04話 レイナード・ホックフォルテガルド
序盤なので投稿ペース上げて行きます。
◇ ◇
視線を向けるとそこには・・おお! 金髪縦ロール! やっぱり異世界には居るんだ! 前世でコスプレイヤーさんがやってる写真を見た事が有るけど、迫力が全然違う。すげえ、本物だ・・と、ついニヤけてしまったのがバレたのか、軽く睨まれてしまう。そして彼女はニコに向き直ると、小さく息を吐いてから、こう言い放った。
「あなたがニコリナ・ソノさんよね。お話したい事が有るのだけど、宜しくて?」
突然の名指しに驚きと不安が隠せないニコ。しかし貴族相手に「宜しく無いです」とは言える筈も無く、
「はい・・」
と小さく返事して立ち上がると、背の高い金髪縦ロール美人は少し離れた別のテーブルにニコを連れて行ってしまった。去り際にニコは俺に向かって頷いていたので、心配要らないよって意味だろう。貴族の令嬢が手荒なマネをするとも思えないし、もしそうなって多分大丈夫。なにせニコは俺より強いからな。見た目は大人しそうだし実際普段は大人しい美少女なんだが。とは言え、精神的な攻撃をされると平民は貴族に太刀打ち出来ない。それは俺が加勢しても同じく太刀打ち出来ないって事だけど、成り行きは気になるので眺めていると・・また縦ロールに睨まれてしまった。
やっぱり女子の会話に聞き耳を立てるのはマナー違反なのか。と言うより俺に聞かせたくない感じだな。仕方が無い、気になるけど暫く外に出てるか。廊下で聞き耳立ててるのも・・やっぱりダメなんだろうな。
◇ ◇
そんな訳で、ニコが心配ではあるけれど、と言うより心配を紛らわす為に、俺は当初の計画通りに校内散策に出た。まずは廊下を奥に進んで科目別の教室を覗いてみる。良かった、広さ以外は俺の知ってる教室とだいたい一緒だ。そりゃさすがに貴族だからってソファーに寝そべって授業を受けたりしないよな。奥の四つの教室はどれも似たような作りだった。剣技の授業にも座学は有るみたい。
そのまま廊下の突き当りのドアを開けて外に出る。目の前、つまり校舎の右隣に位置するのが食堂の建物だ。まだ時間には早いが中を見てみる。・・ここも広い。長テーブルが数えきれないくらい置かれていて、テーブル同士の間隔もかなりゆったりだ。なるほど、確かに貴族の学校だ。講堂の席にギュウギュウ詰めで座ったり、せせこましく食事を取ったりしないと言う事なのね。この無駄な空間こそが貴族の貴族たる所以か。
妙に納得した俺は、今度は校舎の裏手に回る。校舎裏には広いグラウンドが二つ有って、それぞれ剣技と魔法の授業で使う。学園の中では基本的にここ以外での魔法の行使は禁止になっていて、その代わり空いている時は誰でも使って良いらしい。どっちがどっちだったかな。あ、あこで剣を振るってる二人組が居る方が剣技用か。魔法のグラウンドは・・誰も居ないか。
他の生徒の魔法がどんな物か見てみたかったけど、まだ入学して二時間ちょっとしか経っていないから皆のんびりしているんだろう。早々に自主訓練してるあの二人がよっぽど元気なんだね。それだけ剣が好きなのかな。面白そうだったので、俺は校舎裏の壁にもたれて暫く二人組の様子を眺めていた。最初は激しく打ち合っていたのが、だんだんと一撃を入れては間合いを取り直す戦い方に変わってくる。お互い疲れてきてそろそろ勝負がつくのかな、と思ったその時、一方が大きく踏み込んで相手の剣を打ち下すと、そのまま流れるような動きで今度は大きく振り上げた。相手の剣が弾かれて手を離れ、高く舞い上がる。くるくる回りながら高く、高く・・剣ってあんなに飛ぶんだ・・あれ? なんかこっちに!?
