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17話 夏季休暇

また一日遅れになってしまいました・・。


◇ ◇ ◇



角熊事件のせいで、野営実習の授業は予定より延期され、立ち入り禁止が解除された夏季休暇直前に行われた。その際、引率の教師だけでなく、王宮から騎士団が一個小隊付いてきたが、何事もなく実習は無事に終わった。獲物も猪二頭に兎四羽がちゃんと捕れた。四十人分の食材としてはやや足りなかったが。


レイ王子とフェル嬢は、また以前の様に仲が良い感じに戻ったみたいだ。俺たちの作戦が功を奏したらしい。想定外の出来事も有ったが、非日常性という点では最高級の物を提供したからな。その代わり、あれ以来今度はニコとフェル嬢が時々言い争う様になったのだけど、まあ、あれはじゃれているだけだろう。


そしてついにやって来た夏季休暇だ。八月九月は丸々休み。長い。師匠と出会ってからずっと勉強漬けの毎日だったので、それから解放されるのは何年振りだろう。


「沢山遊べるね」

「そうだね」

「わたし、海に行ってみたいな。見た事が無いから」


などと、楽しみにしていたのだが・・。


蓋を開けると、週に三日はマグナザルツ先生に呼び出され、ダットさんと共に剣の修行。週に二日は師匠に呼び出され、一学期の復習。思っていたのと違うっ! 休暇中は帰省する学生も多いので、俺たちも一回村に帰ろうかと師匠に相談した際、王都に居なさいと言われたんだけど、こういう事だったのか。学園から出された課題だってやらなければならないし、ちっとも休暇になってない。


課題と言うのは自由研究だ。指定された頁数以上の論文を休み明けに提出しなければならない。内容は、文字通り自由。魔法や剣技の研究考察だったり、歴史探索だったり、地方から来ている者は、自分の所の領地の現状と問題点の考察なんかを纏める事が多いみたい。出来が良かった者はそこから更に研究を進めて、年末の学術発表会で全校生徒の前で発表する事になっている。研究費用として学園から結構な額のお金も支給される。それで本を購入したり、調査旅行に行ったりする訳だ。俺たちもそれを帰省費用に当てようかと思ったのだけど、師匠の答えはノーだった。別にいいじゃん、地方開拓村の現状と問題点の考察とかでも。まあ、村と往復するだけでも大変だし、帰っても何も無い所だから、王都に居ること自体は良いんだけどね。父さんや母さんに顔を出すのも、もう少し先でも構わないだろう。時折手紙も送っているし。


しかし、課題、どうしたものか。ちゃちゃっと適当に工作して提出するだけならまだしも、論文となるとなあ。割り箸で作った輪ゴムを飛ばすおもちゃの銃を前世で作ったことが有ったけど、あれを考察して論文に仕立てるのは・・無理筋だろうな。



◇ ◇



そうして八月に入ってからも週休二日の生活が続いていたある日、時には皆で集まろうと言う事になって、王都の中央広場の脇に有る、洒落たカフェテラスに九人で集まった。貴族組は全員王都が地元だから、集まろうと思えばいつでも集まれる。休暇中でも外出時は制服を着る規則なので、夫々いつもの格好だ。フェル嬢たちの私服姿もちょっと見てみたかったかも。貴族のご令嬢だからドレスっぽい感じで綺麗なんだろうな。ニコもそういうのが似合うかもしれない。持って無いけど。


それにしてもここから見える王宮、と言うより王城は、これまた大きい。学園からも見えてはいたけど、近くで見ると想像以上の迫力だ。中央広場は王宮正門のすぐ近くに有って、王都で一番広い大通りで繋がっていてるから、真正面にそびえ立つ様に見える。レイ王子やジンはこんな凄い所に住んでるんんだなあ・・実際住むとなると掃除とか大変そう。


「アル、どうしたんだい? うわの空じゃないか」

「ああ、ごめん、凄い大きいなあと思って」


正面に座っていたリサ嬢が、俺の言葉にピクっと反応して、胸を隠すように腕を組んで睨んだ。え? 違うよ? 俺の視線、もっと上の方だったでしょ?


「いやいや、そうじゃなくて・・」

「冗談ですよ。王宮の事ですよね。実際、この大陸で一番大きな建造物らしいです」


大きい自覚はあるのか。いつもクールなのに意外とお茶目な面もあるのね。


「あれだけ大きいと、掃除とか大変そうだな、と思って」

「実際大変さ。大勢を雇っている」

「へえ」

「大変ではあるが、それだけ多くの職を与えているとも言える。僕ら王族は国をより発展させ、民を潤す事でより多くの税を得て、その税で人を雇って掃除して貰ってるのさ。だから王宮で働く人がどれだけ多くて、広い王宮がどれだけ隅々まで手入れされているかは、そのまま治世の良し悪しを表している」

「なるほど」

「父上の受け売りだがね」

「あはは」


そんな感じで、普段の食堂みたいに他愛のない話やら、今後の予定やら課題の進捗やらの話をしていると、偶々海の話題が出てきてニコが食いつく。スイッチの入った状態で、見てみたい、見た事が無い、とグイグイ来るので、それなら皆で行ってみますか、と言う話になった。ただし! ここで言う皆とは、女性陣四人を指していた。フェル嬢の、ライランズベキア家の別荘があるので、海辺のお泊り女子会をするんだと。そりゃ侯爵家なら別荘くらい持っているよね。て言うか、俺は置いてけぼりなの!?



