表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/67

20話 再び森へ

また一日遅れてしまいました。◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。


◇ ◇



針一つ刺せないヘタレ、と言う不本意かつ不名誉な二つ名を拝命してから十日ほど過ぎた。あの時真っ先に俺が指名されたのは、平民だったからみたい。何だよ、貴族だって針を刺すのは嫌なんじゃないか。


まあそれはともかく、十一月最初の週末、俺たち九人はまた魔の森に来ていた。リリィ嬢が書いた夏季休暇の課題論文が学術発表会の対象に選ばれたので、その追加調査の為だ。論文の内容は魔獣に関する考察。俺たちが出くわした、本来は居ない筈の角熊に関するものだった。何故森の浅い所に絶滅種が居たのか、それを解き明かそうと言うのだ。怖い思いをさせられた意趣返しでもあるのかな? 最初は女子同士四人で調査するつもりだった様だが、万が一の事もあるので、皆で行く事になった。戦力的にはニコが居るなら十分な気もするけど、そこは俺たち男のメンツって物も有る。意外だったのは、彼女達に付いて行くのを真っ先に言い出したのがジンだった事だ。もしかしてリリィ嬢に気が有るとか?


「お前はどう思う」

「リリィ嬢の事?」


森を分け入って進んでいると、そのジンの方から珍しく話しかけて来た。


「何を言っているんだ? ツノグマがあの二匹だけなのか、他にも居るのか」

「ああ、そっちね。多分居ないんじゃないかな。少なくともこの辺りには。騎士団が捜索したんだし」

「この辺りには、か」

「今回の調査、随分乗り気だね」

「気になるからな」

「へえ」

「・・・。ツノグマが復活しているのなら、王国の危機だ。理解しているのか?」

「大袈裟だなあ。たった二匹で。二百年前はそれなりに居たんでしょ?」

「二匹だけならな」

「二匹だけじゃ無かったら?」

「レイに役目が回って来る」

「??」


ちょっと何を言ってるのか分からない。全く、ジンはいつも言葉数が少ないんだよ。そうこうしているうちに、目的地に着いたらしい。


「ここで合ってるよね?」


前回とは反対に、先頭を歩いていたセットが開けた場所で立ち止まる。


「実に四か月半ぶりだね。少し懐かしいよ」


最後尾のレイ王子が追い付いて、俺たちはすぐに設営を始めた。野営は三度目なので手際も良い。ちなみに実習で来たのはこことは別の場所になる。


「では、日が暮れるまで調査ですね」

「皆、宜しくね。本当に助かるわ」

「わたしも頑張る」


今回は調査目的なので、食糧は予備の携帯食以外にも予め持って来ている。狩りは無しだ。俺たちはまず角熊遭遇地点まで行って、そこから三人ずつ三方に分かれて、暗くなるギリギリまで調査を行った。行動範囲を確認する為に、木の高い所に有る大きな爪痕などを探すのだ。


ニコが探知したであろう辺りから遭遇地点にかけては、確かにそれが有った。だが、その先や別の方角にはそれらしきものは全く無かった。数カ月経っているので、苔に隠れて見落とした可能性もあるが、それにしても、まるで突然そこに現れたかのような痕跡だった。翌日になって調査範囲を広げても、何も手掛かりは見つからなかった。


「何か参考になりましたか?」

「何も。余計に分からなくなったわ」

「爪痕は確認出来たのですから、成果は有ったのではなくて?」

「そうれはそうだけど・・」

「リリィ、お手伝い出来る事が有ったらまた言ってね」

「ありがとう、ニコ」


撤収の片づけをしながら話す女性陣。レイ王子とジンはそれを手伝っている。もうすっかり以前にも増して仲良しだね。古い友人って言っていたし、元から仲は良かったけど。しかし、俺も何か違和感を感じるなあ。調査に来た騎士団も、きっと同じ印象を抱いただろう。あの時はただ魔獣はもう居ないとだけ発表されて、詳しい事は公表されていないが。


そんな風にうわの空でターフを畳んでいると、脇の茂みから、ザザッっと音がした。


「!?」


何か大きな物体がこちらに向かって飛び出して来る。


「また魔獣!?」


リリィ嬢はニコの陰に隠れて悲鳴を上げるが、それは・・猪だった。前世の軽自動車、程では無いが、スクーターよりは遥かに大きい大人の猪だ。油断は禁物だけど勝てない相手ではない。が、今は片付け中で手が塞がっている。一瞬俺が戸惑っていると、大声に誘われたのか、猪は女性陣に向かって走り出す。レイ王子が彼女たちをかばう様に立ち、ジンが更にその前に出る。二人の気迫に押された猪は急に方向を変え、今度は俺に向かって突き進んで来た。うわ、こっち来るなよ! 


