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66話 凱旋

定時更新です。


◇ ◇



ユキの処遇は、結局王都まで連れて行って国王が裁きを下す事になりそうだ。だけどユキに侵略の意図は無いし、犠牲者も出ていないし、怪我人も事故の結果と言う扱いなら大きな罪に問われる事は無いだろう。国として被害を受けた事は確かなので、何らかの罰を与える可能性は少なく無いが、未成年だし今後の彼の振る舞い如何でそれも変わるかもしれない。


と言うのがレイ王子の見解だった。そして、魔獣の出現を再発させない為の一番の方法は、あの中州に返すのではなく、うちの国で預かる事だとも言った。故郷に近づくのも嫌がっていたので、連合国のどこかではなく、うちが良いだろうと。


あ、もうその先は言わなくても分かります。でもそうなるとあの近衛室、ちょっと狭くない? ケイにセットにもしかしたらエルフィーも来るよね? 入り切れるかなあ。まあその前に、俺は俺でやっておきたい事が有る。


「改めて自己紹介するよ。アルバス・エンデナこと鈴木新太だ」


トレンブルハールに着いてから、上手い事二人になる機会を作って温泉に入っている。特に裸の付き合いがしたいって訳じゃなかったけど、ここなら少なくとも女子に聞かれる心配は無い。


「ユキ・ザーラこと小林祐樹です。まさか俺以外に転生者が居たとは」

「ま、俺は一般の転生者だけどな」

「一般?」

「それよりも、今までの転移騒ぎについて確認したいんだけど」


すっかり態度も穏やかになり、転生者同士気が合う感じになってきたユキに、一つ一つ聞いて行った。



◇ ◇



「やっぱりただの偶然じゃないな」

「どういう事ですか?」

「俺の目的、最初に言ったよね?」

「神様に頼まれてどうこうって?」

「そうそれ。今迄の出来事、いちいち偶然が過ぎると思うんだよね。今こうして話しているのもその偶然の結果な訳で、まるで誰かに仕向けられたみたいじゃないか」

「神様ですか」

「証拠は無いし、責める気もないけどね」

「確かに転移先が変わるとか、神様の仕業だったなら・・」

「だろ? こんな話、この世界の連中に言っても信じて貰えないだろうが、俺たちにとってはお決まりのパターンだ」

「漫画やアニメで良く見ましたね。なるほど、しっくり来ます」


凶暴な角熊や火熊は戦闘力の高い俺たちの前に現れた。巨大海月も怪我人だけで済んでいるし山の中では大して動けなかっただろう。そして雷獣の襲来で国王の決断を促し、極め付けは俺たちが防塁建設現場に飛ばされた件だ。助かったばかりか結果的に戦力が増強されて直ぐに再び挑む事になった。


俺たちは何年も前から敷かれたレールの上を走らされていたんだ。なんともまあ、まどろっこしい事を。いくら神様が直接干渉出来ないからって、そこまでやるか!? それもこれも・・。


「まったく、神様をブロックなんかするから、大勢が巻き込まれる事に」

「もう解除しました」

「それで、何か言ってきた?」

「いえ、会ってません」


そうなのか。暫く様子見なのか、或いは俺たちに丸投げか? やっぱ今度会ったら文句を言ってやろう。


「そのうち何か言ってきたら教えてくれ」

「はい・・でも・・」

「なんだ?」

「真の魔王って奴を、本当に俺が倒すんでしょうか? 倒せるんでしょうか?」

「倒せるんじゃないの?」

「自信無いですよ! 転移魔法のお蔭でなんとか魔獣から逃げられる程度の俺が世界の脅威と戦うなんて・・」

「お前、魔法も剣もろくに習った事が無いんだろう? だったらこれから強くなるかもしれない。王都に行くのも良いきっかけになるんじゃない?」


て言うか、強くなるからこういう流れに誘導されているのだろう。足りなければ俺たちも戦力に数えているに違いない。一般の転生者に特別な仕事をさせるなら、もう一つくらい特典を貰わないと割に合わないな。今度会ったらそれも交渉しよう。


「おー居た居た、悪いな、遅くなっちまった」


ケイとセットがやって来たので話はいったん終わりにした。レイ王子とジンは騎士爵邸に留まっている。つい三日前までリサ嬢が来ていて、彼女が指摘した課題について相談したいと騎士爵親子から頼まれていた。


女性陣は入れ違いになった事を残念がったが、俺たちもじきに王都に帰るのだからすぐ会えるだろう。



◇ ◇



馬車の輸送を他の人に頼んで、トレンブルハールから全線開通したばかりの汽車に乗って王都へ帰って来た。出発した次の日には着いてしまう速さだ。やがてこの路線は、防塁へ向かう「西線」に対して「北線」と呼ばれるようになり、人や物の移動を劇的に変える大動脈となる。


「これが城壁の国・・」


連合国のどの街よりも遥かに栄えている王都の様子にユキが目を見張る。


「今日はこちらで泊まれる様に手配してある。皆明日の謁見に備えて休んでくれ」


レイ王子に案内されて王宮内の客間へ向かう。前に使った部屋と同じだった。ユキには別室が用意され、念のため扉の前に警備兵が立つ事になった。



そして翌日、身支度を整えて全員で謁見の間へ。今回は正式に玉座の前で報告するのだが、ほぼ全てレイ王子が対応してくれるとの話なので、むしろこっちの方が気が楽だ・・と思っていたのだけど、広間の大きさや雰囲気に圧倒されて、ただ跪いているだけで冷や汗が出そうになる。