◇ ◇ ◇



夏季休暇になって、八月の間は剣の先生やお師匠様の所に通ってちょっと忙しかったけど、九月になってからフェルが海に連れて行ってくれる事になった。わたしは海を見るのは初めてなので、楽しみで寝られないくらい嬉しい。リサとリリィも一緒。


王都から、馬車に乗って南へ二日ほど行くと、着いた! 目の前に見えるのが海!? 凄く大きい! ずっと遠くの、ここからは見えない夕日の先まで続いているみたい! つい、はしゃいでしまうわたし。いけない、王都に行ったらもっと慎ましくしなさいってお師匠様からも言われたっけ。


「ご、ごめんね、つい、はしゃいじゃって」

「いいえ、来た甲斐があったと言うものですわ」

「わたしも来るのが久しぶりなので、気持ちは分かります」

「いつ来ても綺麗よね」


三人はわたしを見て、飽きれる事も無く、優しく笑っていた。それから壁が白く塗られたとても大きなお屋敷に入って、色んなお魚がふんだんに使われた、今まで食べた事の無い味の、でも凄く美味しい夕ご飯を頂いた。お魚は村でも王都でも食べるけど、何か違う。味付けなのかな、それともお魚自体の味が違うのかな?


夜は三人でおしゃべりを沢山楽しんで、次の日は一日中海で遊ぶ事にした。



◇ ◇



「泳いだらダメ?」

「ええ、この時期はそろそろクラゲが出ますから、止めておくのが宜しいと思いますわ」

「あの雷魔法を使う海の魔獣よね。子供の頃に一度やられた事があるわ。ビリビリッって」

「小さいと思って侮ると、刺されて酷い事になります」

「そうなんだ・・」


フェルに貸してもらった水着に着替えて砂地に出て、海に入ろうとするわたしを皆が止めた。わたし、泳ぐのは自信が有るんだけどな。川で泳ぐのと海で泳ぐのは全然違うって聞いたから楽しみにしてたのに、この海は遠くの魔の森の方にも続いていて、八月を過ぎると、そこから小さな魔獣が流れて来るんだって。



「波打ち際で足を漬けるくらいにしましょう」

「そうですわね。それくらいなら・・。でも良い事、透明でプカプカ浮かぶこれくらいのものを見かけたら、絶対に近付いてはいけませんわよ」


フェルは手で、人の頭くらいの大きさを作って見せた。わたしはそれに頷いてから、打ち寄せる波にそっと足を近づけてみる。うわ、冷たい! でも気持ち良い! あれ? ちょっとベタベタするかな? でもやっぱり気持ち良い! わたしたちは、水辺で波をバシャバシャ蹴ったりして、楽しく遊んだ。後でこの事をアルに話したら、ミスギカイできゃっきゃうふふだ! とか言ってた。また変な言葉を使う。


そうして砂地に立てた大きな日傘の下で休んだり、また水辺で遊んだりしていると、リリィが波打ち際で海の奥の方を指して言った。


「あれ、何かしら?」


見ると、何かプカプカ浮いている物がある。でもフェルが言っていたのとは違って、もっと大きいし透明じゃない。赤黒い、別の何かだ。


「あれは・・あれですね」

「そうですわね」


フェルとリサが嫌そうな顔を見合わせる。指さすリリィにわたしが近づいて行くと、


「二人とも! 早くそこから離れてこちらに来なさい!」


フェルが叫んだ。振り返ると、後ろでザザーッと大きな音がした。また振り返ると、赤黒い、ブヨブヨした感じの大きな物が、水面から飛び上がる様に向かって来ている。驚いて走り出すわたしとリリィ。何あれ!? あんなの見た事ない! 走っている最中、何か黒いものが飛んできて、ビチャッっと背中にくっ付いた。足にもくっ付いて転びそうになる。


「大きいですね」

「ええ、ですがっ!」


日傘の下に置いてあった剣を手にして、フェルとリサがわたしたちと入れ替わる様に、赤黒くて人の背丈くらい大きい変な生き物に向かって行く。そして、


「お見事でした」

「これしきの事、何でも無いですわ。この気持ち悪い墨だけは、出来れば触りたくも無かったですわね」


フェルが粘々した黒いものを体中に浴びながら止めを刺した、足が沢山有ってウネウネした変な生き物は、タコって言うんだって。夏の後半になるとクラゲと一緒に魔の森の方から流れて来て、水魔法で物凄くベタベタする墨を吐いて、お魚や砂地に居る生き物を絡め取って食べる魔獣の一種だと聞かされた。墨は本当に強くくっついて変な匂いもするし、お風呂に入っても中々取れないくらいだけど、食べられる魔獣で昨日の夕ご飯にも出てたんだって。びっくり。


「それにしても大きいですね」

「わたしくしも驚いていますわ」


フェルとリサは難しい顔をしていた。リリィは震えて小さくなっていた。



◇ ◇ ◇



ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! ブックマークして頂いた方、大感謝です!

続きはまた来週。


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