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64話 決戦2

定時更新です。


◇ ◇



上手く散開していたのに、四人同時に転移させてしまうとは。どうしよう、作戦は失敗と見るべきか。でもニコたち三人はまだ残っている。


ええい、ままよ!


「おりゃーーーー!」


俺は雄叫びを上げながら茂みから飛び出した。走りながら剣を抜く。


「しまった、もう一人居たのか!」


魔王は意外な言葉を吐きながら、背を向けて上流側へ逃げようとした。しまった??


「逃がしませんよ!」


行く手をエルフィーが遮る。魔王がレイ王子たちに気を取られている隙に、三人それぞれ裏に回って半包囲する形を取っていた。


「くっ」


立ち止まって見回す魔王。右手の森はニコが、左手の川はフェル嬢がそれぞれ距離を取って塞いでいる。俺もやや離れた後ろを取って四人で完全に囲んだ。さてどうなるか。この状況で再び転移魔法を使うのなら俺が最初になるんだろうけど、何故か場は膠着した。あれれ??


横に居る狼は俺を睨み付けて低く唸り声を出しているが、魔王は両手を前に翳すポーズすら取らない。んー、これはもしかして・・。一度死んだ時に聞いた神様の言葉が脳裏をよぎる。


『怪我が直ぐ治る能力であれば一日一回くらい使えても問題無いですが』


カマをかけてみるか。


「どうした、今日の分は使ってしまったよな! 諦めて降参しろ!」

「うぐっ」


魔王の体がビクッと反応した。十中八九図星だ。転移魔法は何度も連続して使えない。少なくとも暫くは大丈夫だろう。


「皆、少しずつ包囲を縮めよう! ゆっくり、逃げられない様に!」

「分かった!」

「分かりましたわ」

「了解です!」


慎重に一歩前に出て、河原の石がジリっと音を立てる。その時、


「ガウッッッ!!」


白い狼が俺に向かって突進してきた。速い。剣を振りかぶる余裕が無い。咄嗟に腕をクロスさせて土魔法で強化した。


ガスッッッ!!


飛びかかる牙が腕を掠る。


「「アル!」」

「アル先輩!」

「大丈夫!」


ダメージは無い。いつぞや師匠に怒られて特訓した成果だ。有り難う師匠。逆に俺は狼が跳ね返されて着地する瞬間を狙って氷柱魔法を射出する。だが外れて地面に刺さった。向こうが素早く後ろに飛びのいたからだ。こいつ、何て動きをするんだ。


狼は再び魔王の横に戻り、俺に向かって一瞥すると、空を見上げるように遠吠えをした。


「ウオオオオオオオオオオオオオオーーーーン!!」


するとそれに答える様に森の中から新手が現れた。今迄のより一回り小柄な狼が四匹。その四匹が一斉に・・エルフィーに向かって行った。え? こっちじゃなくて? 群れの仲間か子供か分からないが、これは加勢しないと。


「ガルルル」


ボス狼が俺を牽制する。ちっ、このままだとエルフィーが突破される。


「エル・・」

「皆さんは包囲を解かないでください!」


エルフィーは毅然と言い放つと、小さく息を吸ってから、剣を横薙ぎに構えた。


「やああああっ!」


迫る四匹の鼻先をブンッと剣先が走り、その気迫と風圧で後ずさりさせる。そして片手で剣を構え直し、もう片手を前に向け薄く目を閉じると、指先に小さな石の粒が複数現れ成長していく。


「たああっ」

「「「「キャンッ」」」」


ビュンッと四つの石弾が放たれ、怯んでいた子狼たちにそれぞれ命中した。凄い。いつの間にあんな事が。


「ハチ、頼むよ」


戸惑う四匹を見て、魔王がボス狼に話しかける。って、あの狼、ハチって名前なの?? 獣人の国では一般的な名前なのか、それとも彼が転生者だからか。ハチって言ったらあの銅像しか思い浮かばない。


「ガウッ、オオオンッ」


ボス狼が吠えると同時に四匹の子狼が一斉に三方へ動いた。ニコとフェル嬢に一匹ずつ、前面のフェルに二匹。そしてボス自身は再び俺に向かってきた。くそっ、乱戦で隙を作って逃げる気か。転移魔法を無効化した今がチャンスなのに!


ドゴッッ!!


「キャウ~ン」

「大きいのはわたしに任せて! アルは魔王を!」


地面からどでかい土壁を勢いよく出して子狼を吹っ飛ばしたニコがこっちに寄って来る。うーむ、やっぱり情けないが迷っている暇は無い。エルフィーもフェル嬢も子狼を相手するので一杯の様子。俺が行くしか無いか。


「頼んだ!」


選手交代。俺は魔王へ向かって走る。当然空いた森側に逃げようとするが、


ドゴンッ!


行く手に土壁を出して遮る。すると間髪入れずに、


ドゴン、ドゴドゴンッ!


その周りに新たな土壁が聳え立った。ニコの援護だと思うが目を離す訳には行かない。


「もう逃げられないぞ、降参しろ!」


魔王は壁を背に腰に手をやり、短剣を抜いた。やっぱ戦う事になるのか。



◇ ◇



ガキンッ

キンッ


俺と魔王の鍔迫り合いが続く。リーチが長いこちらが有利だが、なるべく殺さない様にとの神様のお願いも気になって全力で踏み込むのを躊躇っていた。


「みんな、頑張って!!」


ニコの声が飛ぶ。みんなって事はそれぞれやられては居ないが倒しても居ないって事か。エルフィーは二匹相手に剣と魔法の同時攻撃をしているのだろう。子狼を瞬殺したニコでもボス狼とは拮抗しているっぽい。フェル嬢も勇ましく声を出しながら剣を振っているのが分かる。


が、時間がかかると体制が崩れて数的不利になりかねない。俺自身もちょっと疲れてきている。やるしかない。俺は左足を半歩引いた。


「ふんっ!」


魔力で強化した剣を全力で振り下ろ・・した筈だったが、


ガキーーーーンッ!


止められてしまった。まだ躊躇が有るのか俺・・有るよなあ、本気で人を殺そうとした事なんて無いんだから。学園の剣技大会とは訳が違う。対人も仕事のうちの近衛失格かもしれないが、恐ろしいし迷いもどうしても残る。だが、この一撃は今迄よりは力が入っていた。剣を合わせたまま背後の壁まで押し付ける事に成功する。


「ぐうう」

「降参しろ、このまま火魔法を出すことだって出来るんだぞ」


苦しそうに声を出す魔王に俺は最後通牒を突き付けた。


「ハチ! 来てくれ!」

「無駄だ。あの大きいのには俺たちの中で一番強い奴が相手をしてるんだ。動けるわけがない。ま、そもそもハチなら渋谷の駅前で動けないのが普通だけどな」

「シブヤだと!? 何故それを知っている!」

「ああ、知ってるとも、自称魔王の元日本人!」

「どう言う事だ!? どうして俺の・・まさかお前!?」

「そう言う事だよ。お前の事は神様から聞いているし、勇者候補として説得する様に頼まれているんだ」

「え?」

「え?って何だよ。今更とぼけるな。さっさとブロック解除しろ!」

「いや、そうじゃなくて、お前たち俺をハブナに連行するんじゃないのか?」

「は?」

「え?」

「ええ??」



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。続きはまた来週。

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