45話 遭遇戦
定時更新です。◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。
後半はダット視点です。
◇ ◇ ◇
次の日も休養と言う事で、また温泉へ。
「すげーな、こっちは白いお湯だぜ」
「肌がツルツルになるらしいよ」
昨日とは男湯と女湯を入れ替えて、もう一つの方へ来ている。こっちも広い露天でいいお湯だ。ちなみに、騎士爵家の使用人たちが丹精込めて清掃しているので、女性陣が入った痕跡は微塵も無い。さすがにお湯ごと入れ替えたりはしてないだろうけど・・飲むか?
などと呑気な事を考えながらお湯に浸かっていた頃、俺たちと同時期に王都を出発した魔の森調査の一団は、奥深く分け入った所で想定外の敵と遭遇していた。
◇ ◇ ◇
「ダット! 左側面の援護を頼む!」
「おう、任せろ!」
ったく、こんな所でこんな目に遭うなら志願なんかしねーでアルの相手でもしてやってれば良かったな。
「そっちいったぞ!」
「分かってる!」
分かってるが、こっちの攻撃が通らねえ。なんだよこいつら、ただの猿じゃねーのは分かるが、強すぎだろ。こんなんが群れで襲ってくるなんざ聞いてねーぞ。
「小隊長、熊が相手じゃなかったんすか!」
「無駄口叩いて余計な体力を消耗するな!」
へいへい。確かにこりゃ体力勝負だな。あちらさんの攻撃が単調なおかげで総崩れは免れている。今の所は散発的に飛びかかって来る猿どもを往なしながら会話が出来るくらいの余裕も有るが、こっちも決め手に欠くのが面白くねえ。
「ダット、集中して」
「おう、シルフィーも前に出過ぎるなよ。この数相手じゃ呼吸法も使えねーだろ」
「ええ。分かってるわ」
◇ ◇
しかし埒が明かねーな。猿どもめ、川を背にして陣取るとは頭いいじゃねーか畜生。後ろを気にせず襲って来やがる。だがせいぜい油断してやがれ、半日前に渡った主力の先行隊が戻ってくれば挟撃だ。後続がこうして足止め食ってる事には既に気付いているだろう。問題はそれまで持つかだが・・。
「・・持ちそうにねーか」
こっちは補給部隊を含めた予備戦力だからな。物資や文官の護衛に戦力を割かれている上に負傷者も出始めた。
「おい、後ろに回り込むぞ!」
「私たち二人でですか?」
「しょーがねーだろ、人数少ないんだから。少隊長、いいっすよね!」
「よし、行け!」
「りょーかい! 走るぞシルフィー、距離を取って回り込むんだ」
「仕方ないですね、まったく!」
「あそこだ! あの飛び石を利用して一気に渡るぞ!」
川岸から勢いよく跳ぶ。一つ目の石に左足で着地しそのまま次の石へ踏み切る。二つ目を右足で蹴って三つ目の石へ。少々遠いが身体強化の修行を思い出せば何て事はねえ。よし届くぞ・・ん? これは石なのか? 再び左足が着いた瞬間、大きな違和感を感じたが、今更止まれねえ。そのまま向こう岸まで跳ぶしかない。今足元が動いたよな?
ザバアアアアアアア
「きゃあああああああ」
バシャーーーーーン
後ろでシルフィーの声がした。振り向くと、バランスを崩したのか背中から川に落ちている。深さは大して無いのが幸いか。浅すぎても怪我してただろう。そして、三つ目の石と思っていたそいつは川から半身を出して俺らに向かって牙をむいていた。何だあれは? 猪にしては体毛が無い。そもそも猪が川の中に住んでるなんざ聞いた事がねえ。黒ずんだ体表にずんぐりした胴体、そして胴体の半分ほどもある大きく長い顔。あれは獣なのか? とにかくシルフィーをさっさと引き上げた方が良さそうだぜ。
「立てるか?」
「ええ。ごめんなさい、取り乱したわ」
「反省は後だ、とにかく岸まで・・うお、何だこれは」
岸まで距離は殆ど無い。水深も腰より低い程度だから歩けない事は無い筈だが、何だ? 妙に足が取られて・・あの野郎、やっぱ魔獣か! これは水流操作か!?
「とにかく、お前は先に岸に上がれ!」
「ちょっと、ダット!? どうする気!?」
シルフィーを抱え上げて渾身の力で放り投げた。悪ぃな、怪我させちまうかもだが仕方がねえ。どうするも何も、向こうがやる気なんだから相手するしかねーだろ。どのみちこの状態じゃ逃げられん。大方水流操作で獲物を引き寄せて始末する習性なんだろ。
「ちょっと、痛かったじゃないの。私も戦うわよ」
「馬鹿、何で戻って来るんだ。あんな見た事も無い相手に勝てるか分かんねーんだぞ」
「馬鹿はお互い様よ。それにこの森に入ってから見た事ない物だらけじゃないの」
「ちげーねえ。じゃあ行くぞ、覚悟決めろ!」
「そんなもの、とっくに出来てるわよ!」
◇ ◇ ◇
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続きはまた来週。




