32話 真夏の特訓
更新が一日遅れになってしまいました。
◇ ◇
海で遊ぶのは諦めて、この日は剣の特訓会を行う事になった。別荘の、海とは反対側の裏手に有る、広い芝生の広場で。えー、何でそうなるの? 水着回がダメなら肝試し回でキャーキャーウフフとか、他にもっと有るじゃん!
「魔獣が相手だと、一撃で急所を打つべきか」
特訓を言い出したのはジンだった。
「人相手の剣技と違って駆け引きとかはまた別だよな」
「セットの素早さで、ケイの打撃を加えるのが理想じゃないかね?」
「確かに」
そんな感じで始まる。ケイの剛力はともかく、セットの足捌きは参考にするべきかもしれない。フェル嬢とリリィ嬢は、火熊の目撃情報を求めて出かけてしまった。少し離れた所にある港まで行って、漁師に海で何か異変が無かったかを聞くんだと。ニコはエルフィー相手に模擬戦をやるみたいだ。
「まさか僕がジンに教える事になるなんて」
「いや、お前の動きは以前から気になっていた」
「そんなに特別な事はしていないよ。こうやって、こんな感じで、自然と動けるように体に覚え込ませるんだよ。ね?」
「それが出来りゃあ苦労しねえよ。十年付き合ってもちっとも真似出来ん」
「あはは、ケイにはケイの武器があるから良いと思うよ」
「出来ればどちらも習得したい」
「やれやれ、ジンは欲張りだね。僕は今でも十分に強いと思っているよ」
特訓は続く、セットが言うには、動きのパターンを幾つか覚えて、状況に応じてどのパターンで動くか、反応が無意識に出来るまで繰り返し練習するんだそうだ。本当にそれだけなのかな?
「たったそれだけ?」
「実際は、反応した後に動きを加えたり、組み合わせたりしてるよ。その辺りは臨機応変かな」
なんだ、たたの天才か。
◇ ◇
昼になり、別荘の使用人が持ってきてくれた弁当を芝生の上で食べる。お、この揚げ物は蛸だ。昨日の魚料理も美味かったなあ。
「ニコお姉さま、午後は魔法を教えてください!」
タコ焼きの様な何かを手にしながら、二部練を申し出るエルフィー。昨日もそんな事を言ってたな。でも、もう疲れたよ。せっかくピクニック回の感じになって来たし、膝枕のやり方なら俺が教えてあげるけど?
「僕もご教授願いたいね。四つの火球を同時に出したのには、とても驚いたよ」
「ああ」
「僕は攻撃魔法が得意じゃないけど、どうやっているのかは知りたいな」
「俺にも教えてくれ」
あ、この流れはダメだ。
特訓第二部、ニコ先生による多重魔法講座が始ま・・ん?どうした? ニコが寄って来て俺を皆から離れる様に引っ張っていく。
「ねえ、どう教えたら良いのかな?」
「ニコはアレをどういうイメージでやってるの?」
「えーとね、この辺のとこの辺の魔素をこうやって掴み取る感じで・・」
「あー、分かった、分かったから、その仕草は止めよう!」
ニコは両手で空をワシワシと掴んで見せた。これアカンやつや。そのまんま教えると世界中がパニックになってしまう。困ったな。やっぱり教えない! とは今更言い辛い雰囲気だし、どうしたものか。
「そしたらさ、こんな風に説明したら良いんじゃないかな・・」
◇ ◇
「ニコお姉さま、難しいです!」
「これは、そう簡単にはいなかい様だね」
体内魔素を両掌に集中させ、それを二分割してそれぞれ親指の先と小指の先に移動させるイメージ。そんな説明にした。
「アル先輩も出来るんですね、凄いです!」
俺も皆と並んで教わる振りをしている。実際には、親指の先と小指の先に、空気中から魔素を引き寄せているので反則なんだけど。
「えーとね、まずは両手に一つずつなら出来る?」
「それも難しいです」
エルフィーの両掌に、弱い炎がフワフワと現れるが、球にはならない。
「剣を持ちながら片手で魔法を使う練習はしているんですけど、両手ではやった事が無いので・・」
なるほどそうか。あれ?でもフェル嬢やリリィ嬢は両手から交互に氷柱を打ち出していたよな。スタイルの違いで不慣れなだけで、出来ない事は無いのかも。
「うん、まず両手に一つずつ、それを確実に出来るようになろう」
「はい! あ、でも私、土魔法の方が得意なので、石弾でやりますね」
ふんっと気合を入れて、彼女は石弾魔法を発動させた。両掌の前に、拳大の石が現れる。が、直ぐに片方が砕け落ちてしまった。
「二つ同時に保つのが難しいです」
それでも諦めすに続ける。何度か繰り返して、砕けてしまわなくなったが、両方の石はフルフルと震えて安定していない。
「難しい・・でもあと少しで、あっ」
左手にあった石がピクッと大きく怪しい挙動をした次の瞬間、それが真横に飛び出した、
ゴンッ!
◇ ◇
う・・俺は・・気を失っていたのか? 気が付くと、後頭部に何やら暖かくて柔らかい感触がある。
目を開けると、エルフィーが心配そうな表情で上から覗き込んでいた。お、おおお、これってもしかして、夢にまで見たアレか! ニコにもやって貰った事が無い!
「アル先輩・・ごめんなさい」
コントロールを失った石弾が、傍で見ていた俺の額に直撃したらしい。何てツイてな・・いや、なんてラッキーな事に!
「大丈夫! 気にしないで! ほら、戻ろう」
ダメな振りしてもう暫く膝枕の感触を楽む、などと言うセコイ事も一瞬頭を過ぎったが、顔が赤くなっているのを自覚出来るくらいに火照って来たので、俺は慌てて起き上がり、そそくさと歩き出す。
「本当に大丈夫なんですかー?」
エルフィーが後を追って来るが振り向く訳には行かない。広場の脇の木陰から、魔法の練習を続ける皆の所へ向かって急いだ。
◇ ◇
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続きはまた来週。




