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40話 渡河

定時更新です。


◇ ◇


「お前たち、そこで何をしている!!」


駆け寄って来た二人組は、連合国の兵士だった。そのうちの一人が高圧的な強い語気で怒鳴りつけてきたため、そういった態度が大嫌いなマギーがムッとした表情で前に出て言い返した。


「向こう岸に渡りたいだけだ。君たちには関係無いだろう」

「はあ? 関係無い訳が無いだろう! ここは国境なんだぞ!」

「だから何だ。ホックフォルテガルドの人間が自国の領土に足を踏み入れるのに、何故他国の人間に咎められなければならない」

「何を言っているのか良く分からんが、とにかく勝手な事をされては困る!」


双方一歩も引く様子が無く、視線が激しくぶつかり合って火花を散らしている。兵士は国境警備の担当なんだろう。確かに魔の森との境になっている大河は、連合国の西の端、つまり国境の川でもある。だが、マギーの言い分にも一理有った。


その国境の向こう側は、ホックフォルテガルド王国なのだ。魔の森全体は一応王国の領土と言う事になっている。王都から遠く離れたこの辺りの森なんかは連合国の物にしても良いのだが、森の中に国境線を引いても管理できないと言うのが向こうの言い分らしい。トレンブルハール領との境だって管理している様には見えなかったけど、要は魔物と関わりたくないのが本音なんだろう。海の幸と山の幸に恵まれたこの国では資源を魔の森に頼る必要も無いため、川岸に国境線を設定して、森から魔物が出て来ないか監視しつつ自国民が森へ渡るのも禁止している。そのお蔭か、魔獣戦争以来、連合国では魔物の被害は出ていない。


「あ、あの、あなた方は城壁の国から来たのですか?」


マギーと睨み合いを続けている兵士とは対照的に気の弱そうなもう一人の兵士が、オドオドと俺たちの顔を見回してから、ニコに声をかけた。一番話しやすそうな相手だと判断したのだろう。ああ見えて一番の危険人物なのは教えないでおく。


「うん、そうだよ」

「本当に!? うわわわ、ではあのお方がレイナード殿下!? なんて恐れ多い事を!! 終了です! 私の人生終了です!!」

「違うよ。あれはマギー君」

「では殿下はどちらに・・」

「ここには居ない」

「そうですか。はああ」

「私たち、あの中州へ渡りたいのですが」

「申し訳ありません。それは出来ません。渡るには特別な許可が必要なんです」

「何でだよ、俺たち自由にして良いって言われてるんだぜ!?」

「ヒイイ。すみません、皆さんの事は伺っています。連合国内では通行の自由が与えられていると。ですが、ここから先は国内では無いのです。それに・・その・・困ります、こういうのは」


ケイに凄まれて悲鳴を上げた兵士が顔を上げて目をやった先には、壁やら柱やらの建造物が乱立していた。確かにちょっとやりすぎたかも。


「先輩、こいつら連行しましょうよ」

「わわわ、待って、ちょっと待って。今話を聞いてるから」


高圧的な方の兵士が向き直る。気が弱い方が上司なの!?


「許可が有れば渡れるんだな?」


マギーもこっちの話に加わる。


「はい。ですが許可が下りるとしても日没までに戻るのが条件になります。なので、今日はもう難しいかと」

「許可を取りに戻っていたら日が暮れてしまうわ」

「申し訳ありません。規則ですので」

「出直した方が良いんじゃない?」

「だな。それじゃ戻るか。また明日来るぜ」


陽も傾いて来たので俺たちは王城へ戻る事にした。今日のうちに申請すれば明日渡れるだろう。


「あ、あの、待ってください! 困るんですって!」

「・・ですよね」


帰る前に乱立する土の構造物を片付ける事になった。一帯は再び、穏やかな水面と真っ直ぐ伸びる堤防の、すっきりした景色に戻った。



◇ ◇



翌日、中州へ渡る許可証は貰えた。貰えたが、昼を過ぎてしまっている。モントールの王様が不在で、手続きに手間取ったみたいだ。


「許可証だ。問題ないだろ」

「ええ・・どうぞお気をつけて」

「日没までには戻ってくださいね」


昨日通った道を再び歩いて堤防まで行き、待ち構えて居た兵士にマギーが許可証を提示する。高圧的だった方も大人しく道を空けた。


「では始めましょう」

「がんばる!」


また土魔法で応急的な橋を作る。帰る時にまた片付けないといけないのが面倒だけど、皆でやればそこまで大変じゃないし、まあ良いか。


「じゃあ渡るか」

「行こう」


細長い土の橋を歩いて行く。細長いと言っても長さが有るのでそう見えるだけで、渡るのには十分な幅だ。向こう岸の中州迄そこそこの時間をかけて渡り切った。


「もう一つ向こうも調べるのよね」

「今日はこっちだけで時間切れだろう」

「朝から来られたら良かったのにね」

「上流側と下流側に手分けして探しましょう」

「それで、魔王が居たらどうしよう? レイには全力で逃げろって言われてるけど」

「取り敢えず話しかけてみて、話が出来そうなら他の皆を呼びに行く、話が出来なそうなら逃げるって事で良いんじゃないかな?」

「結局は獣人族の男の子なのよね。普通に話が出来ると思うわ」


そんな訳で、二手に分かれて探す事にした。中州にも葦が茂っているが、岸辺程密度は濃く無く疎らな感じで、近くに人影が有れば多分分かるだろう。しかし、何も見つからなかった。人影どころか痕跡すら無い。何も無いまま中州の先端に出てしまった。


大分陽も傾いて来ている。今迄中央部を遡って来たので、更に二手に分かれて両脇を辿って戻る事にした。このまま手掛かり無しで終わりそうだな。川を挟んでもう一つ向こうの中州が見える。本命はあっちか。ん? あれは何だ? 煙? 俺が立ち止まると、一緒に歩いて居たニコも立ち止まる。


「アル? どうしたの?」

「向こうの中州から煙が上がってる」

「どれ? あー見えるね。細くて白い煙。あそこに狐人族の子が居るのかな」

「そうかもしれない」

「おーい、ここに居たのか。戻るぞ。日没だ」



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 続きはまた来週。

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