61話 再起
また一日遅れの更新になってしまいました。すみません。
主人公視点に戻ります。
◇ ◇ ◇
目の前が白くなったと思ったらフワッと体が浮く感覚が有って、次の瞬間尻に衝撃が走った。痛てて、何故か尻餅を突いた状態で我に返る。ここは死後の世界・・では無さそうだ。さっき見て来たから知ってる。
周りは草やら木やら・・森の中か? 河原に居た筈では?
「皆、無事か!?」
レイ王子の声がした。他の皆も近くに居るみたいだ。
「何とか大丈夫みたい!」
と、返事はしたものの、これ、本当に大丈夫な状況なんだろうか。状況的に魔王の転移魔法を喰らった様だが、一体どこに飛ばされたのか。魔の森の奥深くだったら遭難してしまう。
「なんだ、アルじゃねーか、脅かすなよ」
「え?」
聞き覚えのある声に振り向くと、ダットさんだった。手に持った剣が俺の頭の上で寸止めされている。
「え? え? ダットさん??」
「ここはもしかして防塁建設現場かい?」
「これは殿下、お越しになるとは聞いておりませんでしたが・・」
「どうやら間違いない様だね」
◇ ◇
「エルフィーもここで作業してたんだ」
「ええ。本当はお姉さまと一緒が良かったんですけど、学生は皆向こうの作業が担当で・・でも、ニコお姉さまとも久しぶりに会えて嬉しいです!」
「久しぶりってほどでも無いと思うけど、わたしも嬉しいよ」
エルフィーはシルフィーさんとニコに挟まれてご機嫌だ。
「しかし、お前さんも偉い事になってるんだな。信じ難い話だが、今度のは嘘をついてる目じゃねーな」
ダットさんとシルフィーさん、そして昼休憩の合図と同時に話に割り込んできたエルフィーは、事の顛末を聞かされると驚きつつも最後は納得した表情になった。レイ王子は、ここで指揮を執っているお兄さんと話をする為に今はジンと共に外している。本当は話しちゃいけないんだろうけど、ダットさんには沢山借りもあるし、何より誤魔化そうとしたけど誤魔化せなかった。
「この事はくれぐれも・・」
「おう、皆まで言うな、分かっている」
勝手に話して絶対怒られる、と思っていたのだが、後でこれを知ったレイ王子は怒るどころか手間が省けたと言って笑ったのだった。
「しかし、その、テンイ魔法とか言ったか? 全員一緒で良かったな」
「ええ」
「例えばお前さんたちだけテンイしてお嬢さん方が残されでもしたら・・」
「まあっ!?」
フェル嬢が小さく叫んで身構える。同時に、ニコの瞳から急速に温度が失われていくのが見て取れた。
「・・ただじゃ済まねえだろうな」
ダットさんが親指で首を斬る仕草をする。そう、もしそんな事になったら、恐ろしく酷い事をされるだろう。魔王が。逆上したニコに。挙句殺されるかもしれない。危ない所だった。出来れば穏便にと言われてるのに・・。まあ半分冗談としても、いくら魔王を自称しているからと言ってニコに人殺しなんかさせたくない。そうならなくて良かった。
「それはともかく、王都に帰るにしても、手ぶらじゃ大変だな」
そうなんだよね。荷物の殆どは中州に置きっぱなしだし、食糧も非常食が少しあるだけ。今もここのお昼ご飯を分けて貰っている。あ、馬車もどうしよう?
「その辺も含めて今相談してると思うけど・・」
「お、噂をすれば」
「兄上が物資と人手を分けてくれる事になった。王都へ帰ろう」
◇ ◇
ガタンゴトンと客車が立てる音と揺れが懐かしい。建設現場から半日ほど歩いた先にレールが敷かれていて、そこから汽車に乗る事が出来た。王都まで直通だ。防塁の所まで全線開通するのも間もなくだろう。
「また二人と一緒なのは心強いよ」
「ちょうど土いじりには飽きてた所だ。願ったり叶ったりだぜ」
「あはは、誰かも同じ事を言ってたな」
ケイとセットが正面に座っている。マイクロバス程の小さな車体の左右に長椅子が続いていて、前世の電車と似た作りだ。機関車の音が少々五月蠅いが向かい合っても会話は出来る。
「僕も魔王の事は気がかりだったから、喜んでお供するよ。でも、いきなり今日から近衛って、良いのかなあ?」
「本当は君たちも四月から来て貰うつもりだったんだが、騎士団から引き抜くのは中々難しくてね。基礎訓練も終わっていない者を出向には出せないと言われてしまったのだよ。今回諸々の事情が有って予定より早く合流出来たから、僕としては御の字だがね」
「へえ、そうだったんだ」
「だったら前もって言って欲しかったぜ。水臭いな」
「僕たちが呼ばれたと言う事は、リサ嬢たちも一緒なの?」
「いや、残念ながらリサとリリィは来られない。代りと言う訳では無いが、あの子とも仲良くやってくれたまえ」
視線の先でエルフィーが窓に噛り付く様に外を見ながらキャーキャー騒いでいる。
「でもどうしてエルフィーを?」
「マグナザルツ家の跡取りが言っていた冗談の話を聞いて、一つ考えが浮かんでね」
「あ、それ僕も聞いてて思った事があるよ」
「俺もだ。あの野郎、女子に対しては興味を示すが男が声を掛けると豹変するって事だよな」
「あー、そんな感じかも」
「出来ればもう一人か二人増やそうかと思ったが、多すぎても援護しきれないから三人で対応して貰う事にしたのさ」
「なるべく腕の立つ女の子が良い訳だね」
「そう言う事。それも、この国の女子の中では五指に入る強さの三人だ」
なるほどねえ。実際彼女達より強いのは、かつてのシルフィーさんくらいだろうってダットさんも言ってたしな。ああやってはしゃいでいる姿からはいまいち想像し辛いけれども。
「ニコお姉さま、目が回りそうです!」
「凄いよね! 速いよね!」
念願叶って汽車に乗れたニコも一緒に大騒ぎだ。速いと言っても馬の全速力に比べたら全然劣る程度なので、この世界にとって未知のスピードと言う訳では無い。目が回るのは単に横向きに流れる景色を近い距離で見ているからだろう。
汽車はほぼ真っ直ぐに敷かれたレールの上を快調に走る。シートに座ってるだけで目的地に着くのだからめっちゃ楽だ。揺れも小さいので馬車よりしっかり休息が取れるし、見張りや道の確認も必要が無い。言い換えればやる事が無い。乗って暫くは俺自身も物珍しさが有ったが次第に暇を持て余して、つい変な事を考えてしまう。
俺は転生勇者でも何でも無い一般人で、あの自称魔王が本当は勇者候補なのだから、もし戦う事になった場合果たしてどちらが正義なのか、戦いが激しくなって勇者候補を亡き者にしてしまったら世界はどうなるのか、でも魔獣が突然転移してくる今の状況は何とかしないと・・あー、何か凄いモヤモヤする!
余計な事を聞いちゃったかなあ。
◇ ◇
ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。続きはまた来週。




