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57話 再び北へ

一日遅れの更新になってしまいました。すみません。


◇ ◇



宣言が出されてからと言うもの、各省庁は一斉に慌ただしくなっている。年度末に忙しいのはいつもの事らしいが、年度が明けてより一層慌ただしさが増している気がする。


かく言う俺たちも巡察の報告書を僅か三日で書き上げる超ハイペース作業を強いられた。事前にチェックシート形式で準備してあった部分もあるので書き足した量は全体の半分程度だが、それでも本来は最低一週間は余裕を貰える仕事だ。出発前はそう聞いていたのに・・。


そして、倍速労働の理由は後ろの予定が詰まっていたからだ。


「今度こそあれに乗れると思っていたのにーー」


左の窓から外を眺めるニコはふくれっ面になっている。


「仕方ありませんわ。あくまで試運転中ですから予定通り動くとは限りませんもの」


窓からは、線路上で白い煙をうっすら出して止まっている蒸気機関車が見える。線路の建設と並行して機関車の改良も進んでいて、運転席が一番後ろに有って円筒状の胴が前に長く伸びている、前世でも見慣れた形に変わっていた。最初は真四角でずんぐりしていたのに、進化して行くと似た様な形になるんだなあ。


かくしてすっかり乗り慣れた馬車に再び乗っている。目的地はトレンブルハール領、そして山を越えた連合国だ。巡察から帰庁してまず先に正式配属(正式出向?)が決まり、・・って、報告書出す前に決まっちゃったよ。酷い出来レースもあったもんだ・・その日のうちに北行きの王命が下った。


ざっくり言うと、魔王を何とかして来い、との命だ。物証は無いが雷獣襲来も魔王の仕業だと王宮は思っている。そしてそれは多分正解だろう。ちなみに”何とか”の中身は穏便な話し合いから死力を尽くした最終決戦に至るまで幅広く裁量を与えられている。つまり丸投げだ。


「最終決戦なら今度こそ軍の出番だと思うんだけどなあ」

「政治的にも物理的にも難しいからね」

「俺たちじゃなくても軍や騎士団の精鋭を選りすぐるとか・・」

「このメンバーだってまごうこと無き少数精鋭じゃないか。あの獣人を見た事が有る僕らが行くのが自然ってものだよ」

「それにしたって・・」

「軍を動かすのは連合国に対しては勿論、魔王に対しても得策では無いと言う判断なのさ。過剰な兵力は相手の過剰な反応を引き起こす。出来れば穏便に済ませたいからね」

「穏便ねえ」

「あの獣人が我が王国を滅ぼすつもりで攻撃を仕掛けている、と言う訳では無さそうな事くらい君も気付いているだろう?」

「そりゃまあ侵略にしては散発に過ぎるしこっちの様子を確認出来てもいないと思うけどね。なんの為に魔獣を転移させているのか疑問だけど、たぶん転移先は適当なんじゃないかな。こないだのはちょっとピンポイント過ぎるけど、偶然中の偶然なんだと思う」

「全く同意見だ。そうした理解が出来ている我々がやはり適任なのさ」


ま、最初からこうなる事を予想して巡察隊を作ったんだろうなあ。だからこそ即応出来たのも事実だ。なにせ旅の荷物の片付けが後回しになっていたから直ぐに準備が出来た。専用の馬車も何時でも使える。去年と違ってメンバーが五人だけなのがちと寂しいけど。


「でもさ、そうなると防塁って意味あるのかな?」

「そうだね。テンイ魔法に対しては効果が無いだろうね。だけど、そもそも絶滅した筈の大型魔獣が生息していた事こそ本質だよ。その種類も数も案外多いのかもしれない。テンイ魔法は単に遭遇場所の違いでしかないのさ。この国は森の資源を活用して生きていく以上、安全圏を確保するのが国民に対する義務だと思っているよ」

「なるほど」

「戦時宣言もそれを強調するのが目的なのさ。王都限定の宣言と言うのがなんとも絶妙じゃないか。王都民に対しては防備を固めるアピールをし、王都以外に対しては王都の城壁と防塁で防ぎきることを暗に示している。まったく絶妙だよ。凡庸な王なら国全体に宣言を出していただろう」

「王都以外が平時なら、俺たちも行動し易いって事かあ」

「その通り」



◇ ◇



五日かけてトレンブルハール領に到着。鉄道の運行が始まれば一日か一日半で着く見込みだ。帰りは乗れるかなあ。そうすると馬車を置いて行く事になっちゃうな・・誰かに運んで貰えば良いのかな? ま、それもこれも無事に戻って来られたらだけど。


騎士爵邸に一泊だけ世話になり、マギーとも久しぶりって程ではないけど夕食を共にした。来週仕事でリサ嬢が来るらしい。ちょっとでもニヤけて見せれば良いものを相変わらずのポーカーフェイスだった。


山越えは雪が解けたばかりで足元が泥濘んだ箇所が有りつつも、ほぼ予定通りに進んだ。冬の間閉めていた山小屋の掃除が終わって無くて使える部屋が限られたが、少人数だったので特に問題も無く過ごせた。


