15話 魔の森
昨日に続いての投稿です。◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。
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六曜日、前世で言う土曜日のこの日、俺たち九人は夫々荷物を背負って、王都を高く取り囲む城壁の外に居る。ここから西に広がる魔の森に入って、一泊二日のピクニックならぬ野営訓練を行うのだ。来月に授業で野営の実習があるので、その予行演習をしてしまおうと言うのがセットの提案だった。野営となれば設営やら炊事やら大変だ。するとレイ王子の事だから、フェル嬢をそれとなく気遣うだろうし、非日常性も相まって二人の仲はまた元の様に近付くだろう、という計画なのだ。
魔の森と呼ばれるこの森は、かつて魔獣が沢山沸いた広大な森だ。王都の城壁のすぐ隣にそんな森があるのは不自然極まりないが、そこにはこんな経緯がある。まだ国家と言う物がはっきり存在しなかった遠い昔、人間たちはここに大きな砦を築いて、自分たちの生存圏を守る為に森から出て来る魔獣と戦った。魔獣戦争時代と呼ばれる。人魔戦争じゃないの? こっちも魔法を使うから魔魔戦争になっちゃうか。ネーミングはさておき、戦いが長く続く中で、やがて砦は城郭都市の形態を取り、周辺の集落を吸収しながら砦を首都とする国家へと成長した。ホックフォルテガルド王国の誕生だ。今ではこの森に魔獣は殆ど居ない。時折弱い魔獣に遭遇することはあっても、魔獣戦争時代の様な強い個体はもう居ないとされている。だったら森を開拓して農地にでもすれば良いじゃないかとも思うが、王国誕生の象徴としてずっと大事にされ、あまり手を入れられていない。森には森の資源もあるから、適度に利用しつつ保護しているのだ。そして開拓は王都から東に向かって行われた。エンデナ村も王都からずっと東に行った所にある。
そんな訳で俺たち・・だけではなく護衛の大人二名を加えた総勢十一名になるんだけど・・は、森へと入っていく。そりゃあね、魔獣は滅多にいなくても野獣は普通に居るんだから、若い学生だけでは危険も有るし色々問題だろう。何より王子も居るので王宮から護衛兼監視役が派遣されていた。もしかして騎士団の人かな? ともあれ正式な護衛役だ。ジンは睨んでいたけど。護衛騎士たちは集団に混ざる事も無く、左右前方にそれぞれ距離を取って周囲を警戒する様に歩いていた。挨拶以外の会話も無く、基本的に不干渉で居てくれるらしい。
森の入り口辺りは、間伐されているのか木も疎らで陽も良く射して、小道なんかも幾つかあった。人の気配も感じる。人前で野営も無いので、俺たちは奥へ奥へと進むと、だんだん木の密度が濃くなり辺りが薄暗くなった。途中で昼食を兼ねた休憩を挟み、出発してから三時間ほど歩いた所で前方が少し明るくなる。先頭を歩いていたジンが、開けた場所で辺りを見回してからこちらに合図を送ると、
「ここが良さそうだね」
二番目に歩いていたレイ王子が賛同する。一応俺たちも女性陣を挟む様に隊列を作って進んでいた。もし何かが襲ってきた時は、前面にレイ王子とジン、後方をケイとセットが固め、俺とニコがそれぞれ側面を受け持ち、リサ嬢とリリィ嬢が中央から魔法で攻撃、フェル嬢がその援護を務める事になってる。彼女たちも剣を佩いているが、相対的な戦力を考えて事前にそう取り決めた。護衛騎士二人は当然前面に出るだろうから、基本通りに前が厚い陣形になる筈だ。この森に居る野獣や魔獣に対しては、過剰戦力な気もしないではないが、万が一救援が必要な時は一番足が速いセットが走る。回復役は・・居ません! この世界に回復魔法は無いんだよね。土魔法で受けるダメージを減らす事は出来ても、受けてしまったダメージはキッシンデント先生の湿布に頼るしかない。これがまた良く効くんだわ。
最後尾を歩いていたケイが追い付き、
「いいんじゃないか?」
と同意した所で満場一致になり、野営場所が決定した。
◇ ◇