つい見とれて反応が遅れた。気が付いた時には回転する剣が落下で速度を増しながら迫っている。俺はとっさに逃げようと駆け出すのだが、
ズリッ ドンッ ドシャア ヒューン・・ゴンッ バリーン
剣から目を離せないまま前を見ずに走り出したせいで、躓いて偶々近くを歩いて居た誰かにぶつかり、押し倒してしまった。飛んで来た剣は俺の肩に当たって跳ね、そのまま勢い余って校舎の窓を割ってしまう。うわー、刺さらなくて良かったー。ツイてないやらツイてるやら。
ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、俺の下敷きになって居る人物の存在を思い出して冷や汗が流れ出る。その横で狼狽しながら、
「レイ!? 大丈夫か!?」
と、声を上げるもう一人が居たが、俺は気が付いていない。ヤバい、入学早々やらかした。誰が相手でも貴族だ。それに、こう言う時に限って相手が重要人物で、酷い事になるのが前世の常だった。悪い予感しかしない。いやいや、ちょっと冷静になろう。漫画やラノベなんかでは相手が美少女ヒロインなのが王道だ。その可能性も捨ててはいけない。それって冷静なのか? とにかく、まずは謝らねば。俺は恐る恐る起き上がりながら声を掛ける。
「す、すみません。余所見をしていたものでつい。お怪我はありま・・げっ」
下敷きになっていたのは、俺でも知っている、いや面識は無いけど、超重要人物だった。さっき講堂で新入生代表のスピーチもしていたその人物は、
「レ、レイナード王子!?」
この国の第二王子だった。予感的中! ヤバいなんてもんじゃない。学園生活どころか人生が終わる。金髪のショートヘアに見るからにイケメンの顔立ちの彼は、慌てふためく俺を尻目に無表情で立ち上がると、ほんの数秒周りを見渡し、そして俺に向かって・・微笑みかけた。
「この通り僕は何とも無い。少しだけ制服が汚れてしまっただけさ」
わ、わわわ、それってどういう意味? 王族の服を汚してしまったから国家反逆罪で死刑? いやその前に押し倒してしまっているから、どちらかと言えば国家転覆罪か。いや、オチをつけてる場合じゃない。
どうして良いのか分からず身動き出来ずにいると、彼は続けて言う。
「ありがとう。君のお蔭で助かったよ」
「え?」
「いくら模擬剣とは言え、鉄の塊が当たればそれなりの怪我をしていたかもしれない」
「い、いや、俺・・わ、私はただ・・」
「君の方こそ大丈夫かい?」
「・・・」
言葉通りに受け取って良いのだろうか。言葉通りに受け取ったとしても、助かったけど服が汚れたから死刑って事も有るよね? 大丈夫ですって答えたら、平民のクセに生意気な! とか難癖付けられたりして。などと、オロオロしていると、そこに
「「も、申し訳ございませんでしたー!!」」
さっきの剣士二人組が物凄い勢いで駆け寄り、見事なジャンピング土下座を決める。へえ、この世界にも土下座ってあるんだ。村では見た事が無かったから、そういう文化は無いものだとばかり。感動が勝って少し混乱が収まって来た。王子の横には、赤毛のいがくり頭でガタイの良い男が立っている事に、ここで気が付く。
「名を聞こうか」
二人組に向かって王子が無表情で問う。
「は、はい、ケイロンド・ノルトポイマーと申します!」
「セレナバト・ビルフォルデと申します!」
土下座のまま蒼白になる二人。王子は顎に手を当てながらほんの数秒考えると、俺に向けたのと同じ微笑みでこう言った。
「ふむ。これも何かの縁だ。君たち今日から僕の友人になりたまえ」
「「は!?」」
「不満かね?」
「い、いえ、滅相も・・」
「よろしい。では立ちたまえ。友人になったからにはそういう畏まったのは無しだ。敬語も禁止する」
「し、しかし」
「諦めろ、レイは言い出したら聞かない奴だ」
いがくり頭が追い打ちをかける。
「勿論、君もだ」
「え?」
王子が急に俺にも振ってくるので、再び混乱し出す俺。
「さて、新たな友誼を早速深めたい所だが、君たちはまずこれの後始末をしなければならないね。ジン、教務室まで彼らに付いて行ってくれないか」
「分かった」
王子は背中越しに親指で割れた窓ガラスを指すと、ジンと呼ばれたいがくり頭は剣士二人を連れ、教務室へと走って行った。
「それでは僕らも行こうか」
「行く・・とは?」
「医務室だよ。君、血が出てるじゃないか」
言われて初めて気が付く。頬が少し切れていた。肩に当たったと思ったけど、剣先が掠ったらしい。
「それにしても僕は運の良い男だ。何しろ入学初日から、あのオーズタットの弟子と友人に成れたのだからね。宜しく頼むよ、アルバス・エンデナ君。僕はレイナード・ホックフォルテガルド。レイと呼んでくれたまえ。君の事はアルと呼べば良いのかな?」
「俺、いや、私の事をご存じなのですか?」
「当然だとも。この学園で知らない者は居ないさ。それと敬語は禁止だ。さっきも言っただろう?」
「ですが、レイナード王子」
「レイだ」
「・・・」
王族らしい威厳のある目で見据えられ、返す言葉が出なくなる。どうしたものか。良い方に転んで、実際に転んだんだけど、王道テンプレ展開だと思って良いのだろうか? でも俺が? 確かに師匠は凄い人だけど、俺は勇者でも無ければ世界最強でも無い、辺境の平民だよ? 普通の平民ではないけれど・・うーむ、これはいがくり頭の言うように諦めるしかないのかな。
迷いを引き摺りながらも俺は言葉を振り絞る。
「わ、わかり・・わかったよ、レイ(王子)」
「そうそう、その調子だ」
怖くて堪らないが、取り合えず心の中で王子と付け加える事で何とか心のバランスを取ることにした。これ、後になって不敬罪とか言われないよね? レイ王子は見るからに上機嫌なので、今すぐ死刑は無さそうだけど。
俺が何故か王族とタメ口で並んで歩くと言う、崖っぷち気分の展開になった一方、ニコは女の戦いの真っ最中・・では無かった。
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