54話 巡察隊2
定時更新です。
◇ ◇
短い滞在を終えて出発する朝、ニコの家へ迎えに行くと玄関越しに大きな声が聞こえて来た。何だろう? 何か言い争ってる? ドアに手を掛けようとすると、触る前に勝手に開いた。
「アル、来てくれて良かったですわ、何とかして下さいな」
困った顔をしたフェル嬢が出て来た。夕べはニコと一緒に泊まるって言ってたっけ。にしても凄いタイミングだ。俺が来るのを窓から見てたのかな。
「だから、違うって言ってるじゃない!」
「何が違うんだ!? そう言う事だろうが!」
ニコとニコのお父さんが言い争っている。仲裁に入ろうとしたが、その前にニコのクリティカルヒットが炸裂した。
「もう、分からず屋のお父さんなんて嫌い!」
あー・・何を言い争っていたのか知らないが、お父さんノックアウト。ニコを溺愛するが故に「嫌い」の一言が強烈なダメージを与える。へなへなと座り込むお父さん。村に居た頃に時々見た光景だ。それでもって、いつも俺がフォローする役目なんだよなあ。まあ仕方が無い。項垂れるお父さんの肩に手を掛け事情を尋ねる。
「何があったんですか?」
「アルか。俺言ったよな? ニコの事を頼むって。なのに、なのに・・お前もそれで良いのか!? 王子の妾になるなんて!」
「はあ??」
「だから違うって言ってるじゃない!」
「ちょっと何を言ってるのか分からない」
「何かね、これからもフェルと一緒って言ったら急に怒り出して。お仕事が一緒って事なのに」
「そりゃ役職としてはそうかも知れないが、平民の娘を妃と一緒に居させるってのは妾って事だろうが!」
「だから違うって!」
「こんな調子でずっと平行線ですのよ。わたくしが口を挟んでも余計にこじらせるでしょうから、アルが来るのを待ってたんですの」
「なるほど」
心配する気持ちは分かるが勘違いも甚だしい。
「おいアル、どうしてくれる、責任取れよ!」
「えっと・・確かにフェル嬢と同じ部署ですが、俺も一緒の部署です。それに、今は出向中でたまたま王子たちに同行してますが、元々の配属は別で、そこでも俺と一緒なんですよ」
「そうなのか?」
「はい」
「適当に嘘ついてたりしてないだろうな?」
「してませんよ」
「つまり王子や妃と一緒なのは仮の事で、元の所に戻ってもお前が付いていてくれるって事か?」
「その通りです」
「ホントに?」
「ホントに」
「はあああああ、そうか、それは安心した!」
「誤解が解けて何よりです」
「レイと一緒だと心配で、アルと一緒だと安心って少し釈然としませんわね」
「そりゃあ例え王子様であろうが何処の馬の骨か分からん奴にニコはやらん! アルの事は生まれた時から知ってるからな!」
「そうですの」
正統な王位継承権第二位なのだから何処の王様の骨かはっきりしてるし、フェルの眉間に微かな皺を見たが突っ込まないでおこう。
「おうよ。オシメの交換だって何度も俺がやったんだぜ? そりゃもう手慣れたもんよ、ニコと二人こう並べて、パパっと両方のオシメを取ってちゃちゃっと拭いて、先に汚れた方を洗って干してから新しいのを・・」
「ちょっと待って」
顔を赤くしたニコが話を遮る。
「洗濯してる間、わたしとアルは二人並んでオシメを外したたまんま?」
「すぐ洗った方が綺麗になるからな。したばっかりで暫くは漏らさないから大丈夫だ。お前らいつも同じタイミングでするから楽で良かったぜ」
ニコの顔がさらに真っ赤になって、頭から湯気が出る勢いだった。
「お父さんなんか大っ嫌い!!」
◇ ◇
やれやれ、何とか出発できた。「大嫌い」のフォローは殊更大変なんだよなあ。会話が出来るレベルまでは回復させたけど、今日は仕事にならないだろうな。出発時刻も予定から遅れてしまうし、とんだハプニングだ。父さんの報告に書かれたら減点材料だろうなあ。書かれるだろうなあ。当のニコはさっきまで怒っていた筈が嬉しそうに笑っている。「正式に許可が出た」だの「アルに責任とって貰う」だの不穏な会話をフェル嬢としているが、遅れたの俺のせいじゃないからね!?
次の目的地はエンデナ村の隣に有るケーリントと言う町だ。隣と言っても徒歩で一日掛かるし、村と町の間に辻馬車は通っていない。町からは王都行きの馬車が出ていて俺たちも使った事が有る。今回は幸い専用馬車が有るので半日掛からず昼前に到着予定だったのだが、最悪昼飯抜きになるかもしれない。
それに誰も知り合いが居ない所で仕事をするのは不安だ。護衛だけしてれば良いなら気も楽だが、手分けして調べたり確認したり別行動も多くなりそう。そもそも護衛ってのは表向きで作業を手伝う方が主な仕事だし、レイ王子のお兄さんも分かった上で試しているのだから、ここからが本番と言っても良いだろう。上手く出来るかな・・やっぱり不安だ。学園に入学した時も不安だったが一方で楽しみでもあった。今回は別に楽しい事は無さそうだしなあ。早く帰りたい・・。
◇ ◇
ケーリントでの巡察は案外すんなり終わった。そこそこ人口を有する町なので、全員を集めるのも大変だろうと思っていたが、人口が多いが故に少数の代表者を相手するだけで済んだ。それも町長と数名の町民だけで、領主が同席しなかったのもラッキーだった。子爵様らしいから、居たら気を遣って疲れただろうな。領都から少し離れた町と言うのも有るが、基本的に領都以外の巡察には同席しないのが慣例らしい。いずれは領都の巡察もするんだろうけど、今回の行程には入っていない。
ちなみにエンデナ村は王宮直轄領だ。開拓が終わってある程度発展したらどこかの貴族の領地になるのかも知れない。開拓中は税収が不安定で投資も必要だから、王宮が責任持って面倒を見る事になっている。
「一番遠い村まで行って、見るのが二か所だけと言うのは勿体ない気がしますわ」
「沢山回っているとそれだけ日数が掛かって情報が古くなってしまうからね。それに一度に持ち帰ると後始末が大変になってしまうよ」
「ねえアル、あれ美味しかったね」
「ああ、俺も前から食べてみたかったんだよ」
「うむ。美味かった」
仕事で来ているのだから楽しい事なんて無いと思っていたが、有ったのだ。ケーリントの名物料理を頂くことが出来た。独特のタレを使って兎肉を焼いたもので、日本の鰻の蒲焼にちょっと似た風味の、柔らかくて香ばしくて、ホントに美味かった。滅多に感想を言わないジンも声を上げるほどだ。あれはいったん蒸してから焼いてるのだろうか。他で食べる兎肉とは食感も違う。辻馬車の待合室の向かいがちょっとお高い感じの立派な食堂で、来る度にいい匂いがしてたんだよなあ。食べてみたかったけどお金が無かったり時間が無かったりで、待合室の中の売店でパンを買って済ませていた。
いやあ役得役得。て言うか、諸国漫遊と言えばやっぱグルメ旅だよね。色んな所へ行って色んな美味しい物を食べてみたいが、取り敢えずは王都へ帰ろう。
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