49話 レポート
また暫くお休みしてしまいました。すみません。再開します。
◇ ◇
王都に戻ってから三カ月が過ぎた。街は新年祭で賑わっている。が、遊んでいる暇は無い。北の情勢を纏めたレポートがまだ完成していないのだ。皆でテーマを割り振って書く事にしたのだが、引きが悪かったのか文才が無いのか俺だけまだ終わっていない。交易品の輸送方法なんて一番難しいのを選んじゃったかなあ。
一度年末に仮提出をしたのだが、担当教授によると「リアリティが無い」(またかよ!)そうで、大幅な加筆を余儀なくされている。具体的には簡易的なロープウェイを使って山越えをするって内容なんだけど、ゴンドラの大きさは?動力は?ルートはどこを通す?建設作業の手順は?等々のご指摘を頂戴した。それってもう全部設計しろって言ってるよね!? アイディアレベルじゃ駄目なの!?
「アル、お祭り行こうよ」
「うーん」
図書館の片隅で資料と格闘していると、ニコが呼びに来た。
「悩んでるならお師匠様に相談したら?」
「それってアリなのか?」
「?」
「入省試験だから自分一人で書かないといけないのでは?」
「そうなの?」
「ちなみにニコは誰かに教えて貰ったりした?」
「うん」
「そうなんだ・・」
「本で調べて良いんだから、人に聞いても良いってリリィが言ってた。リサなんてお父さんに手伝ってもらったんだって」
言われてみれば確かにそうだな。リサ嬢は連合国と交わす売買契約のたたき台を担当してたっけか。財務相監修とか反則レベルだな。もうそれ正式な条約文書だろ。
「じゃあ新年の挨拶がてら師匠の所に行ってみるか」
「お祭り見ながら行こうよ。エルフィーも誘って」
「エルフィー、まだ元気無い?」
「うん」
ダットさんもシルフィーさんもとっくに退院しているが、シルフィーさんには問題が有った。河馬の水刃攻撃で利き腕の腱を切られてしまっていたのだ。傷は塞がったが元の様に剣を振るうのは難しく、騎士団も辞める事になるだろう。他に傷らしい傷も無く軽傷に見えただけに返ってエルフィーのショックは大きかった様だ。何日か引き籠った後、以前に増して俺達と訓練する様になった。俺はレポートで忙しいので偶にだが、ニコが毎日のように相手をしている。姉の分まで頑張ると虚勢を張ってはいるが、あの無邪気な笑顔はずっと見ていない。
ちなみにダットさんは見た目が酷かった割には打撲と裂傷だけで早々に現場復帰している。
◇ ◇
三人で大通りの露天を一通り巡ってから師匠の屋敷を訪ねた。ごく簡単な新年の挨拶の後、すぐに本題に入る。この世界にロープウェイなんて物は存在しないが、設計図には程遠い拙いスケッチを見せると師匠は直ぐに理解してくれた。
「下る際に勢いが付きすぎない仕組みは考えていますか?」
「一応考えています。上手く行くか実際に試してみないと分からないですけど」
「燃料は石炭では無く石油を使うのですね?」
「はい。パイプラインの石油を使うのが効率良いと思ってます」
「ねえ、お師匠様。エルフィーに倉庫の中を見せてあげてもいい?」
「構いません」
「やった! 行こう、エルフィー」
最初は横で一緒に聞いていたニコは飽きたのか、エルフィーを連れて母屋の隣に有る試作品倉庫へ行ってしまった。あの建物には師匠がこれ迄開発してきた数々の発明品・・の試作品が沢山収まっている。ぶっちゃけ全部失敗作だ。
何でそんな物を大事に取ってあるのか以前聞いたら、失敗と思っていた物がごく稀に別のアイディアのヒントになったりするんだそうな。俺たちが最初に作った蒸気機関の様な何かも置いてあるし、なんと吹っ飛ばした鍋まで所蔵されている。ただの鍋なのに。使用人の中にはあれをガラクタ倉庫なんて呼ぶ人も居るらしく、確かに役に立たない失敗作を定期的に綺麗にして並べ直す身になれば愚痴の一つも言いたくなるかもしれない。ちなみに、成功作、完成品は一つも置いてない。世に出回っているのだからわざわざあそこに飾る必要は無いんだと。
ともあれ師匠に相談したのは大正解だった。レポートの課題は殆どがクリアできそうだ。残りの部分は実際に作る人や使う人の都合で決めるべきだろう。陽も傾いて来たしこの辺で良いか。
「そろそろ帰るのでニコたちを呼んできます」
「分かりました」
二人を呼びに倉庫へ向かう。扉を開けようとした時、エルフィーの驚いた様な声が聞こえて来た。
「ええ!? そうなんですか!?」
何がどうなんだか。
「うん。でも内緒なんだって」
「わ、分かりました」
怪しいなあ。
「おーい、帰るぞー」
「あ、アル。相談は上手く行った?」
「まあね。エルフィーも付き合せて悪かったな」
「いえ、色んなお話を聞けて楽しかったです」
「そっか。それは良かった。ちなみにどんな話が面白かった?」
「ええっと・・色々、その」
「魔王の話とか?」
「え? いや、そんな・・」
「なんで分かるの!?」
「分かるよ、ニコの様子見てりゃ」
明らかに挙動不審なんですよ、あなた。
「さすがです、アル先輩」
「わたしもアルの事、全部分かるんだからね!?」
「お、おう」
「あはは、何ですかそれ?」
「えへへー」
ああ、久しぶりだな、こうやって二人が笑い合うのを見るのは。
◇ ◇
ここまで読んで頂いた方、有り難うございます。休んでる間にリニューアルされて驚きましたが、ちゃんと投稿出来てます? 出来てますよね? それでは続きはまた来週。




