18話 夏季休暇2
今回は定時投稿です。短めですが。
◇ ◇ ◇
ニコがフェル嬢たちと海へ行ってしまった。帰って来る迄は一週間以上有る。
俺は寮の六畳一間で、一人の時間をやや持て余していた。師匠の復習会は八月で終わり、剣の修行も頻度が半分になったので、ゆっくり出来ると言えば出来るのだけど、いざ暇になると何をしたものやら困ってしまう。今更気が付いたけど、こっちの世界に来てから趣味らしい趣味を持って無いな。師匠の手伝いで機械弄りをするのは好きだけど、あれは趣味と言うより修行だ。何か見つけた方が良いのかな。ここはやはり、以前から少しずつ試していたのだよ! とか言って醤油や味噌をいつか披露するべく・・いや、作り方知らないし・・まあ、それより、とりあえず課題に手を付けるか。テーマぐらいは決めておかないと。
そう思い立って、論文のネタ探しの為に学園の図書館に行く事にした。教室や食堂は閉まっているけど、図書館は休み中でも使える様になっている。校舎の左手の講堂の、さらに左に有る四角い建物が図書館だ。吹き抜けの造りで天井が高く、書棚が聳える様に並んでいる。中には他にも何人か学生が居た。皆目的は一緒だろう。どの机を使おうかキョロキョロ見渡していると、見知った顔も有った。
「やあ」
「やあ」
マギーだ。一言だけ挨拶を交わす。いつもこんな感じだ。それから俺は、彼とは少し離れた机を確保し、魔法関連の本が集められた棚から適当な本を取って来てはパラパラと読み、また別の本を取って来ては読む。どれも課題のネタとしては今一つピンと来ない。魔法は平均以上に使えるけれど、理論建てて考えるのは苦手なんだよなあ。いや、これだと頭が悪いみたいなので言い直そう。師匠の魔法の教えは実戦派なので、理屈にはそぐわない。これでどうだ。あんま変わらない? まあいいや。
翌日もまた図書館にやって来た。俺は今度は歴史関連の書棚を漁ってみるが、論文に出来そうな題材は見つからなかった。さらに翌日、今度は政治の書棚へ行って物色していると、後ろから誰かが声をかけて来た。
「なあ、君に頼みたい事があるんだが」
「?」
くすんだ金髪で、俺と同じくらいの背丈で、ちょっと頼りない感じのするマギーがそこに立っていた。
◇ ◇
夕方、それぞれの目的を済ませてから、図書館の出口で待ち合せ、一緒に帰って寮の食堂で席を共にする。
「珍しいね。君が誘って来るなんて」
「そうだな」
「・・・」
「・・・」
「君は実家に帰らないの?」
「まあな」
「・・・」
「・・・」
マギーが指定した一番端のテーブルで食事を始めるが、会話は全く弾まない。もう食べ終わってしまう。仕方無く俺の方から本題に入る。
「それで? 頼みと言うのは?」
マギーはすぐには答えずに、食べ終わってナプキンをゆっくり丁寧に畳んでから、一つ小さく深呼吸をして上着のポケットから何かを取り出した。
「これを・・」
「俺に?」
「違うっ、君宛じゃない!」
マギーは差し出した物を一旦素早く引っ込める。それは白くて四角い封書だった。
「じゃあ誰に」
「これを、その、エリザベート嬢に渡して欲しいんだ。君から」
「俺が?」
「そうだ」
「何で俺が」
「君は彼女と仲が良いじゃないか。だから君に頼むんだ」
つまりこれってラブレター? 流石に中身は聞けないので推測だけど、彼の落ち着かない態度を見るに、きっとそうだろう。えー、俺が渡すの? 自分で渡せばいいじゃん。俺は渋って見せたが、頼むよ、の一点張りだ。最後には、君が渡すべきだ、それが自然だ、と半ば強制されて、とうとう引き受けてしまった。参ったな。もしかしてこの世界ではそういう作法なんだろうか。師匠もそこまでは教えてくれなかった。いや、単に彼がそういう性格なだけだな。
◇ ◇
それからまた図書館通いの日が続き、ようやくニコが海から帰って来た。まだ興奮冷めやらぬ様子で、満面の笑みを浮かべながら俺にマシンガントークをかましてくる。よっぽど楽しかったんだな。いいなあ、俺も行きたかったよ。せっかくの水着回に参加できないとは、なんてツイてないんだ。リサ嬢の水着姿を拝んでみたかった。図書館の脇にある大きな木の下のベンチで、彼女たちの姿を想像しながら話を聞く。
魔獣にも出くわしたらしい。それを食べたとか言うので良く良く聞くと、どうやら蛸や海月の事みたい。獣って言うから始めは海馬みたいなのを想像したけど、分類学が未発達なこの世界では、そういうのもひっくるめて獣扱いだったな。海馬も食えるけど。師匠からも海にも魔獣は居ると教わった。ニコは海への期待が大きすぎてすっかり忘れていた様だ。
「それでね、そのクラゲって言うのが食べたこと無い感触でね、凄く美味しかった」
「コリコリした歯ごたえが独特だよな」
「うん。あれ? アルは食べた事あるの?」
「ん? ・・いや、聞いた感じだとそういう食べ物なのかなあ、と」
「ふーーん」
◇ ◇
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続きはまた来週。




