忙しい父とはどこにも遊びになんて行けなかったけど、家でたわいもない話をしたりみんなで決まって一緒にご飯を食べる時間が私は大好きだった。


母は、臨月でお腹の中にいる妹と祖母の家に行っていた。


私達の家は一軒家で隣の家は、いつもお世話になっている百合子ばあちゃんの家がある。


何かあったら頼ってねと言ってもらっていた。


その日は、大雨で雷も鳴り出していつも兄と見ているテレビが突然消えてしまったのだ。


電気も消えてあたりは真っ暗になった。


『どうしようお兄ちゃん…』


『落ち着け、すぐ明るくなるから!』


私達にとっては、1分が物凄く長く感じられるぐらい不安な気持ちで、いつものように父が帰って来ることを信じて待つことが出来なかった。


『百合子ばあちゃんのとこ行こう!』


『車が今日なかったから家にいないかもしれないぞ。』


『行ってみるの!』


後から聞いたことだけど、百合子ばあちゃんはその時、お孫さんの家に行っていて大雨の影響で、帰って来れなくなってしまっていたのだ。


『やっぱりいないな。どうする?』


頼りの兄も悲しい表情になった時、私はこのまま全てが暗いままだったらどうしようと考えてしまったのだ。


光も戻らない、父も帰って来ない、みんないなくなる。


だから、探しに行かないといけないと思った。


私が行かないと、ダメなんだ。


『お兄ちゃん、私、お父さん探しに行くから家で待ってて。すぐ戻って来るから!』


『待てよ!今、雷が落ちたんだぞ!外は危険だ!』


私は、パニック状態だった。


兄の言葉が全く耳に聞こえなくて、そのまま傘もささずに家を飛び出していた。


服も髪もびしょびしょになった時、2つの光が正面から見えて私はその光に手を振った。


それは、車の光だったのだ。


街灯もついていない道路で私は、物凄く大きな音と共に意識を失った。


目が覚めたら病院にいて私の体は無事だった。


11月8日のあの時間、走って帰って来た父が身を挺して私を守ってくれたのだ。


父が暗闇の中で、見つけてくれたことは奇跡だとみんなが話していた。


私が嬉しかったのは一瞬で、ずっと気持ちが落ち込んでいた。


悲しすぎて乗り越えられないと思った。


家族みんなで話し合って、父は私を救ったヒーローであの世できっと自慢していると考えようって決めたのだ。


それに父は、あの時本当に何か力を使ったのかもしれない。


父との時間はいつもゆっくり過ぎていたから。


人はそれを奇跡と呼ぶのかな。



「私の姿が変わっても父さんは助けてくれた。」


「前に進めって?」


兄から父と同じ言葉を聞いたので驚いた。


日に日に父に似ているのだ。


「自分の夢を叶えるために、自信と勇気をもらったよ。」


「格好いいぞ!父さん!」


わしゃわしゃと頭を撫でられた。


お父さんが自分を通して褒められていることが、とても嬉しかった。


その時、下から母の優しい声が聞こえる。


「みんな起きなさい!学校に遅刻するわよ。」


兄は、まだ眠たそうな妹の頬を引っ張っていた。


どんどん赤くなっている。


「痛い…痛い…お兄ちゃん痛い!」


妹は、ベッドの上に置いていたお気に入りのスティックを兄に向けた。


先端にはおもちゃのルビーがついていて、赤く輝いている。


「朝だぞ。毎回起こしてもらってるんだから文句言うな。」


「お兄ちゃんの意地悪!」


二人の大きな声を聞きながら私は、自分の机の引き出しから一冊の日記帳を取り出した。


そして今日11月8日に起きたことを記す。


『Precognitive dream』


大切な人達が過ごす家を作る、未来の自分に想いを込めて。


私は、一歩ずつ前に進むのだ。


みんな大切なことを教えてくれてありがとう。


『お父さん、行ってきます!』

11月8日は、自分の誕生日です。


小さい頃、私は夢を持っていましたが楽しいことばかりではありませんでした。


周りの方に応援してもらえた時もその気持ちに応えないといけないと、考えてしまうのです。


自分のことばかり見ていると、夢はある日突然見えなくなるのかもしれません。


寝ている時間に見る夢は、私は気になっている人や場所、ものが登場すると思っています。


現実と夢を通して、主人公の希里は自分が求めていた答えを知ることが出来ました。


彼女が探していたから見れたのだと思います。


Precognitive dreamは、『予知夢』という意味です。


前に進んで行く途中に夢があるのなら、希里は今、一歩を踏み出したことで予知夢にしたのだと私は思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] お父さん、そんなことがあったんですね。 彼女が悲しい出来事を乗り越えて前へ進めますように!
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