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19話 新学期

19話の投稿です。


◇ ◇



十月になり、学園の授業が再開された。課題もどうにか提出出来た。結局「地方開拓村における現状の問題点と解決策の考察」と題して指定頁数ギリギリのものを書いたのだが、後日下された評価は芳しくなく、学術発表会の対象にはならなかった。何でも、現状分析がリアリティーに欠けるんだと。俺、地方開拓村の出身なんですけど! むしろ地方開拓村の暮らししか知らないんですけど! 


でもまあ確かに師匠と出会ったせいで、村の仕事はほとんど手伝っていなかったので、農民としては素人に毛が生えた程度だ。本来なら、十歳になると本格的に仕事を手伝うようになるのが村の習わしだったのだけど、八歳でそっちのレールからは外れてしまったからな。


ニコは、地方と王都の食生活の比較について論文を書いていた。どうせ、あれも凄く美味しかった、これも凄く美味しかったって内容だろうと思って提出前に読ませて貰ったが、食材と調味料との相性や、その組み合わせが使われる理由なんかについてもしっかり考察されていて、予想以上にちゃんとした論文だった。残念ながらこれも発表会には採用されなかったけど、将来良い嫁になりそうだ。


マギーから預かった手紙は、ニコに頼んでそれとなく渡してもらった。だって、俺が渡すと俺が告白しているみたいに見えちゃうじゃん。リサ嬢は返事の手紙を書いてニコに渡し、それをまた俺が受け取ってマギーに渡した。結果は・・ダメだったみたいだ。まあ、中央の伯爵家と辺境の騎士爵家では元々釣り合いも取れない、見た通りの高根の花ってやつだったしな。マギーの実家は王国の最北にあるトレンブルハール領と言う所で、彼の家名は政治の授業でも出て来た。気候が寒冷でお世辞にも豊かとは言えない、面積も人口も小規模な僻地と言って良い場所だ。対するハイロスフェルト伯爵家は、代々財務相を務める国の重鎮、同じ貴族と言っても身分の差が有る。


俺の手から返事を毟るように取って目の前でそれを読んだマギーは、苦い表情をしながらも、ありがとう、と言った。以来、マギーとは以前よりかは話をするようになった。俺たち九人に加わって来る事は、当のリサ嬢も居るので決して無かったが、お互いの身の上話程度はするくらいの仲にはなった。そしてマギーは、実は一度で諦める事は無く、半月に一度くらいの割合で、俺たちは郵便配達をやらされる続ける事になった。返事を読むマギーの顔はいつも苦々しかったが、リサ嬢もまんざらでは無い様で、むしろ遣り取りを楽しんでいる節もある。青春だねえ。



◇ ◇



十月下旬、上級生になると選択できる錬金と医薬の体験授業が行われた。実際に見て、今のうちから良く考えておくように、という事らしい。両方取っても、どちらも取らなくても構わない決まりになっているが、全ての生徒がどちらか一方だけを選択するのが通例なんだと。こうした表向き強制じゃない強制って、どこの世界にも有るんだなあ。


この日はそのうちの錬金の体験授業だ。魔法用のグラウンドの片隅に、ニクラス合同で四十人が集まり、錬金担当の教師が説明を始める。授業の概要を一通り説明し終わると、


「では早速一つ、やってみましょう」


と言って、灰色で透き通る宝石みたいな物を取り出した。見た事がある石だ。あれは確か・・。


「皆さんも一度は使った事があるでしょうが、これで体内の魔素を測ります。どなたかに実際にやってみて頂きたいのですが・・」


生徒を見回す。やばい、俺かニコが指名されたら面倒な事になる。一応俺たちは、平民だけど偶々魔力が高くて魔法が使える、と周りからは認識されている。それを賢者が探し出して来たという扱いだ。それなのに、実測では三階級だと分かってしまったら、これまでの事をどう説明したものか。非常に困る。


教師と目が合わない様にコソコソしていたのだが・・


「ではあなた、お願いできますか」


わー、まじか! 当たってしまった。挙動不審な態度が返って目立ってしまったのだろうか。やばいやばい、どうしよう。何でこんな時に限って当たるんだ。


「さあ、こちらに」


手招きされて仕方なくゆっくりと歩み出る。何とかこの場をやり過ごす方法は無いものか。それとも逃げ出すか。いっそ覚悟を決めてバレても・・いや、やっぱ不味いよなあ。歩きながら頭をフル回転させるが妙案は浮かばない。そうこうしているうちに石の置かれた台の前に立たされ、血を採るための針を手渡される。


左手の人差し指を石の上に翳し、右手で針を持って・・あーもーどーすりゃいいんだ! 三階級なのがバレたらきっと学園には居られない。それだけならまだ良いけど、秘技が公になってしまったら、師匠に迷惑がかかるし王宮も黙っていないだろうし、この先世の中がどうなるのか、俺個人だけの問題では無い。だんだんと針を持つ手が震えて来た。何か、何か良い方法は・・思いつくまで時間を稼がなければ・・うわあ、何も思いつかない! どうしよう!?


