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08話 課題と魔法

本題っぽくなって来ました。


◇ ◇



まず課題について。鍋爆発事件の詳細を聞いた師匠は、この爆発力を何かに利用できる筈だと考えていた。つまりそう、蒸気機関だ。勿論そんなものはこの世界には存在しない。それを俺たちに作れと言う。


いやちょっと待って。いくら水の三態を知っていても、蒸気機関として完成したユニットを作るのは無理だって。お湯を沸かすのと、そこから動力を取り出すのは別次元過ぎる。師匠、非現実的じゃない? アルキメデスもガリレオガリレイも作っていないんだよ? ラノベでは転生者が蒸気機関も醤油も味噌もサクッと作っているけど、俺にそんな知識は無い。前世では何の取り柄も無い落ち零れ高校生だったんだから。


しかし師匠は時間がかかっても良いから作れと言う。


「時間って、どれくらいの・・」

「五年だ」


あ、割と現実的だ。五年かあ。五年あれば出来そうな気も、いやでも難しいような。前世で十七年しか生きていない、この世界ではまだ九歳の俺にとっては、五年ってとても長い時間に思うけど、難易度がなあ。作り方が分かっているならともかく、一から考えるとなると・・


「分からない事があれば聞きなさい。いいね。そして五年後、クリアしたと私が判断したなら、君たちを王都の学園に推薦しよう」

「王都の学園?」

「教えたはずだが?」

「いえ、王都に学園があるのは教わりましたが、推薦するってどういう」

「そのままの意味だ」

「なんでまたそんな・・」


王都には貴族だけが通う、前世で言う高校と大学の中間くらいな学園がある事はこれまでに師匠に習って知っている。興味が無い訳では無いが、辺境の開拓村からいきなり最高学府に放り込まれて貴族に囲まれるのはちょっと・・。せめて最初は平民でも通える領内の下級学校、農村の子供は滅多に通わないけど、へ行くとか、段階を踏もうよ。


「あの、わたしもですか!?」

「君たちを、と言ったが?」

「!? アル! 王都だって! わたし行きたい!」


あ、またスイッチ入ったなこれ。キラキラ輝くニコの目を見て、俺は抵抗を諦めた。それから五年、まず密閉環境を作るのに悩み、動力の変換方法に悩み、制御方法に悩み、水の循環方法に悩み、とにかく悩んだ。悩んだのは仕組みだけではなかった。材料は頼めば師匠が用意してくれたが、思うような道具が無い。そのためまず道具を作る事から始めなければならなかった。俺たち自身では作れない難しい道具やパーツは、師匠経由で王都の職人に作ってもらった。


そしてついに、密閉容器の中で発生した蒸気が羽根車を回し、通り抜けて水に戻ったのを循環させて再び加熱する仕組みを作り、最終的に師匠から合格を貰った。羽根車の安定確保などは師匠が長年改良を加えて来た水車の技術を応用させて貰った。実は四年目にほぼ同じものを作って見せたのだが、出力が弱すぎると不合格だった。そこから一年、蒸気を羽根車に当てる際に可変の絞りを加えて噴き出させる事で出力アップと制御性を実現し、合格にこぎ着けた。師匠曰くまだまだ実用にはほど遠いとの事で、自身が研究を続けるのだと。


俺たちも改良を続けたいのは山々だったが、合格した事で他にやる事が増えてしまい、ほぼ手つかずになって行った。学園に通う為の追加講義を受けなければならないからだ。王都で生活する上での諸々の作法、食事、服装、会話その他から始まって剣の扱いに至るまで。特に剣は今まで全く使った事が無かったので一から教わる事になる。今十四歳で入学するのは十五歳。一年しかない。特訓、と言って良いハードな一年が待っていた。ちなみに師匠は剣の腕はからっきしなので、その友人だと言う別の貴族に教わる事になった。



◇ ◇



次に魔法について。魔法を使えない俺が何を教わるんだって話だけど、それこそが異世界賢者っぽくない師匠の、唯一異世界賢者っぽい部分に関わる話になる。師匠は色んなものを発明発見して、それらを普及させてきたが、一つだけ公表されていない物が有る。それが魔法の行使に関するある発見だ。そして、それこそが師匠の機械技術に対する執念を生んだ理由でもある。


