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59話 転生者

定時更新です。ちょっとだけ遅くなりました。


◇ ◇



「転生特典を選ぶにあたって、あなたは三つの願いを申し出ました。一つ目は病気や怪我と無縁な不死身の体。二つ目は裕福で優しい家族が居る家庭。三つめは美少女の幼馴染」

「確かにどれも俺が願いそうな事です」

「ですが、選べるのは二つ迄です。三つ目は絶対に譲れないと言うのでまずそれは確定として、二つ目の願いはごく平均的な家庭で手を打ってノーカウントにしました」

「うちの家は村長ですけど、平均だと子爵家に生まれるのでは?」

「人口比率から考えてだいたい平均です」

「はあ」

「問題は最初の願いです。不死身と言う事は、例えば百回死んだら百回生き返る事になります。それは余りにも世界の理から外れています。多少の怪我が直ぐ治る能力であれば一日一回くらい使えても問題無いですが、生死の境を越える事は特別なのです」

「では例えば生き返るのは十回までに制限するとか?」

「ええ、あの時もあなたは同じことを言いました」

「考える事は一緒か。そりゃ同じ俺だしな」

「一回です」

「え?」

「一回だけなら、生き返れる様にしました。こちらとしても精一杯の妥協です。首が斬り落とされるとか、灰になるまで燃やされるとか、著しく元の体から乖離してしまった場合は戻れませんが」

「一回だけ・・それも条件付き・・すると、今回はどうなるのですか? 戻れるのですか?」

「ええ、戻れますよ」

「そっか、戻れる・・のか・・あれ? なんだろ? 俺、泣いてるのか?」


さっきまで体の何処も何も感じなかったのに、頬を暖かいものがどんどん伝って来るのが分かった。何も無い空間に俺の嗚咽だけが響く。


「良かったですね。もっと酷く頭を潰されていたら難しかったでしょう」


神様は、俺が一通り泣いて涙を拭う迄待ってくれてから、会話を再開した。


「・・はい。でも、どうしてこの事を覚えて無かったんでしょうか? そう言うものなのですか?」

「いえ、普通は覚えてますよ。覚えていないと意味の無い特典も有りますから。さっきも言いましたが、あなたが望んだのです」

「俺が自分で・・うーむ、俺の考える事だから、例えば・・どうせ生き返ると思って油断しない様にとか?」

「その通りです。一回しか使えないならその事を記憶から消してくれと。結局私とここで会った記憶ごと消すことにしました。二つ有るはずの特典を一つしか覚えていないのでは悩ましいでしょう?」

「なるほど」

「さあ、そろそろ戻りなさい。もう生き返れませんから先程の様に油断してはいけませんよ?」


少し棘のある口調で言われてしまった。とほほ、記憶を消してもらったのに油断してすみません。帰れるなら早く帰ろう。あ、でもせっかくだからこれは聞いておかないと。


「あの、俺が九階級のチート魔力が使えるのは特典では無いのですか?」

「ああ、それは偶々ですよ。偶々出会いが有って技術を習得したに過ぎません。そもそもあなたは三階級じゃないですか」

「俺が魔王を倒す勇者だからじゃなくて? 実際に今魔王に関わっているんですけど」

「あなたは一般の転生者です」

「一般・・」


何そのパワーワード。


「あなたの幼馴染は転生者ですら無いですが、あなたより階級が上でしょう? 勇者と言うなら彼女の方では?」

「そう言われると・・」

「まあ、勇者候補は別に居るんですけどね。その・・実は、あなた方が魔王と称して探している獣人の子が、将来現れる本当の魔王を倒すべき転生者なんです。あなたと同じ世界の同じ国の出身なんですよ。今頃勇者候補として頭角を現している筈だったのですが・・」

「ええ!?」

「どうも周囲の環境が悪かった様で、グレてしまいました」

「はああ!!??」

「仕方無いじゃないですか! どの家庭に生まれるかはある程度設定出来ても隣近所まで気が回らなかったんですから! それこそあなたの様に特典で幼馴染を指定すれば別ですけど!」



◆ ◆



頬に風が当たるのを感じる。段々と周りの音がはっきりと聞こえてきた。


「アル・・ごめんね・・守ってあげられなくて・・うわあああああああん!!」


ゆっくりと目を開けると、ニコが俺の顔を覗き込む様にしながら大粒の涙を流している。俺は彼女の膝の上で抱きかかえられた状態で目を覚ました。戻って来た。この世界に!


状況はどうなっているのだろうか。


「え? アル?」


見回そうとして頭を動かした事に気が付いたニコが変に甲高い声を出す。さて、ここから上手く誤魔化せるだろうか。


「や、やあ。助けに来てくれたんだ。ありがとう」

「生きてる・・」

「うん、生きてるけど?」

「う、」

「う?」

「うわあああああああああああああああああああああん!!」


ニコが覆いかぶさって来て、動きを封じられる。


「ちょ、苦しい・・」


確か柔道の技に何とか固めって言うのが有ったな。手で地面をバンバン叩くと少し力が緩んだが、膝の上から解放してくれる気は無さそうだ。


「アル、息してなかったんだよ? 心臓の音も聞こえなかった! ねえ!?」


ニコが振り向いた隙に漸く起き上がる。大きく肩を落として溜息を吐くレイ王子と、驚いた表情で目を赤くしたフェル嬢が背後に立っていた。


「そうなの? 多分気を失っていただけじゃないかな? 何処も怪我してないみたいだし」


実際、何処も痛くも何ともない。それどころかここ何日かで溜まっていた疲労もすっかり抜けている。生き返る際は完全復活するって神様が言ってたのは本当だった。だが、生き返った事を誰にも知られない様に何度も念を押された。気絶していた事で押し通すしかない。


「頭は? 気を失うくらい頭を打ったんでしょ? 痛くない?」

「全然痛くないよ。血も出てないし」


自分で頭を触って見せた。たんこぶとかも出来て無い。


「良かった・・ホントに良かった・・うわああああああああああん!!」


天に向かって吠える様に再び泣くニコ。心配かけて悪かったな。今度何か埋め合わせをしないと。


「本当に大丈夫ですの?」

「全然大丈夫」

「そう・・」


フェル嬢はよろける様にニコの両肩に手を付いた。


「驚かさないでくれよ。いや、君の幸運に驚くのが正しい反応かもしれないね。こいつの攻撃をまともに受けたのは確かな様だから」

「ごめん」


レイ王子が指差した先には二体のゴリラが黒焦げになって横たわっていた。十二階級全力の高火力で焼かれたらしく、全身カリカリになっている。下草も所々炭の様に黒く、周りの木も焦げたり焼け落ちたりしている。まさかこんな密林で火魔法を使うとは、余ほど動転したんだな。


「消すのが大変でしたのよ」


ニコの肩を掴んでいたフェル嬢の手にぐっと力が込められる。


「ごめんなさい・・」


項垂れるニコ。俺のせいだ、すまん。


「そう言えばジンは?」

「燃え残りが無いか見回ってますわ」



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。いいねして頂いた方、大感謝です! 続きはまた来週。

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