33話 火熊顛末
定時更新です。
◇ ◇
海での予定を一日繰り上げ、王都に帰る事になった。その馬車の中。
「良かったね」
ニコが満面の笑みを浮かべて言って来るが、瞳は恐ろしく冷たい。俺は知っている。これ、一番怒ってる時の一つ手前の目だ。
「な、何が?」
「顔を赤くして喜んでたくせに」
「うぐっ」
気付かれてたか。あれ? これ、ヤキモチ? それならそうでこちらも反撃・・するのは止めておこう。冷たい目のまま笑顔が消えると最終局面だ。それだけは回避せねば。て言うか、本人の目の前でその話するの止めない?
エルフィーはバツが悪そうに、隣で俯いてモジモジしていた。
◇ ◇
九月になり、学園生活が再開される。今年の論文提出は、「地方開拓村における現状の問題点と解決策の考察(改稿)」と題してリベンジを計ってみたが、それが発表会に選ばれる事は無かった。
ニコは「多重魔法発動に関する考察」を書いて出した。別荘に行った時に、皆に説明した偽装の方のやり方を書いて、本当の方法を悟られない様にしたつもりらしいが、藪蛇にならなければ良いんだけどなあ。それと、エルフィーにヤキモチを焼いていた様に見えたのに、あれからも二人でちょくちょく出かけている。俺の勘違いだったのか、女子同士の友情の謎なのか。リリィ嬢は当然火熊について書くのかと思いきや、去年と同じ結論になってしまうから、との理由で別のテーマにしたそうだ。
その火熊に関しては、新たな手掛かりは何も見つかっていない。何故海に居たのか、何処から来たのか、角熊同様に謎のままになっている。王宮は、一帯の海での漁を禁じたが、それも暫くすると解除された。元々あの辺の人たちは、蛸や海月と言った海棲魔獣を相手にしていた為か、魔獣と聞いてもあまり恐れず、禁漁もなし崩し的に終わったらしい。海月と火熊では脅威度が全く違うけれど、仮に火熊が相手なら、海の上に居た方がむしろ安全と考えたのかもしれない。
海を泳いで来たのでも、空を飛んで来たのでも無いのだとしたら、火熊は一体何故あそこに居たのか。これまでの出来事と合わせて考えると、認めたくない結論にどうしても行き着いてしまうので、俺は考えるのを止めた。
そうそう、夏になったら特訓する約束だったダットさんは、忙しくて相手をして貰えなかった。夏は見習い騎士恒例の行軍訓練が有るとかで、長く王都に居なかったらしい。一か月かけて国内をぐるっと歩いて回って、体力と土地勘を養うのだそうだ。騎士団の役目は基本王都周辺の警備だが、場合によっては遠征隊が組まれて選抜される事も有ると以前に聞いたから、それも想定した訓練なんだろう。一番暑い時期に大変そうだよなあ。
やっぱり俺は文官志望の方が良さそう。
◇ ◇
「また頼むよ」
「分かった」
登校初日に早速マギーから、休み明け最初の手紙を托される。頑張るなあ。
「そう言えば、休暇中にリサ嬢が君の所へ行ったんだって?」
「僕の所じゃない、父の所へだ」
「君も帰っていたんだろう?」
「まあな」
「その時に色々話したりしなかったのか?」
「彼女は遊びに来たんじゃない。公私混同だ」
「そう言うもんかね」
「そう言うものだ・・そうか、ジョウキキカンには君も関わっていたんだったな」
「ん?」
「テツドウとはどんな物か知っているか?」
「鉄道?」
「ジョウキキカンを使って、テツドウを走らせる計画を聞かされたんだが、今一つどういう物なのかが想像できない」
「んー・・」
「心配せずとも僕はそれを知り得る立場に居る。ジョウキキカンの事も公式の場で聞いた。君に聞かなくてもいずれ分かる事だが、早く知りたいだけだ」
「そうか、色々知っているのか。なら話しても構わないのかな。でもこれは公私混同にならないの?」
「ならない」
マギーはきっぱりと言って見せた。いや完全に公私混同だろう。釈然としないけれど・・
「まあ良いか。鉄道って言うのはつまり・・」
馬車を蒸気機関で改造して未舗装の街道を走らせるよりも、レールを敷いて線路で結んだ方が、安全に効率的に輸送が出来る。春に師匠に提案した事が、もう実行されようとしていた。マギーの口ぶりだと、今年中にも着工されるらしい。
◇ ◇ ◇
「レイ、少し強引じゃないか?」
「分かっているよ。でもこれしか方法が無いのだから仕方が無い」
「調査が必要なら、軍か騎士団が動くべきだ」
「そうも行かないさ、僕らはあくまで友好的な外交使節として赴くのだから。それに、只でさえ兄上が不在な上に戦力を一部割くんだ、これ以上は動かせない。少なくとも父上はそう判断している」
「しかし、あいつらは平民の学生だ。貴族や官吏の様に義務を負っている訳じゃない。強制は出来ないだろう」
「そうだね。だからこそ学生のうちに、今やるのさ。来年以降の事も考えてはいるけどね」
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続きはまた来週。




