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22話 学術発表会

3月後半はお休みを頂いたので、半月ぶりの投稿になります。お待たせして申し訳ありません。

◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。


◇ ◇



年の瀬も迫る十三月下旬、学術発表会の時期が来た。上下級生からそれぞれ選ばれた五人ずつが、二日間に渡って研究の成果を発表する。俺たち九人の中からは、リサ嬢とリリィ嬢の二人がが選ばれた。レイ王子が発表者リストに入っていないのが、少し意外な気もする。あれだけ洞察力に優れるのだから、さぞ立派な論文を書いたに違いないのだが。あるいは立派過ぎて、王宮に持って行かれてしまったとか?


ともあれ、俺にとっては授業も無くて、気楽に拝聴させて貰うだけの二日間なので、殆ど休日気分だ。これが終われはすぐに冬期休暇でのんびり出来る。


発表会一日目の午後、リサ嬢が講堂のステージに登壇した。堂々とした振る舞いで、王国の財政の今後の見通しについて語る。分かり易く図も交え、現在の王国が十分に食料を自給出来ていて安泰な状態である事を説明し、その上で、外国との交易をもっと活発化させるべきだと主張した。余裕のある今こそ投資を行い、より国を発展させるべきだと。投資の見返りは、彼女の試算によると国の財力を倍増させるほどの物だった。


「以上です」


リサ嬢の公演が終わると満場の拍手が起こった。さすが財務相の娘。使われていた資料も最新のデータで正確な物みたいだ。


外国かあ。王国の北の端の山脈の向こう側に、小規模な自治領を纏めた形だけの連合国がある。だが寒冷な気候でこれと言った特産物も無い為に交易は殆ど行われていない。その国に近年発達してきたカラクリ工芸品を売り、その対価として連合国で薪の代わりに使われている燃える泥を買って来ようと言うのだ。その方が国内で木を伐採するよりも長い目で見ればコストが安くつき、人口が増えても森林を枯らさずに済む、という話だった。


燃える泥と言うのは、多分石油の事だろう。王国では石油は出ないが、彼の地では採れて、寒冷で育ちにくい木をなるべく切らない様にそれを利用している。そう政治の授業で習った。遥々山脈を越えて石油を運ぶより、近場の森から木を切って来た方が手っ取り早いから、今まで誰もそんな事は考えなかったし、実際に貯蔵中継地とかのインフラが整備されていない現在では元が取れないだろう。彼女はその費用も含めて試算して見せた訳だ。


王国の東の果ての、エンデナ村からも見える山脈の向こうに、砂漠で暮らす民の国もあるが、そっちは特に触れられなかった。


二日目午前、今度はリリィ嬢の番だ。緊張した面持ちで発表を始める。自分の体験に基づいて語られたその話は、絶滅したとされる大型魔獣が魔の森の奥深くで生きながらえていたに違いないという推論だった。彼女は膨大な文献を虱潰しに調べ、その中から百年近く昔に書かれた物と、四十年ほど前に書かれた物に、ツノグマそのものでは無いが、その痕跡だったとも受け取れる記述が有った事も示して見せた。これまで二百年以上前に絶滅したとされていたのだから、これだけでも新発見とも言える。彼女はそれを魔物に関する書物ではなく、薬草研究の記録や紀行記から見つけて来たのだ。


だが、それがどうして王都の近くに現れたのかについては、結局上手く説明できず、些か消化不良なものに終わった。幾つかの仮説を示して同時に反証を述べ、可能性をある程度潰すのが精一杯で、結論としては、分からない、と言うものだった。会場の雰囲気もちょっと微妙だ。それでも、森の奥から遥々歩いてやって来た可能性をきっぱり否定してみせたのは、中々見事な態度だったと思う。


「はあ、やっぱり肝心な部分が抜けているのでは、ダメよね」


大役を果たしたリリィ嬢が食堂で溜息をつく。


「良く調べ上げたと思いますよ」

「リリィは頑張ったと思うな」

「そうですわ。わたくしも感銘を受けました」


少し笑顔に戻るリリィ嬢。


「僕も色々考えてはみたけど、やっぱり謎だよね」

「セットが分からないのなら、俺が分からなくても当然だな。すまんなリリィ、役に立てなくて」


セットやケイにも相談していたのか。ちょっと空気が重くなる。こういう時にいつもなら、レイ王子がさらっと場を軽くするのだが、今日は何故だか妙に静かで様子がおかしい。ジンはいつも静かだ。て言うか、あれ? ニコは何で俺を睨んでいるのかな?



◇ ◇



食堂を出て、それとなくレイ王子に声を掛けてみた。


「何か悩み事?」

「ああ、すまない。少し考え事をしていたよ。大した事じゃないんだ」


取り繕った様な笑顔を見せる。やっぱりいつもと様子が違う。即断即決が信条なのに、考え込むなんて。


「そう言えば、レイの論文は歴史について書いたんだっけ? 詳しく聞かなかったけど、どんな内容?」


一瞬躊躇して、彼は小声で答えた。


「魔獣戦争さ」

「・・・」

「出来が悪かったのか、残念ながら選ばれなかったがね」

「やっぱりあの件と関係してるの?」

「分からない。なるべくなら、関係して欲しく無いと思っているよ」

「秋に森に行った時、レイに役目が回って来るとか、ジンが言ってたけど・・」

「そうだね。ツノグマは実際に居た。きっと絶滅せずに森の奥深くで生き残っていたのだろう。それ自体は問題では無い。二百年前もそうだったのだから。でももし森の奥から溢れて出て来る程に増えているなら・・」


レイ王子の表情が少し曇る。


「魔獣戦争の再来? レイが戦うの?」

「いやいや、戦争になれば兄上が軍を率いて戦う。僕も加わるかもしれないが、それ以前にやる事がある。軽々に軍を動かす訳には行かないからね。必要を見極める為の調査が先さ」

「騎士団がやるのでは? 夏の時はそうだったでしょ?」

「あれは王都の側だから応急対応出来たんだ。それこそが騎士団の役目でもある。でも、本格的に長期で森の奥まで調査するなら、別に編成された部隊を作る事になる。騎士団の一部、軍の予備役、貴族の有志、それに分析官の混成部隊って所かな。そうなると、王族が指揮をとらなければ纏まらないだろう。そこで、内政に忙しい父上や、軍の掌握に必要な兄上に代わって、僕の役目と言う訳さ」


どうやらこの国なりの手順とかしきたりみたいなのが有るらしい。


「はあ。なるほどねえ。でも、他の角熊の痕跡は見つからなかったのだから、その必要も無いんじゃない?」

「今の所はね」

「今の所は・・」

「ジンは行きたくて仕方が無い様だけどね」

「え?」

「冗談だよ。そうなる可能性を見越して、自分の目でもっと森を見ておきたかったのだろう。ああ見えて心配性なのさ」


レイ王子は、いつもの自然な笑顔に戻っていた。ジンが心配性なのは、結構見たまんまだと思うんだけどなあ。



◇ ◇ ◇



リリィの発表会が終わった。リサの発表も凄かったな。ちょっと難しい内容だったけど、素敵な未来が待ってるみたい。すっきりした顔のリサと違って、リリィは残念そうな表情をしているけど、沢山頑張ったんだし十分に凄いよ。


ツノグマがどうやって来たのかを、アルに相談した時に、分からないって言われたけど、あれは本当は分かっている顔だ。幼馴染だもん、ちゃんと分かるんだからね。



◇ ◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! ブックマーク頂いた方、大感謝です!

続きはまた来週。

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