表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/67

05話 フェルナンシア・ライランズベキア

◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。今回はニコ視点からスタートです。


 ◇ ◇ ◇



王都に来た。それも高等学園の新入生として。どんな生活が待っているのかな。村での日々も楽しかったけど、憧れの王都には、きっと今まで知らなかった楽しい事が沢山有るはず。ちょっと不安も有るけれど、アルも一緒ならわたしは何処でも幸せ。


でも、やっぱり不安の方が当たっちゃった。周りの視線が気になる。この学園で平民はわたしとアルの二人だけ。推薦状が有れば平民でも入学出来る事になっているけど、そんな事は滅多に無いってお師匠様も言っていた。だからこそ頑張れとも言われたけど、ただ注目されているだけじゃなくて、何か良くない感情を視線から感じる。そればかりか、金髪をぐるぐる巻いた変わった髪型の女の人に呼び出されて、そのお友達二人と合わせて三人に囲まれているわたし。これからどうなちゃうの?


「あなたが高名なオーズタット・クロップナンス伯爵の弟子である事は、ここに居る全員が知ってますわ」


席に着いてから暫く皆黙っていたけど、ぐるぐる巻きの人が冷たい表情で話を始めた。


「あなたが平民である事も」


やっぱり貴族の学校に平民は場違いよね。


「あの伯爵がついに弟子を取ったと思ったら、それが平民で、しかもこの貴族の学園に生徒として来た。それを快く思わない者も居るでしょう」


わたし追い出されちゃうのかな。


「良い事? わたくしはこの学園で全てを学んで、そしてこの学園生活を思い切り楽しみたいと思ってますの。それなのに、クラスの中に平民が紛れ込んで、妙なトラブルを起こされては非常に不愉快ですわ」


やっぱり追い出される流れだ。


「ですから、わたくしの、その・・」


ぐるぐる巻きの人は俯いて話を一端途切れさす。そして顔を上げるとキッとわたしの目を真っすぐ見て、思いもよらない言葉を言った。


「ですから! あなた、わたくしのお友達になりなさい!」

「はい?」

「わたくしはフェルナンシア・ライランズベキア。ライランズベキア侯爵家の長女ですわ。いくらこの学園がエリート貴族の集まりと言っても、侯爵家の友人にちょっかい出す馬鹿は居なくてよ。そうなればわたくしは不愉快な思いをする事も無く、学園生活を堪能できるというものです。宜しくて? 今日からわたくしの事はフェルと呼んでくださいましな。あなたの事はなんと呼べば良いのかしら」


侯爵家のぐるぐる巻きの人は早口で一気に捲し立てると、ふーーっと大きな息を吐いた。横に居る彼女のお友達が、頑張ったわね、とか、良く出来ました、とか言ってるけど、つまり、どういう事なんだろう?


「あの、わたしはここに居ても良いんですか?」

「え?」

「てっきり追い出されるものかと」

「なんでわたくしがそんな事をしなければならないのかしら」

「だって、わたしは平民で・・」

「ああ、ごめんなさい。この子不器用なので、少し怖がらせてしまいましたね」


ぐるぐる巻きのお友達の一人、黒髪のロングヘアの人が話に入ってきた。


「大丈夫よ、私たち、あなたの味方になりたくて誘ったんだから」


もう一人のお友達、私と同じ赤毛の人、黒髪寄りの私に比べて金髪寄りかな? も加わる。


「はあ・・」


どういう事かは分かってきたけど、なんでそうなっているのかは全く分からない。でも、お友達になってくれるなら嬉しい。村で同じ年頃の子供はアルだけだったから、女のお友達は初めて。


「それで? あなたの事はなんと呼べば良いのかしら」

「は、はい、ニコって呼んで下さい! フェル様」

「様は不要ですわ」


それから暫くの間、四人でお話をした。わたしが居たエンデナ村はどんな所なのかとか、クロップナンス伯爵、わたしのお師匠様はどういう人なのかとか、ほとんどわたしが質問攻めに遭っていたけど、三人はわたしの話を楽しそうに聞いてくれた。


わたしも、気になっていた事が有ったので、思い切って尋ねてみる。


「あの、どうしてわたしだけなんですか? その・・アルも一緒にお友達に」

「殿方は殿方自身で対処するものだからですわ」


答えはそれだけだった。でも、確かにアルも男の子だから女の人にかばってもらうのも嫌がるかもしれないし・・嫌がるかなあ? 結構わたしに頼ってる所が有る気がするけど。


「一緒にお話を聞くくらいは・・」

「あら、それはちょっと可哀想ではなくて? ニコとはこれからお友達だけど、あなたは違いますわよって目の前で言っても良いのかしら」

「それは・・」

「そういう事ですわ。それからその口調、すぐには無理でも直しなさい。もうわたくしたちはお友達なのですから、同郷のあの方と話す時と同じにしてくださいな」

「・・・」


良いのかな、平民のわたしなんかが・・うん、怖いけど、勇気を出そう! ぐっと両拳を握って、わたしは心を決めた。


「そうするね。改めて、これから宜しくね、フェル」


ぐるぐる、じゃなくて、フェルはとびきりの笑顔になって、横の二人はうんうんと頷いていた。



◇ ◇ ◇



医務室に向かう道すがら、俺は必死に頭の中を整理しようとする。どうなってるんだ? 全く理解不能だ。いや、何が起きたかは理解している。だが、これから何が起きるのかが全く想像出来ない。うんうん唸りながら歩く横で、レイ王子は依然として上機嫌の様子。


