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30話 漂流物

定時更新です。


◇ ◇



王都から二日、着いた。馬車を降りると、透き通った青と言うより水色に近い澄んだ海が目の前に広がっている。白い砂浜は遠くまで続いていて、それを見下ろすように立派な屋敷が建っていた。これがライランズベキア家の別荘かあ。凄いなあ。この浜も、プライベートビーチらしい。


「また今年も来られましたわね」

「フェル、ありがとう!」

「私も、連れて来て頂いて、有り難うございます!」

「僕は久しぶりにお邪魔するけど、変わらず美しいね」

「壮観だなあ、おい」

「僕もこんな綺麗な海は初めて見るよ」


屋敷に入るのを後回しにして、非日常の風景を堪能する。引き寄せられるほどの絶景だ。暫く浸っていると、


「あれ、何かしら?」


浜へ降りて行ったリリィ嬢が海の方を指していた。皆で寄って行くと、何やら茶色い大きな物体が波間に漂っている。


「タコじゃないわよね」

「そうですわね」


その漂流物は、だんだんと浜へと近づいていた。


「僕には獣の毛皮か何かに見えるよ」

「ああ、獣の死体じゃないか?」


皆が見つめる中、その物体が波打ち際まで流されて来ると、次の瞬間!


ザバアアアアアアーーーーーーーーーー!!

「「きゃああああああああああああ!!」」


茶色い毛皮の様な何かが突然、”立ち上がった”。リリィ嬢とエルフィーが悲鳴を上げる。


「ツノグマだと!?」

「レイ! フェル! 下がれ!」

「前のより大きくない!?」


以前遭遇したものより一回り大きな角熊が、両腕を高く上げてこちらを威嚇してきた。


「一度倒した事があるからな、臆する事はないぜ」

「そうだね」


ケイとセットが剣を構える。ジンはフェル嬢を庇う様に剣を向け、下がれと言われたレイ王子も並んでいた。俺とニコも取り囲むように位置を取る。エルフィーも、大型魔獣の実物を見るのは初めてだからか、少し震えている様に見えるけど、気を取り直して隣で構えている。


「待って! 皆下がって! それはツノグマじゃないわ!」


リリィ嬢が叫んだ。確かに良く見ると、ツノグマとは微妙に違うような・・色も黒じゃなくて茶色だし、角も一本じゃなくて小さいのが二本付いている。


良く分からないけど言われた通りに数歩下がる。角熊もどきは爪攻撃を仕掛けて来る様子も無く、両手で空中を掻く様な仕草をしてから、口を大きく開けた。あれ、今、目が合った?


「避けて!!」


角熊もどきの口から何かが発射される。え!? 火の玉!? 何それ!? 狙いは俺!?


「!!」


俺は咄嗟にエルフィーに飛びかかって押し倒した。背中にほんのりと通過した火球の温度を感じる。掌にも、何か柔らかくて暖かい感触が。こ、これは、もしかしたら・・


「あの、」

「あ、あああ、いや、ごめん! 平気?」

「はい・・ありがとうございます」


震える手を極力自然な動作を装って引っ込める。押し倒された拍子に怪我してないかが心配だったのだけど、無事みたいだ。怒っても無いみたい? 取り敢えず今はそれどころでは無い。そういう事にしておいて!


「火球魔法!?」

「それはヒグマよ! 距離を取って!」


俺たちは改めて距離を置きつつ火熊を取り囲む。しかし、離れていると剣が使えない。


「これは、お返し!」


ニコが火球魔法を叩きつけた。火熊は動じていない。


「耐性が有るみたいだね」

「ええ、火は通じないわよ」


火魔法を使うから火には強いのか。でもちょっと毛皮が焦げてる様な。火熊の方もニコに向かって火球を打ち返す。ニコは水魔法で盾を作ってそれを防いだ。


おいおい、危ない事するなあ。本来なら火魔法を水で防ぐのは自殺行為だ。よほどの魔力差が無い限り、水蒸気爆発を起こしてしまう。今だって、白い煙がシュウシュウと立ち昇っている。


「おい、ニコ!」

「大丈夫! 何枚も重ねてるから!」

「それは凄いですわね」

「どれだけの魔力があるんだ?」


多重防壁か。色々考えてるんだな。それを一瞬で形成する魔力があってこそだね。でも、やっぱり見てて怖いから、


「あのさ、土でやれば?」

「えー」


えーじゃないよ全くもう。ニコは前が見づらいの何のとブツブツ言いながらも、土の盾に代えて火球の打ち合いを続けた。土の盾も、相応の魔力差が無いと撃ち抜かれちゃうんだけど、爆発よりはマシだ。


「以前と同じ作戦で行こうじゃないか」


レイ王子が手で合図の準備をする。火熊の注意がニコに集中しているので、その隙に一斉に飛び込む策だ。


「フェルとリリィは援護を頼むよ。いいかい? よし、今だ!」


六人同時に突っ込んで行く。四方から切りかかろうとすると、


「うわっ!?」


火熊が急に向きを変え、自分の足元に火球を吐いた。狙われたセットが高く飛び跳ねてギリギリで避ける。


「うおっ!」


地面で弾けた火球の余波がケイに飛ぶ。幸い威力は弱くて籠手で跳ねのけたみたいだ。俺はその間に火熊の右足に剣を打ち付ける。が、硬い。まるで刃が立たない。


「なんて硬さだ」


左足を攻撃していたレイ王子とジンも、有効打を与えられていない。すると今度は、炎を纏った爪が頭上から襲ってきた。


「ひえっ」


俺は前方に回転するように転がって、股の下を通り抜けて背後に出た。そんな火の使い方も出来るのかよ。今度真似して剣に炎を纏わせてみるか。威力はさて置き見た目がカッコ良さそうだ。などと考えながら起き上がると、同時に火熊も振り返る。がっつり目が合って、大きく口を開けた。まずい、ここままでは直撃だ。土魔法でガードを・・


ドスッ! ドスドスッ!


鈍い音がして、火熊はさらに横を向く。援護の氷柱魔法が当たったらしい。効き目はほとんど無さそうだけど、助かった。今のうちに距離を取ろう。ん? 効き目はほとんど無い? いや、あれで良いのか!


ひとつのアイディアが浮かんだ。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! ブックマークして頂いた方、大感謝です!

続きはまた来週。

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