11話 剣技大会
◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。
◇ ◇
週が明けた。今日から剣技大会が始まる。実に四日間に渡る大イベントだ。大会翌日は休息日になっていて、その次の二日は元々お休みだから、今週はまるまる通常の授業は無い。この世界でも一週間は七日で、学園は週休二日制になっている。四週で二十八日が一か月、それが十三月まであって一年が三百六十四日。時間も一日を二十四分割して一時間なので異世界人にも違和感が無い。こっちの一日と地球の一日が同じとは限らないけどね。もしかしたら長かったり短かったりするのかも知れない、言い換えれば時間がゆっくり流れていたり早く流れているのかも知れないけど、この体はこの世界で生まれたから、体内時計もこっちに合わせた物になっているので分からない。
午前中は全校生徒が講堂に集って大会のルールや注意点の説明等を受け、トーナメントの組み合わせも発表された。昼を挟んで午後からいよいよ男子の一回戦だ。昼食は軽めにしておいた。
いつもの九人でぞろぞろと剣技場へ向かう。剣技場は、授業で使うグラウンドとは別に、更にその奥にコロシアム形式の観客席付きの施設があり、大会はそこで行われる。入学の日にニコが見たいと言っていたのはこっちだ。御多分に漏れず立派な建物がでんと構える。
「緊張してる?」
ニコが俺の顔を覗き込んでくる。
「そりゃ、まあね」
俺だけでは無く、男性陣はみな緊張顔。レイ王子ですらいつもの笑顔が若干固い様に見える。一方の女性陣は、今日は試合が無いのでリラックスした様子でワクワク顔だ。女子は人数的に試合数が一つ少なくて明日からが一回戦。
「やっぱり凄いねえ」
俺への心配をさらっと流して剣技場の外壁を見上げるニコ。中に入って客席に着いてからも、また同じ事を言っていた。この日行われるのは男子一回戦の十六試合のみ。トーナメントの都合上、二回戦から始まる者も居るが、俺たち五人は今日それぞれ一試合を行う組み合わせになっていた。出番が早いセットとケイは、直接試合場の控室に向かっている。俺の番までは時間があるのでここで暫く観戦だ。
やがて一回戦が始まる。三番目に登場したセットは、素早い動きで相手を翻弄すると、あっさり試合を決めてしまった。レイ王子の見立ては正しかった様だ。一つ挟んで五試合目に出て来たケイも、相手が上級生だったのに、秒殺と言って良い勝ちだった。俺とジンは思わず唸り声をあげる。女性陣もキャーキャー騒ぐほどでは無いが、声を出して賞賛していた。レイ王子はうむうむと頷いている。試合が終わった者たちが戻って来て、入れ替わりに順番が近づいた者が席を立つ、そんな感じで一回戦が続いていき、陽がだいぶ傾いてきた終盤、俺の出番が来た。ジンも既に二回戦進出を決めている。
◇ ◇
男子一回戦第十四試合。俺の相手は同じB組の下級生だ。話した事は無いけど。厚い皮で出来た防具の装着具合を審判役の教師が確認し、それが済むとお互いに剣を構え、開始の声がかかる。魔力を剣に込め、剣が光り出すのと同時に俺は心の中で叫びながら前へ出る。ちなみに防具にも魔力を込めて強化する。皮だから光らないけど。剣も、切ると言うより叩き伏せる用途だ。生身に当たれば相応に切れるけど。それはともかく、喰らえ! 魔力三倍剣っ!!
