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23話 新年

いつもより遅い時間になってしまいました。

◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。



◇ ◇ ◇



今年の授業がすべて終わり冬期休暇に入った。休みは、十三月の最終週と一月の最初の週の二週間だけなので、夏季休暇に比べると短く思うが、まあ、こんなもんだろう。そろそろ実家に顔を出したい所ではあったが、二週間では往復すると新学期に間に合わなくなるので諦めた。


その代わりと言っては何だが、ニコと二人で新年の祭りを楽しむ事にした。年内は二学期の復習会を師匠の所でやって、年明け早々に街へ繰り出す。村でも新年は大人たちが酒を飲みまくって祝うが、王都では、年末の三日間と新年の三日間にかけて大通りに露店が並び、中央広場では催し物も行われて、まさに俺が知ってる前世のお祭りと一緒だ。


途中で買った鹿肉の串焼きを二人で頬張りながら、露店を眺め歩く。金魚掬いは流石に無かったけど、的当てなんかは有った。この世界に銃は存在しないので、使うのはおもちゃの弓矢。掌ほどの小さな弓に、棒の先にスポンジの様な何かを付けた矢で、棚に並んだ品々に向けて射る。弓が全く安定しなくて最初は苦労したが、結構面白かった。その景品でゲットした、黄色く塗られた木彫りの太った兎を抱えて、ニコが今度はアクセサリー売りの前で立ち止まる。


「あ、これもかわいい!」


見ると、空色に光る小さな石の付いた指輪を眺めていた。宝石と言う程の物では無いらしく、値札の額は俺たちでも買えるくらい安い。きっとガラス細工だろう。ここはやはり甲斐性を見せるべきか。


「いいの?」

「たまにはね」


さっきの鹿肉も払ったので全然偶じゃ無いけど。


俺が買ってやると、ニコは、えへへー、と笑いながら、左手の薬指に指輪を嵌めて見せた。え!? この世界でも、意味は前世と同じだ。うわわ、これ迄ラブコメ学園生活とか言いながらラブコメ要素がめっきり少ないと思っていたら、ここで来ますか!無理やりねじ込んで来たな、誰がねじ込んで来たんだろう、いやいや、余計な事を考えるのはよそう。


戸惑う俺を他所に、ニコは先に歩き出していた。その手を見ると、指輪はいつの間にか右手に嵌め代えられていた。



◇ ◇



その後俺たちは中央広場で観劇を楽しんだり、また露店で食べ歩きしたりと、一日中祭りを堪能した筈なんだけど、劇の内容は殆ど覚えてないし、何を食べたのかもはっきりしない・・だってやっぱりニコの様子が気になるじゃん!


そりゃ幼馴染で仲も良くて、俺の事は好きだろうけど、好きにも色々ある訳で、れ、恋愛とか、そう言うのはきっとまた別だろうし、別だよね? 別じゃないの? どうなの? あーもー分からん! こういう展開を望んで居たのに、いざ目の当たりにすると頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。泣けてくるくらいのヘタレっぷりは前世と変わらないなあ。こっちの世界に来て少しはマシになったと思っていたのに。


はああ。まあ、ちょっと落ち着こう。願望は願望として、あまり期待を表に出さない方が良いよね。


ニコの方は普段と変わらない感じで笑顔を向けて来る。仲の良い幼馴染同士でちょっとふざけてみただけなのかも。



◇ ◇ ◇



間違えちゃった! こういうのは中指か右手にするんだっけ。アルもびっくりしてた。ちょっと恥ずかしい。でもいいや、どうせいつか左手に嵌める事になるんだから。



◇ ◇ ◇



短い休みがあっという間に終わり、今日から最終学期だ。この学園には中間試験とか期末試験とか言うものは無いが、日頃の授業で理解度が足りないと思われた生徒は春期休暇返上で補習が有るので、この期に及んで印象を悪くする訳にはいかない。今迄以上に気を引き締めて臨まねば。ちなみに上級生は、二月半ばに卒業審査があり、無事合格すれば晴れて卒業。不合格だと卒業資格を得られないまま放校扱いになる。補習や再審査は無い。留年も出来ない。厳しい世界だ。と言っても、元々優秀な者だけが通える学園なので、皆きちんと卒業して行くらしい。


サロンに入って丸テーブルに座り、ほどなくやって来たフェル嬢たちとも新年の挨拶を交わす。祭りには他の皆も誘ったのだが、年末年始は忙しいと断られてしまった。貴族だし、社交界ってやつ? レイ王子なんかは特に忙しかったに違いない。俺としては結果オーライだったけど。


丸テーブルにくっついた長テーブルで、新年最初の女子会が始まる。あれ以来、俺とニコとの間は特に気まずい雰囲気も無く、かと言って何か進展らしきものが有る訳でも無く、至って今迄通りだ。今迄通り・・なのだが、隣の議題が天然田舎娘の右手にしれっと嵌めてある指輪の件なのがどうにもドキドキしてしまう。思い出して赤くなる顔を背ける様に教室を見回す。


すると、おや? マギーの姿が無い。毎朝決まって俺たちよりも先に来ているのに。授業が始まって教室に移動してからも、彼の姿は無かった。風邪でも引いたのだろうか。この世界の人間は、滅多に風邪など引かないのに珍しい。彼は暫く休んでいたが、十日ほどすると、また普段通りに俺たちより先に来ていた。表情がいつにも増して苦々しく見える。去年のうちに手紙と返事を渡してからは、新たな配達はしていないのだけど。


「やあ」

「やあ」

「休んでいたのは風邪か?」

「いや、ちょっとな」


風邪では無いならどうしたんだろう? それ以上理由は答えなかった。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 続きはまた来週。

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