荷物を降ろして設営に入る。まずは各自でターフ貼りだ。辺りから長めの木の枝を探して来て布を結びつけ、それを地面に差して土魔法で固定した簡素な物だが、枝先に布を結ぶのにコツが要ってフェル嬢が苦労していると、レイ王子がそれを手伝っていた。いいぞ、計画通りだ。次にターフの下を良く均して寝床のスペースを確保し、終わった者から竈の作成に取り掛かる。土を少し掘って適当に石を組んだだけの竈っぽい何かを、ターフ群の中央に二つ作った。護衛騎士たちは自分たち用に別に作ったみたい。食事も離れてするらしい。
それも終わると、今度は薪と木の実を集める者と、適当な野獣を狩って来る者との二組に分かれて食材調達に出た。護衛騎士も一人ずつ付いて来る様だがもう気にならない。レイ王子、ジン、フェル嬢、セットが採取組、俺、ニコ、ケイ、リサ嬢、リリィ嬢が狩り組だ。痴話喧嘩はセットに任せて五人で再び森へ分け入る。
頃合いを見てリサ嬢とリリィ嬢が背中合わせに立って両耳に手を当て、風魔法系統の探知魔法を展開した。魔法で空気を操作して周囲の物音を探り、獲物を見つける為だ。獲物の気配は耳で捉えるので全周囲レーダーの様にはいかず、二人で指向性をカバーし合う。見つけ次第、彼女たちの誘導に従って残りが三方から仕留めに行く算段だ。俺たちも剣を構えながら探知魔法を使ってはいるが、動き出すと微かな音を捉えるのは難しいので、役割を分けた。
「居ないわね」
「居ませんね」
場所を変えてまた探す。見つからないので、また場所を変えても、
「居ません」
「こっちにも居ないわ」
どうにも見つからない。鹿とか猪とか兎とか幾らでも居るんじゃないの? この森は、王都のタンパク源でもあるんだから。ニコも十二階級全力全開で遠くまで探している様だが居ないみたい。あれえ? おっかしいなあ・・。結局見つからないまま日が傾いて来たので諦めて設営地に戻った。その日の夕食は、レイ王子たちが採って来た少々の木の実と、乾燥させた肉と野菜の携帯食をお湯で溶いたスープとパンだけと言う、普段の寮の夕食と比べると随分お粗末なものになってしまった。魔法で火も起こせるし水も確保できるから、荷物はそんなに多くは無かったので、もっと何か食べ物を持ってくれば良かった。
◇ ◇ ◇
皆で森にやって来た。今日は森の中で泊まって明日学園に戻る予定。アルは、ぴくにっくとか言ってたけど、ぴくにっくって何だろう。昔からアルは時々変な言葉を使う。王宮から来た騎士さんと一緒に森をずっと奥まで進んでいく。村の近くの森を思い出して、ちょっと懐かしい感じがした。
ずっと歩いて行くと、平らで草の生えた広い場所があったので、そこで泊まる事になった。泊まる準備をしてから晩御飯のおかずを探しに行く。フェルとレイ王子とは別行動になった。上手く仲直り出来ると良いな。凄く気になるけど、わたしやアルが一緒だときっと邪魔しちゃうから、この方が良いよね。
わたしたちの狩りの結果は散々だった。獲物が全く居ないんだもの。リサとリリィは責任を感じているみたいで、申し訳なさそうな顔をしていたけど、二人は悪くないよ、本当に何も居なかったんだから。わたしも頑張って探してみたけど、草や木が擦れる音しかしなかった。でも、そう言う時も有るよね。村でも獲物が捕れない日は沢山有ったんだから。この、お肉とお野菜のスープだって凄く美味しい。アルは何だか物足りなさそうだけど、村ではいつもこんなだったじゃない。
夜になって、交代で見張りをする。騎士さんたちも見張りはしているけれど、それに頼ると野営訓練にならないから、わたしたちはわたしたちで二人ずつ火の前で不寝番。隣に居るリリィは寝ちゃっているけどわたしが起きているから大丈夫。騎士さんたちは二人とも起きてお話をしている。いつ寝るんだろう? それに何だか恐い顔をしている。わたしは何を話しているのか気になって、良くない事だとは分かっていたけど、こっそり探知魔法を使ってみた。
「そうか。こっちと同じだな」
「ああ、どう考えても様子がおかしくないか?」
「兎に角、警戒を怠らない様にしよう」
「そうだな。じゃあ、俺はお先に」
「しっかり休んでおいてくれ」
「分かっている」
そう言って、騎士さんの片方の人がターフへ向かった。何だろう、嫌な予感がする。
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ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 続きはまた来週。