特に知らない偉い人が何人も居るのが胃をキリキリさせた。あの人たち大臣とかかな。レイ王子のお兄さんも居るのだろうか。気になるけど今は視線を上げるのは止めておこう。


「皆おもてを上げよ。そう緊張せずとも良い。多少の不作法が有っても儂が許す」


そう言われて、息をするのを思い出す。多分王様の言葉は、俺やニコに対してよりもユキに対しての気遣いだろう。この国に取り込む為にもなるべく罪状が軽くなる方向に持って行くとの話だったので、不敬で罪が重ならない様に先手を打ったと見るべきかな。


「報告を頼む」

「はいっ」


レイ王子が順を追って丁寧に、それでいて簡潔に、事の顛末を澱みなく話した。王様は事前に提出されていた報告書に視線を落としたまま、時折頷きながら静かに聞いている。そして聞き終わると、


「ユキ・ザーラよ、我々に害を及ぼす意図は無いのだな?」

「全く御座いません! この度のご迷惑は私の未熟さ故。罰を受ける覚悟も出来ております!」


ユキは予めレイ王子と打ち合わせたセリフを情感たっぷりに言い切った。茶番だが、正式な場だからこそ茶番も必要なんだろう。ユキの演技力、もとい反省の態度に王様も納得の表情を浮かべ、裁定を下した。


「我が国民に怪我を負わせ、物品を破壊した罪により刑罰を与える。ただし、意図的では無いものと認め、二年間の奉仕活動をもって刑罰に代えるものとする」


レイ王子が、ふうっと小さく息を吐いたのが聞こえた。どうやら筋書き通りの結果になったらしい。


「皆ご苦労であった。各々後日褒美を取らせよう。今日はもう下がって良いぞ」



◇ ◇



下がって良いと言われたが、謁見は終わって居なかった。一同解散でケイとセットは騎士団の寮に、エルフィーもいったん学園の寮に帰ったが、残りの者は延長戦と言うよりむしろ本番が待っていた。第二王子付近衛室。応接セットのソファーで茶をすするイケおじ。その隣に第二王子と婚約者、向かいに転生者二人とチート魔法少女という並び。ジンは例によって扉の外で見張りだ。


「でだ」


コトっとカップを置いて王様が切り出す。


「儂としては君ら三人に期待しておるのだよ」


うわー、三人括られたー。


「と、申しますと・・?」


恐る恐る聞き返してみる。


「無論戦力としてに決まっておろう」

「し、しかし、魔王騒ぎは解決したのでは・・」

「何を言っておる。大型魔獣が復活し、数が増えている事に対してだ。それに、彼が魔王で無いのなら、いずれ別の真の魔王が現れるやもしれん」


この王様、真の魔王について知っている!?


「真の魔王・・」

「東の国に言い伝えが有ってな。預言と言うべきか。やがて魔王が現れこの世は再び混乱に陥ると。魔王と言う誰か特定の人物が現れるのか、魔獣が溢れる様を魔王と比喩しているのかは分からんが、今の状況は決して良い方には向かっておらんと思わんかね?」


確かにレイ王子も魔獣が増えているのが本質って言ってたっけ。


「あ、あのっ!」


ユキがおずおずと手を挙げた。


「何かね?」

「私は戦力にはならないと思います。真の魔王と戦うなんて無理です!」

「今はそうであろうな」


俯いて目をつぶって懇願する様に言うユキに、王様はさらっと返した。


「そこで儂が先程申し付けた奉仕活動の件だが、ユキ、君にはここ王都の学園に通ってもらう。そして通う間、学園の授業とは別に剣と魔法の特別訓練を受けて貰う。己を鍛え有事に備える事がこの国に対しての奉仕とする」

「学園を卒業した後はどうなるのですか?」

「好きにして貰って構わん」

「え? でも、もし私がこの国を出て行ったら学園も特別訓練も無駄になるのでは」

「その時はその時だ。二年経って、君が他へ行きたいと思うか、この国に留まりたいと思うか、それは儂の治世が試されているかもしれんな。はっはっは」

「・・・」


答えに困るユキ。そりゃあその言い方はズルいよな。ま、二年もあればレイ王子が懐柔するのに十分だろう。待ってるぜ、同胞にして未来の同僚。


「剣の訓練はマグナザルツ親子のいずれかに任せようと思うが、魔法の訓練に関してアルバス、そしてニコリナ、二人に頼みがある」

「なんでしょう?」

「あの頑固者を説得するのを手伝ってくれ!」

「もしかしてお師匠様の事?」

「うむ。あやつ、近衛や騎士団の指導を頼んでもいつも断るのだ。弟子は取らないし臨時の弟子も取らないと言って譲らなくてな」

「王様なのだから命令すれば良いのではないですか?」

「それをしてしまっては儂が負けたみたいではないか。あやつには恩も有る。納得しないまま無理強いはしたくない」

「分かりました。頑張ってみます」

「わたしも頑張ります!」


俺たちも一緒に頼めば師匠も引き受けてくれるだろう。いざとなったら全てを打ち明ければ、きっと力になってくれる。ユキが師匠に教われば転移以外の魔法も必ず使いこなせる筈だ。もしかして秘技も教える事になるかも? そうなればまさに勇者と呼ぶに相応しい強さになるな。今でも魔法を行使できる魔力なのだから、ニコ以上になるのは間違いない。


「それと、今回の二人に対する褒美だが、すまんが暫く待って欲しい。前回の分と合わせて少しばかり調整や手続きに時間がかかるのでな」

「それは構いませんが」

「わたしも大丈夫です」

「そうか。悪いようにはせんから楽しみに待っていてくれ」



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。いいねして頂いた方、大感謝です! 

次回、ついに最終回です!それではまた来週。

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