この世界では、魔法は血に宿るとされている。正確には、魔法を行使する元になるもの、目に見えない魔素が血に含まれると考えられている。体内の魔素をコントロールして、様々な現象を起こす、それが魔法。それ自体は正しい。確かに人間の体内には魔素があるし、人間以外の動物でも体内に魔素を持ち魔法の様な現象を起こす種類も居る。いわゆる魔獣だ。


そしてより多くの魔素を持ち、より強い魔法を行使出来る者が権力者、王族や貴族になり、血統を重視する貴族制社会に発展するのは自然な流れだとも思う。実際に平民は魔素が全く無い人が半数を占める。残りの半数は魔素があっても魔法の行使には足りないのが大部分だ。俺もそうだった。そう、過去形。師匠は、この魔法の仕組みについて新しい発見をした。そしてその事を公表せず、ごく限られた人に発見した事実だけを伝え、詳しい事は胸の内に封印していた。俺たちに会うまでは。


発見の内容は、聞いてみると実に単純なものだ。魔素は確かに体内に”も”ある。体内の魔素が魔法のトリガーになっている事も証明されている。だが、体の外、つまり空気中にも膨大に、普遍的に存在する事を突き止め、それを利用する事に成功した。うん、ただの発想の転換。でもね、魔法って何よりイメージが大事なんだよね。空気中に魔素がある事を知らなければ、いくら存在していても無いのと同じなんだよね。目に見えないし。いやあ、先入観って怖い。


とは言え、トリガーである体内の魔素が全くない人には無意味だし、空気中の魔素を無限に使えるわけでもない。あくまでも体内の魔素と空気中の魔素を連結し、ごく限られた範囲で利用できるだけだ。それなりの訓練も要する。誰でも出来る内容の訓練だけど。そしてその効果は、量産型、もとい通常の魔法行使の三倍の威力を発揮する。三倍って数字、格好良い? 


うーん、俺にとっては非常に微妙な数字なんだよねえ。


俺の魔力の元になる魔素量は、最も多い人を十とした場合、三くらいだ。以前師匠が宝石の様な物を持ち出した時に既に調べていたらしい。あれ魔道具だったんだね。何の説明も無いまま指に針を刺されて血を取られ、結果も教えてくれなかったけど。ともあれ三倍すると九。魔法を行使するには五以上の魔素量が必要とされるけど十分に可能だ。学園に通う生徒は七以上の魔素量を持っているのが入学条件の一つ(被推薦者はパス)だが、それと比べても上の方になる。でも十の魔素量を持つ最強の相手には敵わない。微妙でしょ? 異世界転生だよ? 俺が最強じゃないの? ニコは四くらい。三倍すると十二なので無敵だ。絶対に怒らせてはいけない。


師匠の魔素量は俺と同じで三くらい。貴族でも稀に魔素量の少ない人が居るらしい。空気中の魔素を使って一通りの魔法は使える。これが普通の貴族並みに六とか七とかあれば三倍してスーパー賢者だったのにね。でも、貴族でありながら魔法が使えなかったからこそ発見できたのだとも思う。ちなみにこの十とか三とか四とか言うのも、師匠が発見した特殊な鉱石によって従来よりも正確に魔力を測れるようになり、国が定める正式な単位になっている。これを魔力階級と言う。俺の場合で言えば素が三階級で、見かけ上は九階級となる。


そんな訳で、俺たちは読み書き計算その他を引き続き習いつつ、更に蒸気機関の開発と並行して、空気中の魔素を使う訓練を行い、一年後には初歩的な魔法を使えるようになっていた。大変だったけど、魔法が使えるなんて、滅茶苦茶嬉しい! 異世界転生はこうでなくっちゃ!


訓練の最中、くれぐれも口外しない様に何度も念を押された。同時に、この秘密はいずれ他の誰かによって秘密ではなくなるだろうとも師匠は言っていた。そこから数年をかけて中級魔法、上級魔法とレベルを上げて行く。農業指導行脚を終えた師匠が王都に帰って殆ど村に来なくなってからは、覚えた魔法の精度向上と発動時間の短縮に勤しんだ。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 世界観が書けた所で連続投稿は一区切りにします。次回は来週前半の予定です。

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