・・いやだって、格好良いのが思い付かなかったんだもの。
やっぱり考え直した方が良いかな? まあまずはこれに勝ってからだ。俺は勢いよく剣を振り下ろす。相手はそれを上手く自分の剣で受け止めるが、体ごと後ろへ流され、困惑の表情を見せる。魔法で強化した剣は、威力が増すだけでは無く、受けた力を減じる効果も有るが、何せ俺の見かけ上の魔力階級は九だ。普通の学生相手なら、一回りも二回りも上なんだよね。そんな訳で、俺は魔力差に物を言わせて剣を打ち付けながら前に出る。下がる事しか出来ない相手を圧倒し、無事一回戦突破を果たしたのだった。大トリで出て来たレイ王子も当然の様に勝利し、五人とも翌日の二回戦に駒を進めた。
俺以外の四人が勝ったのは、まあ、誰が見ても順当な結果なんだろう。まだ一回戦だしね。でも、俺の勝ちっぷりには皆が驚いたようで、帰る道すがら色々言われた。
「お前、俺よりも強いんじゃないか?」
「わたくし魔法の授業でも驚きましたが、平民の中にも、あら失礼、他意は無くてよ、わたくしたちと同じように魔剣を使える方が居るなんて、
信じられませんわ」
「確かに驚きましたわね」
「僕と決勝まで当たらなくて良かったよ」
「うん、アルだって強いんだから」
「あなたはどうなの?」
半分はお世辞だと分かりつつも、いや照れるなあ、と思わず頭に手を当てて足を止めると、レイ王子も横で立ち止まった。そして先へ歩き続ける他の皆をチラっと確認してから、
「あれがオーズタットの秘技なんだね?」
と、人差し指を口に当ててウインクしながら囁いた。はい可愛い。じゃなくて、レイ王子は秘技の存在もやっぱり知っているのか。隣に居るジンにも聞こえていたと思うけど、彼も知っていると言う事だよね。
◇ ◇ ◇
楽しみにしていた剣技大会の日が来た。剣の腕前はわたしもアルも全然だけど、魔法も使えるなら別。本当に楽しみ。でもアルは何だか緊張しているみたいだったので聞いてみると、うんそりゃね、と力ない返事が返って来る。どうしよう、何か言った方が良いのかな。でもアルの性格だと何か言うとかえって緊張が増しちゃうかも。そう思って話を変えるわたし。客席に着いてからもアルはやっぱり緊張気味のままだったけど、試合ではちゃんと勝った。
うん、アルだって強いんだから。でも、もしもの時はわたしが必ず守ってあげるからね。
◇ ◇ ◇
翌日の二回戦も五人全員とも勝ち上がり、三日目の三回戦が始まる。勝てば午後の準々決勝に進出だ。まず第二試合でセットが八強入りを決める。俺より少し背が低いくらいの体格なのに、素早さだけでなく上級生にも力負けしない見事な勝利だった。次に出て来たケイもまたまた秒殺。一試合挟んでジンも危なげ無い勝利を収め、その次の次、俺の三回戦が始まる。相手は上級生。三回戦にもなると、残っているのは大半が上級生だから、当然そうなるよね。
「お前さんがクロップナンス伯爵の弟子とか言うヤツだな? 当たるのを楽しみにしていたぜ」
「はあ」
防具確認の間に対戦相手が話しかけてくる。知らない人なので適当に返事を返す俺。
「話は以前から聞いていたんだ。どんなものだか確かめさせて貰おう」
「はあ」
試合開始の声がかかる。魔力を剣に流し込み・・おや? 今までの相手より剣が強く光っている。これはもしかして・・と、踏み込みかけて留まると、
「ああ、そうとも。俺の魔力階級は八だ。今までの相手とは一味違うぜ。お前さんは七か? 八か? それとももっと上か?」
「・・・」
相手がネタバレ敗北フラグを立てる。言わなきゃ良いのに。俺の魔力階級は聞かれても困るので黙っている。剣は九階級の割にはさほど眩しく光ってはいない。効率よく魔力を使っているので、見た目は七階級と同じくらいだ。光らせるのが目的じゃ無いからね。
「まあいい、剣を交えてみれば分かる事だ!」
と、向こうから切りかかって来た。剣を横向きに前に出してそれを防ぐと、ガイーンっと物凄い衝撃が手に伝わり、
思わず剣を下げてしまう。あれ? 八階級相手なら問題なく受け止められるはずなのに。一度間合いを取り直してニヤっと笑う相手。
「俺はダリオストッド・マグナザルツってもんだ。覚えておいてくれよなっ!」
名乗りながらまた斬撃が来る。俺はそれを何とか凌いで反撃に出るが、打っても打っても受け流された。九階級の力が通用していない? この人・・強い!
「お前さん、魔力はすげえみたいだが、剣の扱いがなってねえな」
何度か打ち合った後、鍔迫り合いの状態になり、また話しかけてくる。うん言われなくても知ってる。しかし、こっちは向こうと違って答えている余裕は無い。押し込まれない様に歯を食いしばって踏ん張るので精一杯だ。そんな俺の様子を見て、ダリオストッド・マグナザルツと名乗るこげ茶色の髪の筋肉質男は・・マグナザルツ? どこかで聞いたような・・次の瞬間、またニヤっと笑うと、合わさった剣をスルスルっと滑らせて俺の剣を根元で押し下げ弾くと、俺が構え直すよりも先に、素早く剣先を回り込ませて、胴に強烈な一撃を入れて来た。堪らず膝を付く俺。さらに剣を翻して止めの突きが襲い掛かろうとする所に、審判が手を差し入れて宣言する。
「そこまで! 勝者、マグナザルツ!」
◇ ◇