「ああもう、じれったいな。そんな小さな針如きでビビるなよ。先生、俺がやっても良いですか?」


振り返ると、ケイが立ち上がってこちらに向かって来ていた。やった! 助かった! 有り難う! 本当に有り難う!


「誰にでも苦手なものはあるよな」


俺の肩にポンと手を置き、ニカっと笑って見せるケイ。全然分かって無いだろうけど、君は世界を混乱から救ったんだよ。苦笑いしながらそそくさと退散する俺。はああ、まじで危なかった。戻る途中、レイ王子が笑いを堪えるように震えているのが横目に見えたけど、笑い事じゃないでしょ! あなたにとっても! まあとにかく、良かった~。


「では代りにお願いします」


ケイは教師から針を手渡されると、それを自分の指に軽く刺して、血を一滴だけ灰色の石の上に落とした。すると石が、パアアッっと緑色に強く光り出す。


「はい。ありがとうございます。七階級ですね」


教師は、手にした色とりどりの短冊と見比べながら、そう判定した。この師匠が発見した血中魔素濃度を測れる鉱石は、測定者の血を垂らすと、魔力階級に応じた色を発する。魔素が無ければ無反応、一階級なら薄ぼんやりと白く光り、二階級なら白く、三階級なら桃色に、以降は赤、橙、黄、緑、青、藍と強く光って十階級だと紫色に輝く。十一階級以上は無い。と言うか、最も魔力が高いとされる国王の反応結果を十と定め、そこから下に割り振って行ったので、それ以上の階級は必要が無いのだ。でももし十一階級の人が居てその血を垂らしたら、石は一瞬紫に光って黒くなるはずだと、師匠は言っていた。鉱石の実用化に向けて研究をしている中で、石の反応を高めに調整して国王で測ったら、そういう結果だったそうだ。師匠の試行錯誤に付き合わされて、指に何度も針を刺された王様にはお気の毒と言うしか無い。


しかし、国王が代替わりしたら十階級の値そのものが変わって、魔力階級も定義し直さないとならないように思うのだが、どうするのだろう? 今迄は精度も荒くて相対評価だったから、歴代国王で多少個人差が有っても目立たなかっただろうけど、今は正確に測れる。当代国王の値を十で固定するのかな。もっと凄い人が現れたら十一階級を作ったり、未来の国王が実測九階級でも公称十階級にして誤魔化したり・・他人の事言えないか。


「では次に、この結果の検証方法を説明します。これは、知っている人はあまり居ないかもしれないですね。通常は、光の色とこの色見本を見比べて終了です。そうなる様に石自体を加工しています。ですが、加工するには基準となる比較対象が必要です。それがこちらの・・」


俺たちの横にある、杭を地面に突き立てた上端に防具の様な物を括り付けた物体を指し示す。さっきから気になって居たんだ、この案山子みたいなやつ。


「こちらの測定用の盾です。これに対して実際に魔力を行使します。王宮の騎士団の皆さんや国王陛下にも御協力頂いて、血の魔素と魔力の関係を確定しました。実際にやって頂きましょう」


ケイが案山子に歩み寄る。


「盾に手を当てて、土魔法で強化してください。力の限り。盾は受けた魔力に応じて鉱石と同様に光るようになっています。この鉱石が発見される以前の、昔の魔力の測り方と基本は同じです」


ケイは少し足を開いて左足を半歩前に出し、両手を引いて静かに息を吸うと、ふんっ! と盾に右腕を伸ばして土魔法を行使した。盾が青く光り、少ししてから緑色になる。


「おや?」


教師が首を傾げた。


「おかしいですね。魔法が不完全で弱く反応する事はあっても、上に反応する事はない筈ですが・・。ふむ、今は置いておきましょう。ともかくとして、鉱石の反応と盾の反応を擦り合わせる事で魔力階級が定められ、魔法が未熟な子供であっても正確な魔力を測る事が出来る様になりました。では、これらの魔道具をどの様に加工しているかについてですが・・」


教師が話を続ける。ケイは自分の測定結果を不思議に思う様子も無く、集団の中に戻ってドカッと座り込んだ。俺は剣技大会の時の事を思い起こした。あの時見せていた瞬間的な力、本当に階級以上の力だったのかも。そして、ケイが盾に向かって構えた時の仕草、きっとそうだ。本人に自覚が有るかは分からないけど、いや、自覚が無いからあの程度で済んでいるのだろうけど、おそらくあれは空気中の魔素を・・。



◇ ◇


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 評価頂いた方、大感謝です!

続きはまた来週。

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