53話 巡察隊
定時更新です。先週のうちに1話臨時でUPしているので、まだの方はそちらからどうぞ。
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翌週、俺たち五人は馬車に揺られていた。巡察の準備と旅の支度を大急ぎで行い、僅か三日間の春休みを挟んでの出発である。本来なら一か月間の休みが有って、卒業と就職の報告に帰省する予定だったのに・・まあ内定貰った時点で手紙で知らせてあるけれど。
「それで、行き先がエンデナ村なのは休みの代わりに仕事で帰省って事?」
「そんな所さ。帰れないままでは君らのご両親に申し訳ない。それと、近場では実績としてやや弱いしね」
「実績かあ。一緒に仕事が出来るのは凄く光栄だし嬉しいし安心だけど、色々苦労させてるみたいだね」
「僕はむしろ楽しんでいるよ。今後また何か僕がやりたい事を反対された時に、どう通すかノウハウ作りだと思えば良い」
そう、俺たちには実績が必要なのだ。近衛になるには実力とか家柄とか色々条件があって、だから出向と言う形で正式な近衛になる事を避けたのだけど、王宮側、特に第一王子に難色を示されてしまった。正式じゃ無いと言っても実際は近衛として振る舞うのだから書類上だけ細工してもダメだと。確かに今現在も赤を基調とした近衛の制服を着ているし支給された近衛用の剣も履いている。
そこで第一王子の出した条件が、三月中にお試し期間として一度巡察を行って問題無く仕事をこなせる事を示せ、と言うものだった。後日聞いたのだが、これはレイ王子のお兄さんが意地悪だったのではなく、四月の正式配属までに一仕事こなしておく、それも巡察の前任者が出した条件をクリアしておく事で、俺たちが裏口入社だのお飾りだのと周りから後ろ指差されない様にする心遣いだったらしい。学園の卒業生で賢者が後見に付いているのだから実務については全く心配してなかったんだって。
「でもどうせならアレに乗って帰りたかったなあ」
ニコが左側の窓から身を乗り出す様に眺めていたのはほぼ完成しつつある鉄道だ。北の国へ行った際は橋桁だけだったが今はレールも敷き終わって部分的に試運転も始まっている。出発前に便乗できないか調整を試みたがあいにく都合が合わなかった。
「乗れたとしても途中までの少しだけですわ。北に逸れてしまうのですから」
「その少しが乗りたかったんだよー」
「はいはい。そのうち一緒に乗りましょう」
「やった! 約束だよ?」
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辻馬車を乗り継いで十日かかる行程を、専用の馬車を使って八日で到着した。乗り心地もこっちの方が格段良いし、荷物も多く運べるので途中の宿営も快適だった。
「遠い所を遥々お越し頂き恐縮です」
エンデナ村での出迎えは父さん一人だ。父さんは俺に対してはちらっと視線を送っただけで、あくまで村長としてレイ王子に応対していた。ずっと後ろの物陰からニコのお父さんが覗いていて、ニコがそれに対して大きく手を振るが、それらは見なかった事として場が進む。
「どうぞ、村の者は既に集会所にて待機しております」
そう言って父さんが半身を返すと、ニコのお父さんは慌てて集会所の建物へと走って行った。今日到着する事は手紙を早馬便で送って知らせておいたので、事前に段取りを済ませてあるらしい。急遽出向になった事も一緒に書いておいたが、内心驚いているだろうな。
エンデナ村での日程は二泊三日。初日は村民を集めての近況や要望の聞き取り、二日目は農地の状態や収穫量の確認、三日目の朝に村を出る。もう一つ、ここからさらに東へ行った山の麓にある軍の駐屯地も見て来る事になっているが、同時には無理なので分担することになった。駐屯地と言っても、一応あの山が砂漠の国との国境なので形式上置いているごく小規模なもので、レイとジンが行って挨拶する程度で終わるらしい。北の国境同様に山中では無く麓に駐屯しているので、馬を使って一日有れば十分にここから往復できる。
「見違えたぞ。立派になったな」
集会所までの短い道のりの中で、父さんがさりげなく横に並んで話しかけて来た。なんだか妙に照れくさくて、小声でありがとう、と呟くのが精一杯だったが、父さんの表情は満足気だった。何故か後ろでニコが、うん、うん、と得意げに頷いて居る。立派に見えるのはこの制服のお蔭だと思うが、素直に喜んでおこう。
懐かしの我が家の横を通り抜け、程なくしてこの村で一番大きな建物へ。その時々によって倉庫と化したり作業場と化したりするが、今日は集会所として使う。中の大広間には決して多くは無い全村民が集っていた。
レイ王子が前に出ると拍手が起こる。そしてフェル嬢がその横に並ぶと歓声が沸き上がり、口々に祝福の言葉を投げかけていた。先日、学園を卒業すると同時に二人の婚約が正式に発表されたのだ。この村に知らせが届くのに何日かかかった筈だから、彼らにとってはつい最近知った話題の当事者が目の前に現れた事になる。
騒ぎが落ち着くのを待って、俺とニコも並ぶ。するとどよめきが起こり感嘆の声や囃し立てる声がした後、大きな拍手に包まれた。照れくさい。非常に照れくさい。が、今はお仕事の時間なので表情を引き締める。俺とニコでそれぞれ左右の前方を見張るのが役目だ。ジンは少し離れた後方に居る。まあ全員顔見知りなので見張るも何も無いのだけど、こういう所でもちゃんと出来るのを示さねばならない。
何しろ巡察隊に不手際が有れば、巡察される側の責任者が国王に報告する決まりになっているのだ。父さんは真面目だから俺が何かやらかしたら隠さず報告するだろう。でもこうやって気を張りながらじっと立っているのは疲れるなあ・・。
その日の夜、レイ王子達は集会所の隣にある空き家に案内された。来客用と言う程に来客が来る訳では無いが、何時でも使える様に手入れされている。かつて師匠がこの村に滞在していた時もここを使っていた。俺とニコは実家に戻り、一年ぶりの家族団らんを過ごす事が出来た。本当は仕事中だからレイ王子達と一緒であるべきなんだけど、春休みを潰している特例として許してもらったのだ。
◇ ◇
翌日、レイ王子とジンは早くに出発した。残りの三人で農地を視察する。これから種を蒔く時期なので、予定している作付量と畑の面積を確認して記録する。収穫と納税が実態に有っているか、第三者としてチェックするのだ。税を取り過ぎてもいけないし、特にここは開拓村なので年々農地は増えていく。そういう変動のある所に不正や行き違いが起きやすい。
畑以外にも水路や農具、採集に使っている近くの森や川なども見て回る。これらの作業の中心は序列的にはフェル嬢になるのだが、「貴方がたは農政課なのですから本職でしょう」と俺達がメインで見聞きしてフェル嬢は後ろで記録係に徹していた。どうやら村の人たちと話す機会が増える様に気遣ってくれた様だ。案内する側も見知った俺達が相手だと気が楽みたいで予定していた巡察はスムーズに終わった。陽が暮れる少し前にレイ王子達も戻り、後は明日の朝に村を発つだけだ。
第一王子から突き付けられた実地試験の一つの山は何事も無く終わりそうである。終わりそうだったのだ。
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