42話 ノルド王国
いったん主人公視点に戻ってその後はフェル視点です。
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昨日の調査はそれぞれある程度の手応えを得られた。いや、俺的には大発見が有った。あの東の町の食堂のメニューに載っていた料理の名を目にした時、また声を上げてしまった。そこにはなんと「豚の味噌漬け定食」と書かれていたのだ。味噌だよ味噌!
醤油が有るなら味噌も有るだろうとは思っていたが、まさか本当に出会えるとは。同じく東の国の特産らしい。そして定食と名乗るだけあって、白米もセットだった! いやもう泣いたよ、泣きながら三人前完食したよ。ニコは乾いた笑みを浮かべているしケイもセットも唖然としてたけど気にしない。夢にまで見た和食なんだから!
あの街は東方の国々からモントールの王都へ向かう人達が最後に泊まる宿場町なんだそうな。石畳の街道の両脇に宿や商店が立ち並んでいた。王都まで半日もかからないが、いったん泊まって身支度を整えたりするのが一般的で、一仕事終えた帰りもここで一息つきつつ故郷の味を食べたがる客が多いんだって。
偶々入った食堂兼宿屋の経営者が東の国出身でメニューに加えてあるんだそうな。
距離的にも近いし王都でも和食が食べられそうなもんだけど、味噌や白米を扱う店は無いらしい。あの刺身を出す店で白米のご飯を出せばいいのにな。こないだ行った時は里芋が付け合わせだった。ともあれ、その東の国で味噌や醤油や米を扱う貿易商とやらを教えて貰ったので後々コンタクトを取って買い付けの相談をしよう。「ハヤマ商店」の「ハヤマ・カズキ」ってなんだか日本人っぽい名前だな。いやまさかね。
そんな訳でひと段落したので魔王探索再開、と行きたかったのだけど、降り続いた雨のせいで大河は濁流となっていた。これでは向こうに渡れない。また出直しかあ。はああ、レイたち今頃どうしてるかな。
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まったく、どうしてわたくしたちの方から出向かなければならないのかしら。向こうから来るのが礼儀では無くて? 連合の盟主とは名ばかりで今はモントールが事実上の中心なのですから尚更ですわ。
「フェル? どうかしたかい?」
「いえ。少し疲れただけですわ」
「あはは。確かにパーティーも立て続けだと胃が疲れてしまうね。でも仕方が無いじゃないか。今回はこちらがお願いする案件なのだから、盟主国まで出向いて行くのが筋だろう。交渉に当たってノルド王のメンツも立てて置くのも肝要さ」
あら、レイにはお見通しでしたわね。
「肝要と言う割にはあの子たちは連れて来なかったのですわね」
「そりゃ、今や連合の中心はあっちだからね。僕らは名を彼らは実を担当すると言う訳さ。それに、あの馬車の乗り心地を体験できただけでも収穫だったじゃないか」
「ええ、あの乗り心地の良さには驚きましたわ」
「ここよりもっと東に有る国の商人が発明したらしい。我が王国以外にも賢者は居るものだね」
わたくしたちがそんな会話をしている間もジンは周りへ視線を飛ばして警戒していますわね。連合国とは交易が殆どないとは言っても敵対している訳ではありませんのに。それとも不穏な気配があるんですの?
「ジンも気を張って疲れたんじゃないかい?」
「大丈夫だ」
「そうか。頼りにしてるよ」
「ああ」
「ジンを頼りにする何かが有りますの?」
「いやいや、そういう訳じゃないさ。心配ないよ。彼らはこの通りちゃんと歓迎してくれている」
「それなら良いですけど」
「まあ確かにアルたちが居ないのは寂しいけれど、高魔力階級が三人も居ればこの会場の二十人やそこら何とでもなるだろ?」
心配して損しましたわ。レイがああやって舌を出してニヤっと笑う仕草をするのは何も問題の無い平穏な証拠ですもの。でもそれならジンはどうしてあんなにキョロキョロしているのかしら。あら、視線が一点に止まってその先は・・あれは獣人の方? こちらに近づいてきますわね。
「殿下、ご挨拶をさせて頂きたく。ハブナ自治領で渉外を任されております、リルガと申します」
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「さっきの件、どう思うかい?」
あの獣人の外交官に聞かされた話にレイも戸惑っている様子。確かに俄かには信じ難いですわ。
「あまり信用しない方が良いんじゃないか?」
「わたくしも同感です。魔法を使える獣人が魔王を名乗っているなんて、作り話では無くて?」
「確かに突拍子もない話だけどね。獣人が魔法を使う事自体聞いたことが無い。それだけに作り話なら不自然過ぎるし、そんな話をわざわざ聞かせる理由も無いだろう」
「では信用しますの?」
「どうだろうね。鵜呑みに出来ないけれど全てが嘘と言う訳でもないんじゃないかな。魔王など存在しないと言う公式見解を補強するのが目的と言った所かな。人は内緒話で言われるとつい信じたくなるものだからね」
「矛盾してるんじゃないか? その獣人が魔王なのだろう?」
「いやいや、だからその獣人は魔王なんて代物ではないと、彼らは言いたいのさ。それで辻褄が合うし我々の懸念も払拭される事になる。リルガ氏の話ではせいぜい五階級程度の魔力しか無い様だから、大したことは出来ないだろう」
「では、魔物の出現との関係はどうなりますの?」
「そうだね。聞かされた話のどの部分が真実でどの部分が偽りか、それに依るだろうね」
「大河の中州に住み着いているのなら、アル達が接触しているんじゃないか?」
「ああ、彼らに期待しよう。所でジン、リルガ氏の秘書は随分と可愛らしい娘だったね」
「なっ、唐突に何を、、」
「いやあ、君が獣人の女の子に興味があるとは初めて知ったよ」
「違う。ただ珍しいと思っただけだ」
「あはは、そう言う事にしておくよ」
ジンが視線で追っていたのは外交官では無くて、その付き人の方だったんですの!?
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ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! なんとか年内にもう一本書けました。次回はまた来週火曜日に。みなさん良いお年をー