あー、負けちった。せめて準決勝くらいは行きたかったな。俺は剣技場内にも有る医務室経由で客席に戻る。脇腹に痛み止めの湿布を貼って貰った。今週のキッシンデント先生は大忙しだね。戻った時にはちょうど次の試合が決着する場面で、レイ王子が準々決勝行きを手にした所だった。うわ、俺だけかー。
「相手の人、強かったね」
ニコがすぐ慰めてくれた。昼食の為に食堂に場を移してからも、
「あまり気にするな。押してる場面も有ったじゃないか」
「マグナザルツ子爵と言えば騎士団の元副団長だよね。そのご子息ともなれば勝つのは簡単じゃないよ」
「そうだな。相手の剣捌きは見事だった」
「アル、元気出して。アルも強いよ?」
「下級生で三日目まで進んだのだから、落ち込む必要は無いですよ」
「わたくしもそう思いますわ」
「頑張ってたわよね」
夫々が声をかけてくれる。ニコ以外の女性陣は、普段の授業での俺のへなちょこぶりを横目で見ているのを思い出したのか、良く考えればこんなものか、と言った感じのやや複雑そうな顔をしていたけど。
「魔法では君が上回っていたが剣の技術に差が有った、と言う事だね?」
最後にレイ王子が簡潔に指摘する。次の番だった彼は、俺の試合中は控室に居て見ていなかった筈なんだが。周りの話から推測した? 大正解だ。俺の見かけの階級が八を更に超えるのも確定しちゃったかな。まあ二回戦までで七より上なのはバレバレだし、いずれ話すつもりだった事だ。
「いやあ、実を言うともう少し良い所まで行けると思っていたんだけど、不本意ながら師匠の理想を体現してしまった」
ポリポリと頭を掻く俺。
「理想?」
レイ王子が首を傾げる。
「ああ、いや、何でもない。負けた俺の事より、勝ち残った皆を応援しなきゃ。良い席を取れるように早めに行こう」
誤魔化して俺は席を立つ。早めに行かなくても、客席は有り余っているのに。
◇ ◇
師匠の理想、魔法で出来る事は機械でも出来る世界、それは師匠が魔法を使えなかった頃からの憧れだったが、秘技を発見して以来、それは執念へと変わった。三倍もの魔力を発揮する秘技は、師匠自身が魔法を行使出来る様になる恩恵をもたらしたが、同時にこうも考えた。
これでは魔法が使える者と使えない者との差が大きくなりすぎる、
と。平民の半数は魔素が全く無い。三倍してもゼロはゼロのままだ。少量なりとも魔素を持つ平民の中には魔法を使える者も出て来るが、魔力階級が上の貴族との差はさらに開く事になる。七階級なら三倍して二十一。三階級の者が九になった所で、これ迄とは比較にならない違いだ。
元々今の身分制度は体内の魔素の有無が元になって作られた。勿論不平等な部分も多々あって、不満を持つ者も居ない訳では無いが、一定のバランスが取れているからこそ、王国の長い歴史が続いて来ている。そこへ秘技の事が知れ渡り、もしそのバランスが大きく崩れたら・・師匠なりに未来に対する危機感を抱いたらしい。そして、例え師匠がそれを秘密にしていても、いずれ誰かが同じ発見をするだろうとも確信している。それは明日かもしれないし、師匠が老いて亡くなった後かもしれないが、何せ魔素は目の前に存在しているのだから、今まで誰も気が付かなかった事こそ幸運だったのだろう。
まあ、師匠みたいに貴族なのに偶々魔法が使えないコンプレックスを持っていて、偶々試行錯誤を根気よく続ける才能があって、偶々空気中の魔素を発見しちゃうような変わった人が、明日いきなり現れるとも思えないけどね。魔法は貴族しか使えないのが当たり前、魔力階級は十が最大なのが当たり前、平民は魔法が使えないのが当たり前、ずっと長い間そうやって来たんだから。師匠自身も多分にそう思うのか、焦りまくっている様子は無いが、秘密が明かされる前に、師匠自身が理想を実現してしまうか、師匠の理想を継げる者を見つけなくてはならないと、ずっと悩んでいたんだって。
魔法で出来る事が機械で出来る様になり、魔法が特別では無くなる世界、ともすれば技術が魔力を上回る世界、今さっき剣技場で俺が身をもって示した世界は、王族や貴族が特別な存在では無くなって権力を失い、これもまた世界を変えてしまうだろう。でも師匠はその方がまだマシだと信じている。強大な力はより強い支配欲を生む。今の様な穏やかな貴族支配はいずれ変質し、強い抑圧の下で反発も強まり、やがて両者は・・その時の凄惨さは考えるまでも無い。前世の歴史の様に同じ人間同士でさえ酷い事が起こるのに、隔絶した力の差がある状態でそれが起こるとなれば尚更だ。それよりは、例え一時の混乱が起きたとしても、互いに力を持つ方が、争わなくて済む希望が残るに違いないと。今の王政が消えた方がマシだなんて、レイ王子の前ではとても言えたもんじゃないけど。
そして、科学の概念が乏しいこの世界で、それに興味を持って粘り強く実験を行っていた子供を偶然見つけ、その体内に多少の魔素が有ると知ると、その子供が理想に相応しい考え方を出来るか慎重に確かめた上で、秘技で魔力が三倍される意味とそれに対抗する技術の開発を実地で教える事にした。
それが俺とニコだ。
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ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 続きはまた来週。