そして再びのモントール王国。今回は出迎えが少ない。何しろ訪問を伝えたのが直前になってしまったので、向こうとしても準備をする時間が無かっただろう。こちらとしても派手な歓待は期待していないので全く構わないのだけど。


「またお会いできて光栄です」

「急な訪問で申し訳ない」


応接室に通され、今回の目的についてレイ王子がモントール国王に対して改めて説明した。主に二つ。一つ目は、前回の需要調査でやり残したこ事が有ったのでその追加調査。これは完全に建前だ。二つ目は、この国が大河によって魔の森への備えにしている事を参考にする為の調査。これに対してモントール国王はわざとらしく不思議そうな顔をして見せたが、不思議がるフリだった。こちらがこれまでの魔獣の出現や防塁建設などの手の内を明かすと直ぐに真剣な目に戻る。


「なるほど。話には聞き及んでいましたが、そのような事に・・承知しました。手配致しましょう。今回は特例として中州での宿営も可能とします。誰かお世話させる者をお付けしましょうか?」

「いえ。国防に関わる事ですので、それには及びません」

「御尤もですな。分かりました。調査には干渉しない事をお約束します。その代わり一つ折り入ってお願いがあるのですが・・」


レイ王子の耳元で何かを囁いていたが、後ろで立って居る俺には聞こえなかった。ある程度の事情は向こうも最初から知っていた様子だけど、油田の時と言い、この王様は役者じみてるな。とりあえず中州へ行くのは許可された様だ。まあこっちの目的も半分以上が建前なんだけどね。転移魔法や魔王の事は伏せたままにしてある。或いは前回魔王と接触した事もバレてるのかも。


でも逆にバレてる上で自由にさせて貰えるなら、少々大事になっても大丈夫って事なのかな。



◇ ◇



次の日は食料調達等の準備に費やし、その途中でライラちゃんのお店で食事をして再会を喜び、次の朝早く中州へ向けて出発した。今回は事前に許可証を貰っている。しかも日没を過ぎても滞在できる特別な許可証だ。関所を難なく通過し、大河と向き合う。雪解け水のせいなのか川幅が広がってる気がする。収まるのを待っていては何時になるか分からないので強行突破する事になった。去年の雨上がりの濁流に比べれば全然マシだけど、土魔法で慎重に柱を立てて橋を架ける。


「こんなので大丈夫ですの?」


フェル嬢は不安そうな表情をしているが、


「大丈夫だよ! 去年もこれで渡ったから!」


と、ニコが太鼓判を押す。去年より水嵩が増している件については敢えてスルーなのか天然でスルーなのか、先陣を切って渡り出すので皆で付いて行く。


一つ目の中州に無事渡り切り、一周してみるが何も無かった。二つ目の中州に向かって更に橋を作って渡る。こっちの方が広い。手掛かりを求めて探索するが、芦原が点在するだけで魔王の姿どころか痕跡すら見つからなかった。


「居ないね」

「ここで暮らしてるんじゃないのかなあ?」

「煙を見たのはこの辺りで間違いありませんの?」

「もう一回りしてみよう」


さっきとは逆向きにぐるっと調べてみるが、同じだった。


「さっきの石、不自然に積まれた物に見えたが?」

「そう見えなくもなかったね。川の流れで自然に出来たかもしれないし、何とも言えないかな」


既に日が暮れかけている。


「何も見つからないと言う事は危険も無いと言う事だから、今日はこの辺りで野営しようか」

「明日は対岸に渡りますの?」

「そうだね。体力を回復して万全な状態で臨もう」

「対岸に居る確信が有るのか?」

「確信と言う程では無いが、何も無い中州では飢えてしまう。あの獣人が食糧を調達するには対岸で狩りをする必要があるだろう」

「対岸で調達して来て、安全な中州で食べると言う訳ですわね」

「でも、ここに居ないよ? もうすぐ夜になっちゃうのに」

「向こうで夜を明かすのかな?」

「その可能性も有るだろうね」


芦原が開けた場所で野営の準備をする。食事はパンと鹿の焼肉だ。目の前の川で魚を釣ろうかとも思ったっが、暗くて危ないので止めた。


「そういえばさ」

「何だい?」

「王様と何か内緒話をしてたみたいだけど」

「ああ、あれか。将来的にノルド連合国をモントール連合国に改めたいんだそうだ。その後ろ盾の相談だよ」

「今でもノルド王国が実質的に連合国の中心だよね? 意味あるの?」

「彼らにとっては意味があるのかもね」

「ふーん」

「さ、今日はもう寝よう。明日は君とニコが頼りだからね。しっかり休んでくれたまえ」


そして翌朝、また橋を架けて対岸へと渡った。こちら側は石が敷き詰まった開けた河原が広がっていた。橋は渡り終わったら崩す様にしている。後で渡ろうとしても脆くなっているかもしれないので、どうせ架け直す事になるし。


「よし、行こう!」


目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。続きはまた来週。

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