50話 就活
定時更新です。
◇ ◇
エルフィーはすっかり元気になった。シルフィーさんの怪我は直接的には魔獣のせいだけど、その裏に居る魔王の存在を知り、やり場の無かった不安や怒りの矛先が定まった事で本来の真っ直ぐな彼女に戻った様だ。
ちょっと前までは、この世の全ての魔獣を狩り尽くす、なんて事を言っていて、むしろこっちが魔王じゃないかって思うくらいダークなオーラを出していた。とは言え、あまりに曖昧で現実味の無さに気持ちが揺れていたらしい。元々あの辺が河馬の生息地らしいから魔王の転移魔法は関係無いだろうけど、そもそも魔王が居なければあの遠征自体が無かった訳だから、魔王が姉の仇と言うのもあながち間違っていない。シルフィーさん、元気で働いてるけどね。
それはさておき、最近は俺自身が元気が無い。いよいよ運命の最終面接が近づいているからだ。レポートは既に出し終わっていて、その評価を含めて合否が決まる。結構頑張った。頑張ったからこそ緊張して不安にもなる。気楽に過ごすはずだった学園生活も色んな人と出会って色んな事が有って、自分の中で割と重たいものになっているのかもなあ。ここで失敗して今までの繋がりがぷっつり切れるのは嫌だ。胃が痛い。この痛み、前世以来だな。
「アル、食べないと昼休み終わっちゃうよ?」
「あ、うん」
「また考え事ですの? 往生際が悪いですわね」
「レポート、ちゃんと書けてたじゃねーか、何が不安なんだ?」
「多少の緊張は仕方が無いよ」
「とにかく食事はきちんと摂るべきです」
「そうよね」
「まったく君らしくない。明日はお手柔らかに頼むよ?」
「それこっちのセリフだから」
「そうそう、そのいつもの調子で」
◇ ◇
その翌日。
「合格です」
「え?」
「ですから合格です」
校舎の三階の、以前に三者面談を行った同じ部屋で、同じように部屋の真ん中にポツンと置かれた椅子に座るなりそう告げられた。向かいの机には担当教師、合格を告げた内務省の人、そしてその隣でニヤニヤしているレイ王子が居た。
「あの、質疑応答とかは無いんですか?」
「特に必要ありません。あなたの人柄については承知しています」
まあレイ王子がそっち側に居るんだからそうなるか。
「提出したレポートについては・・」
「良く纏まっていたと思います。あそこに書かれたあのままとは限りませんが採用されるでしょう」
「そうですか。はああ」
思わず安堵の溜息が出る。
「あなたの方からは何か質問はありますか?」
「え? いや、ええっと・・」
出会って五秒で合格と言う急展開に何から聞いて良いやら整理が付かない。かと言って混乱した様子を見せるのも印象が悪いだろう。今後の配属や扱いに関わるかもしれない。
「・・特にないです」
「では入省に関する書類をお渡しします。通常は後日に郵送するのですが時間が無いとの事なので。良く読んでおいてください」
分厚い紙の束を手渡された。
「では本日はお疲れさまでした」
◇ ◇
部屋を出て、書類を抱えたまま暫し呆然とする。廊下の窓からは芽吹き始めた木々の新緑が見える。そろそろ春だなあ。就職が決まったと言う事は、この学園でやる事はもう何もない。あっと言う間だった。
「やあ、お疲れ、おめでとう」
部屋の扉が再び開き、レイ王子が声を掛けて来た。
「ちょっと拍子抜けした。最初から合格ありきみたいだったね」
「そうでもないさ。君のレポートが評価されたんだよ。そう言っていたじゃないか」
「じゃあ不合格も有り得た?」
「さあ、どうだろうね。少なくとも君は有り得ると思って頑張った。その頑張りが評価されて合格した。それで良いじゃないか」
「ううむ。釈然としない」
「済んだことよりも先の事を考えるべきじゃないかね?」
書類を指差すのでペラペラとめくってみる。その中の一枚に「三月一日付けをもって内務省農政課勤務を命ず」とあった。
「三月一日?? 四月じゃなくて?」
「登庁までにそれを頭に入れておかないと不味いんじゃないかな?」
紙の束の残りの大部分は紐で綴じられていて「内務省就業規定及び城内作法細則」などと言う表題が付いていた。
「学園とはまた勝手が異なるからね。僕は自然と身に付いているけれどもアルは覚える事が多いと思うよ」
「いや、それより何で来月から? 春期休暇は?」
「ちょっとした事情が有るんだよ。詳しい事は後日説明する」
「それ、仕事の内容に関係するの?」
「まあ、そんな所さ」
どんな仕事なのかはその後日に説明して貰えるのだろう。農政課って何か特別な仕事があるのだろうか? これ本当に全部覚えないといけないのかなあ。そりゃ城内は偉い人とか沢山居そうだし、ヘマしないように決まりは覚えないとダメだろうけど、結構なページ数な上に細かくびっしり書いてある。
三月一日って、来週なんですけど!?
◇ ◇
ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。続きはまた来週。




