09話 ケイとセット
09話、投稿しました。
◇ ◇
食堂で、前世や空気中の魔素を使う秘技の事は伏せた上で、これらの話をざっくりとした。話が終わっても暫く誰も口を開かない。あれ? 伝わってない? 説明が下手だったかな? 剣士二人、ケイとセットは首を傾げながら互いを見ている。レイ王子は腕を組んで天井を見上げ、フェル嬢がそれを見つめる。リサ嬢とリリィ嬢がそんな二人の様子を更に伺う。ニコは今までの苦労を思い返してか、はぁ、と溜息をついていた。
「つまり、あのジョウキキカンとやらは、君たちが作ったと?」
レイ王子が静寂を止める。いつの間にか笑顔が消えて真顔だ。
「作ったと言うか、原形になる物が偶々上手く出来たと言うか・・」
冷たさを感じる視線に冷や汗が滲む。
「ふむ・・」
レイ王子は腕を組み直し、また虚空に目を向ける。
「レイ、ジョウキキカンって何ですの?」
隣に座るフェル嬢が虚空から引き戻す。レイ王子は笑顔に戻り、
「新しいオズの魔法さ。聞いた事くらい有るだろう?」
「ええ、名前だけは。先程羽根車がどうとか伺いましたけど、どう言った魔法ですの?」
「そうだね、まだ未完成だし一部の者にしか知らされていないから詳しい事は控えるが、とても素晴らしい物さ」
レイ王子がやんわりと口止めをするので、その件はそこでお終いになった。いずれ師匠が実用化に成功すれば、誰もが知る物になるだろう。
その後、俺たちは食事をしながら互いの事を話したりして大分打ち解けた。第二王子にその婚約者と取り巻き、凄腕剣士二人に護衛役、そして可愛い幼馴染。入学初日から俺の周りはオールスター感が半端無いのは、ラノベ主人公っぽくなって来たけど、素直にツイてると思って良いのだろうか。良いんです! って誰か背中を押してくれー。
◇ ◇ ◇
アルのお話が終わった。お鍋の蓋が飛んで行ったのはわたしのせいなので、それをアルがどう話すのかとヤキモキしたけど、上手く誤魔化してくれたみたい。はぁ、良かった。せっかくお友達が出来たのに、とんでもない事をする変な子と思われたく無いわ。お話を聞いた他の人たちは皆キョトンとしている。それはそうよね。わたしもお師匠様から課題を出された時は、何を作るのか分からなかったもの。
でもアルならきっと出来ると思ってた。小さい頃からわたしの知らない事を沢山知っていたし、何か普通じゃない感じがしていたから。勿論わたしも頑張って一緒に沢山考えて、一緒に作ったのがあの蒸気機関だけど、アルが居たからあれが生まれたんだわ。アルが居たからわたしは王都に居る。でも、アルが居なかったら樹液を使い切ってお父さんに散々怒られる事も無かったかな・・
◇ ◇ ◇
午後の授業を無難にこなし、と言っても最初だから大した内容じゃ無かったけど、ニコとお互いの経緯も説明し合った。きっかけは違えど二人が似たような境遇になったのは、レイ王子とフェル嬢が婚約者だった事に原因が有ったらしい。と言うか、俺たちと友人になるのを互いに競っていた節も有る。有り難いのか有難迷惑なのかは今の所は分からないが、平民二人でコソコソ過ごすよりは面白くなりそうだから、前者と思う事にしよう。王族貴族とタメ口で話すのは周りの目が非常に気になるけれども、彼らと付き合う条件として割り切るしか無い。ニコともそう話した。
下校の時間になり、学園から道を挟んだ向かいに建つ寮に戻って、ケイとセットと共に夕食を取る。流石にここではニコと一緒では無く、彼女は隣の女子寮だ。これまた広々とした食堂の前に一人で居た俺を、二人の方から誘ってくれた。まだ午前の件を気に病んでいるらしい。良い奴らじゃないか。そして、さっきはレイ王子の手前もあって黙っていたが、やはり蒸気機関の事が気になるらしく、
「なあ、ジョウキキカンってのは何なんだ?」
ケイが大きな体を乗り出して聞いてくる。初等物理も知らない相手に説明するのは難しいんだよな。どう言ったものか。
「えーと、風魔法に似ているかな。風魔法って風を起こして物を動かしたり出来るだろ? あれを魔法無しでやる機械だよ」
「キカイ?」
「あ、その、あれだ、カラクリ」
機械って単語すら無いんだよな、この世界。言い直すのがちょっと面倒くさい。
「なるほど、カラクリ工芸の一種なんだね」
セットが言う。そう、それ。
「それは王室が秘密にするほど凄いものなのか?」
追及を続けるケイ。
「うーん、どうだろ。確かに今までに無かった物だけど、そのうち当たり前の物になるんじゃないかな。秘密になっているのはちゃんと完成していないからだと思う。中途半端に話が伝わって変な騒ぎになるのが嫌なんじゃないかな。あやふやな知識で真似をすると怪我をする人も出るだろうし」
「そうか。それでそのカラクリをどう作って何に使うのかは、やはり俺たちには話せないのか?」
「うん・・ ごめん」
俺的には別に良いんだけど、きっと理解出来ないだろうし、何よりレイ王子が秘密にしてるっぽいから勝手に喋るのは不味いよね。秘密なら秘密って言っておいてよ師匠。そしたらそれも伏せて話したのに。
「いや、いいんだ。無理を言って済まなかったな」
「アルの言う様にそのうち当たり前になれば、僕らも知る事になるよ。その時が楽しみだね」
「ああ、そうだな」
「それよりもさ、アルは本当に魔法が使えるのかい?」
「あー・・まあ、一通りは・・」
「君のご両親も使えたりするの?」
「いや、家族で使えるのは俺だけだよ」
「ニコも使えるんだよな? お前の居た村ってのは、大したもんだな」
「いやあ、偶々だよ。そんな大した事は・・」
「謙遜するなよ、成り行きはともかく俺たちは友達同士だろ? 成り行きはともかく」
「あの人、ちょっと強引だよね。でも、アルも居てくれるから少し気が楽になってるよ」
「?」
「ああ、王家と俺たち男爵家では全く釣り合いが取れないからな。お前が居る事で俺たちは真ん中の立ち位置で居られるって訳だ」
「あはは、なるほど」
そんな一幕もありつつ、食事を済ませ、自室に入って一息つく。部屋は個室で六畳ほどの広さ。なんかホッとする。他の施設みたいに広々してたら持て余しまくりだったよ。貴族も他人の目が無い所ではこんなもので良いのかな? 中には大きめのベッドと小さな机と鏡付きのクローゼットだけ。調度品のやたら凝った装飾が趣味に合わないけど、このほど良い狭さが落ち着くわー。
すると緊張が一気にほぐれたのか、湿布の効果が切れたのか、背中の上の方が酷く痛み出す。マジで痛い! 寝られないくらい!
やっぱりツイてなーーーーい!!
◇ ◇
ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! やっとタイトル回収です。今週中にもう一話投稿出来ると思います。