これは本人に直接聞くしかないのかな。王族相手に口を効くのもおっかないが、いくら自分で考えても分からない物は分からない。これが他人の事ならスルー一択だが、自分の事である以上、分からないままは嫌だ。俺は我慢できずに歩きながら投げかけてみた。


「あの、いくつか聞きたいことがあるんですけど」

「敬語」

「うっ」


短く鋭い突っ込みに一瞬固まってしまうが、一度大きく深呼吸をしてから改めて問い直す。タメ口でも何でも良いから頭のモヤモヤをどうにかしたい。


「幾つか聞いても良いか?」

「何なりと」

「どうして俺が助けた事になってるんだ? もし俺が押し倒さなければ・・」

「僕はそのまま数歩先に進んでいて、剣は僕の後ろの地面に落ち、事なきを得ていただろう。そう言いたいんだね」


頷く俺。そうなのだ、確かに二人折り重なった所に剣は落ちて来た。だがそれは俺がレイ王子の歩みを止めたからであって、そもそもが俺のせいなのだ。しかしレイ王子は反論する。


「だがきっと、剣は地面で跳ね返り、僕かジンのどちらかに当たっていただろう。方向的には僕の方が確率が高い。君に当たったから角度が変わって窓を割ったのだよ。もし君が居なければガラスの代わりに壊れていたのは僕の体だったかもしれないのさ」


え、角度が変わった? そうなのか? あの時、起き上がって直ぐにレイ王子は感謝を述べた。俺に剣が当たった瞬間は見ていない。それなのに、周りを見渡したほんの数秒で、飛んできた距離、速度、方向、窓の位置、俺が居なかった場合の角度と彼自身の立ち位置の全てを計算して把握したと言う事なのか? 普通なら何が飛んで来たのかを確認するだけで数秒以上かかるだろう。俺だったらそれ以前に、何で自分が倒れているのかを確認するのに数秒以上かかってしまう。直感・・なのかな? そこを突っ込むのは流石に失礼かもしれない。


「それで俺を友人に?それともクロップナンス伯爵の弟子だから?」

「両方さ。でもさっきの事が無ければ友人に成れたのはもっと先だったかもしれない。だから順番としては前者だね」

「うーむ」


最初から俺に目を付けていたと。周りの視線と言い、師匠の弟子ってそんなに特別なんだろうか。今一つスッキリしないが、本人がそう言っている以上、そう言う事にするしかない。一応納得した様な態度を見せて、別の疑問をぶつける。


「もう一ついいか? あの二人を友人にしたのは?」

「ノルトボイマー男爵は武門の名家だ。あそこまで剣を飛ばす力には流石と驚くしか無い。あんな芸当を出来るのはこの学園には彼以外に居ないだろう。その相手が務まるビルフォルデ男爵家の跡取りも相当の腕前と言う事になる。そんな彼らが友人になってくれれば、心強いと思わないかい? ジンも十分に強いがね」


危ない目に遭いながらそんな事を考えていたのか。それも数秒で決めてしまうとは。俺が呆気に取られているのを気にせずにレイ王子は続ける。


「それに、彼らが僕の側に居るのなら、他の何処かから剣が飛んでくる事は無い訳だ。今も言ったがあんな事は他の誰にも真似出来ない。つまり二重の意味で僕は安全になる。どうだい? 理に叶っているだろう? 手当たり次第誰でも良い訳じゃないのさ」


と、ウインクして見せる。男にウインクされても嬉しくない筈だが、ついカッコイイと思ってしまった。このイケメンめ。それにしても、慎重さが無いと言うか、王族の交友関係ならもっと時間をかけて決めるべきなじゃないの? 幾ら何でも数秒は無いだろう。


そこも気になって仕方が無いので、そのまま訊いてみた。


「理由は分かったけど、あんな一瞬で決めてしまって良いのか?」


するとレイ王子は立ち止まり、少しだけ笑顔に影を作って答えた。


「僕は王族だ。いずれ国を背負い、国の為に重大な決断を迫られる時が必ず来る。時間の余裕が無い状況でね。だから僕は日頃から即断即決を心掛けているのさ」


最後は元の笑顔に戻ってまた俺にウインクをしてくる。だから男にウインクされても・・様になってるな畜生。しかし、この人、凄い人かもしれない。しっかりとした考えを持ち、それを実行できる頭の回転の速さ。王族だからなのか、王族でも格別なのか。正直に言って今の今まで厄介事に巻き込まれたとしか思っていなかったが、いや、巻き込んだのはこっちだなんだけど、この人の友人になるのは案外悪くないかも。


などと考えているうちにレイ王子が先に歩き出してしまっていたので後を追う俺。すると独り言のような声が聞こえた。


「もしあのままにしていたら、彼らはこの学園に居る間、ずっと僕に怯えて過ごす事になっただろう」


彼の人となりが分かった気がした。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 連続投稿続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