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25話 春期休暇

◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。主人公視点に戻ります。





◇ ◇ ◇



三月、俺とニコは春期休暇の一か月間を使って帰省する事にした。休みがほとんど潰れてしまうが、ニコも帰りたがっていたし、夏も帰って無いのでそろそろ顔を見せないとね。旅費は師匠が出してくれた。夏季休暇の研究費用は使わなかった分は返却しなければならず、残っていない。俺は本を一冊買っただけだったので、かなり余らせてしまった。この世界の本は高価で、普段のお小遣いではちょっと買えないから助かったけど。


ニコは王都の高級レストランを散々食べ歩きした分を計上して、半分以上使ったらしい。ちゃっかりしている。俺もご相伴に預かったので文句は無いが、もっと何か理由を付けて使えば良かったよ。


馬車を乗り継いで揺られる事十日、更にそこから丸一日歩いて、一年ぶりのエンデナ村だ。乗り継ぎが上手く行って村から王都に来た時よりは早かったけど、やはり遠い。かなり疲れた。でも、久々の家族揃っての夕食はやっぱり嬉しい。


「上手くやれてるのか?」

「まあ、そこそこね」

「魔法の授業もあるんでしょう? 大丈夫なの?」

「魔法は、俺たちは見てるだけかな。そのかわり、他の科目で頑張るよ。剣なんかは大分上達したと思うよ」

「そうなの。でも怪我には気をつけてね」

「うん、気を付けるよ」


色々聞いてくる両親に、なるべく心配をかけない様に俺は答える。ちょっと心が痛むけど、魔法が使える事は、両親にすら秘密なのだ。薄々感付かれている気もするが、仮にそうでも何故使えるのかは隠し通す。二段構えだ。


村で過ごせる時間は三日だけだったが、論文にリアリティが無いなどと言われてしまった俺は、その殆どを畑仕事に費やした。丁度季節的に種を蒔く時期だったので、やらせて貰う事に。


「もっと、土を上下に入れ替える感じに」

「分かった」

「ちゃんと下半身を使わないと腰を痛めるぞ。剣もそうじゃないのか?」

「ああ、うん、そうだった」


素人丸出しのぺっぴり腰で畝を作っていく。以前よりも腕力は付いたと思うが、その道うん十年の父さんのペースには付いて行けない。力の入れ具合が剣とは全然違うんだよ。ふんっ、と鍬を振り下ろすのは良いが、土にひっかかってよろける俺に、父さんは飽きれる様子も無く付き合ってくれている。


昼の弁当を食べながら休憩していると、向かいの畑の家の人がやって来て、父さんとこんな話をし出した。


「なあ村長、さっき行商人から聞いた話なんだがよ、何でも砂漠の国で魔獣が出たんだと」

「魔獣? 砂漠に魔獣が居る訳が無いだろう」

「俺も変だと思うんだが、そういう噂を聞いたって言ってたぜ」

「噂か。誰かが面白がって作り話をしているんじゃないか?」

「そうかも知れねえ。いくらなんでもおかしいよな。まあ、一応知らせておくぜ」

「ああ、ありがとう」



そう言ってお向かいさんは畑へ戻って行った。


「王都の件と言い、何だか物騒だな。アル、お前も気をつけろよ」


角熊出没騒ぎの事は遠く離れたエンデナ村にも伝わっている。その当事者が俺たちだったとは、それこそ心配をかけるので言わない事にしていた。ニコは武勇伝を家族に自慢したかった様だが、そんな危険な目に遭ったと知られたら、ニコを溺愛するあのお父さんの事だ、村から出して貰えなくなるかもしれない、そう説得した。魔法の事もバレてしまうし。



◇ ◇



短い滞在が終わり、噂話をもたらした行商人の馬車に途中まで乗せてもらって王都への帰路に就く。道中、砂漠の国の噂について俺たちも聞いてみたが、ただ魔獣が出たらしいと噂になっている事以外は何も知らないそうだ。魔獣は基本的に魔の森にしか居ないのだから、きっと父さんの言う通り作り話か何かの見間違いだろう。


俺は一つの可能性を敢えて考えない事にした。せっかく楽しい帰省だったのだから、楽しい気分のままで居たい。



王都の寮に戻ると、師匠から手紙が届いていた。ついに、本格的な蒸気機関が完成したらしい。実物を見せて貰うべく直ぐに飛んで行くと、師匠の屋敷の中庭で、俺たちが作った物よりもずっと大きな、馬車の荷台ほどもある黒い鉄の物体が、白い蒸気を噴きながらガタガタと動いていた。


回転運動と往復運動のどちらでも取り出せる様に切り替えが出来て、今は大きな車輪がぐるぐる回っている。燃料は炭に錬金を施して火力を上げた物を使っているとの事。赤と言うより金色に近い炎が燃え上がる様子は中々の迫力だ。


「さすが師匠。凄いですね」

「肝心なのはこれからだ。この動力を、どう活かせば良いと思うかね?」


活用先かあ。何にでも使えそうだけど、蒸気機関と言ったらやっぱりアレだよな。もしくはアレか。いや、アレも捨てがたいな・・などと、妄想を膨らませていると、


「これ、畑を耕すのに使えるかな」


ニコに先を越されてしまった。耕すって、耕運機的な何かを言っているのかな。エンデナ村みたいな小さな場所だとオーバースペックな気もするが。


「そうだね。畑仕事の様な、今まで大変だった作業は随分と楽になるだろう。しかし私はこれを馬車に使えないかと思っている」

「馬車はウマが曳いてくれるから要らないんじゃないの?」

「ウマは休ませなければならない。これを使えば夜通し走れるはずだ。暗い夜道を如何に安全に走らせるかが課題だがね」


舗装路など殆ど存在しないこの世界の街道で、夜でも安定して安全に走らせるとなればアレしかない。あまり前世の文明を持ち込むのも気が引けるが、目の前でガタガタシューシュー動いているこいつを目の前にしてそれを言うのも今更だし、いずれ誰かが思い付くだろう。


「あの、師匠!」


俺は勢いよく手を挙げた。



◇ ◇



ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 来週はGWなのでお休みします。

続きはまた再来週。

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