持っていた荷物を横に放り出して、剣を抜こうとするが、有ろう事か焦って取り落としてしまった。何てこった! 今から拾い直しても間に合いそうにない。咄嗟に両腕をクロスさせ、土魔法を使って強化した。ドシンッっと重い衝撃と共に体が宙を浮き、腕に激しい痛みが襲って来る。くっそー、ツイてない。俺を弾き飛ばして通り過ぎた猪は、向き直ってこちらを睨んでいる。するとそこへケイが剣を構えて向かって行った。


猪も気が立っているのかケイに向かって行く。ケイはタイミングを合わせて横凪ぎに剣を振るのだが・・かわされた!? 猪は直前でアメフト選手みたいなステップを踏んでケイの横をすり抜け、反転してまた向かって来る。猪突猛進って言葉作った人誰? 話が違うじゃない!? 


「ケイ!」


セットが加勢に行こうとするが、ケイはそれを手で制した。俺も周りに無事だと手で合図を送りながら、自分の剣を掴んで立ち上がっていたが、衝撃のせいで握る握力が心許ない。任せた方が良さそうだ。


そしてケイは、右足を半歩引いて、下半身を落とし、小さく息を吸うと、今度は言葉通り猪突猛進に突っ込んで来た猪に対して、ブワンッ! っと剣を打ち付けた。魔力の光跡と共に、ドスンッ! っと鈍い衝撃音が響く。 猪は物凄い勢いで吹っ飛んで行き、遠くの後ろの木に激突して落ち、動かなくなった。当たった木には亀裂が入っている。


「アル、大丈夫かね? それにしても相変わらずケイの打撃力は凄いものだ」

「僕にはとても真似できないよ」

「アル、怪我は平気ですか?」

「ああ、びっくりしたわー」

「アル、大丈夫? ケイも大丈夫?」


駆け寄っていく俺たちに向かってケイは言った。


「今から解体してたら遅くなってしまうな」



◇ ◇



レイ王子が持って来ていた湿布を貰って腕に貼ると、痛みがすーっと引いて行った。問題無く動く。打撲だけで済んだ様だ。そして王都へ帰る途中、俺はそれとなくケイの横に並び、尋ねてみた。藪蛇になるのが怖かったが、好奇心がそれを上回った。


「なあ、ケイ、何か特別な技を使っているのか?」

「ん? 呼吸法の事か?」


ケイはあっさり答える。


「呼吸法って?」


「うちの家系に代々伝わる技だ。体内の魔素をより強く練って、力を増す事が出来る。何度も続けて使うのは無理だがな」

「へええ。良いの? 俺に話して」

「ああ、別に構わないさ。武門の家柄なら大なり小なり使っている程度のものだ」

「そうなんだ」

「例えば・・そうだな、剣技大会の時にニコと決勝で戦った相手が居ただろう? あの家も似たような事が出来た筈だ。ノルトボイマー家ほどでは無いけどな」


そう言って最後はニカっと笑って見せた。なんだ、秘密じゃないならもっと早く聞けば良かった。やり方は秘密って言われたけど。


呼吸法かあ。前世で読んだ漫画にそういうのが良く出て来たな。この件は、師匠とも相談した方が良いかもしれない。



◇ ◇ ◇



やんちゃ王子め、また怪我もしとらんのに湿布をよこせと言ってきおった。理由を尋ねると、夏に魔獣が出たと言うあの森にまた行くなどと言いよる。今はもう立ち入り禁止にはなっとらんが、騎士団が入って調べても良く分からなかったらしいではないか。本当は禁止のままにしておきたいが、王都民の生活の為にやむを得ず解除したに過ぎんのじゃ。野営実習も物々しい警備を付けてなんとか済ませたと言うのに、またノコノコ出掛けようとするからやんちゃと言われるのじゃ。



戻って来た王子は、湿布が役に立ったと礼を言いよった。想定していた相手とは違ったとも。何を想定していたのやら。またこんな事も言っておったな。これから先、医薬品が大量に必要になるかもしれんと。ふむ。色々考えておる様じゃな。医薬品の増産は既に陛下から指示が出ておる。騒ぎにならぬ様、関係する者以外には知らされておらんがな。



◇ ◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 続きはまた来週。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