10話 学園生活
昨日に引き続き、10話投稿です。◇×2は場面転換を、◇×3は話者転換を示しています。
◇ ◇
翌日、登校して一番に医務室行き、新しい湿布を貼って貰ってからサロンに入ると、昨日にも増してクラスメイトたちの視線が刺さった。でも昨日と違って警戒の念が少し混じっている感じだ。俺たちがレイ王子と昼食を共にしていたのは既に知れ渡っているだろうから、然もありなんって所だけど、この効果の良し悪しは暫く様子を見ないと分からないかな。まあ、向こうが距離を取ってくれれば攻撃されるリスクも遠ざかるだろうし、それこそフェル嬢の言い分では無いけれど、王家の友人にちょっかいを出す馬鹿は居ないだろう。この日も座学だけで、平穏に過ぎて行った。
そして入学して四日目、頬の傷も背中の痛みもほぼ治り、今日は楽しみにしていた魔法の実技だ。異世界転生者のお約束だし、ここは一つ周りに実力を見せつけて、無詠唱だと!? なんて言わせてみたい。村での修行で俺もニコもマスターしているのだ。
魔法用のグラウンドに集まり、最初に教師がお手本を見せる。
「炎よ出でよ、火球となりて・・」
ブツブツと呪文を唱えて手を前に差し出すと、掌からボッっと火の玉が現れて飛んで行き、離れた先に有る的のど真ん中に命中した。火球魔法だ。続いて最初の生徒、フェル嬢が、同じように的の前に立つと、手を向けるや否や火球が飛び出して行った。何!? 無詠唱だと!?
次の生徒も同様で、そのまた次も同じだった。マジですか!? 皆無詠唱で出来るの!? 何だよ、俺、全然大した事無いじゃん! 教師も当然無詠唱で出来るんだけど、授業だからあえて呪文を唱えて見せたんですか、そうですか。
すっかり興を削がれてしまった俺は、順番が回って来ても特別な事はせず、むしろ手加減して周りと同じくらいの威力で火球を出した。それでもどよめきが起こったから、まあ十分か。平民が貴族と同じ様に魔法を使える事自体、まずあり得ないもんね。ニコも俺のやり方を見て手加減したみたいだった。結果的にはこれで正解だったのだと思う。あんまり目立つことをすると、余計に視線が痛くなりそうだったし。
ただ、俺たちの魔法は、他の生徒たちとはちょっと違う点はあった。通常の魔法は、体内で魔力を練り、それを手とか指とか体の先に持って行くイメージで火を放出する。だけど俺たちの場合は、空気中の魔素に直接働きかけるので、体からちょっと離れた所に火球が出現して飛んで行ったのだ。
僅かな違いなので誰も気付かなかったみたいだけど。
◇ ◇ ◇
今日は魔法の授業。わたしもアルと同じくらいの火球を出して、上手く的に当てる事が出来た。皆の所に戻ったら、凄いびっくりされちゃった。
「驚きましたね」
「レイの言う通り、面白い子ですわ」
「ニコ、やるわね! 私の火球より大きかったんじゃない?」
最初の日に魔法が使えるって事は言ったけど、平民のわたしが使えるのはやっぱり変だよね。わたし自身も今でもちょっと信じられないくらいだもの。でも褒められるのは嬉しい。
「えへへー。魔法もお師匠様に教えてもらったんだ」
「伯爵の教えが良いのですね。発動も速いし綺麗な火球でした」
「私も弟子入りしたいなあ」
「わたくしは負けてませんわよ」
「うん、フェルの火球も大きかったね」
でも、本当はもっと大きな火球を出せるんだけどな。王族より強い魔力を大勢の前で見せるのは良くないから、アルと同じくらいに加減して使う様にお師匠様から言い付けられている。ちょっと残念。
◇ ◇ ◇
それから数週間が経った。この学園生活にもだいぶ慣れたと思う。レイ王子やフェル嬢たちのお蔭だ。見直したのか飽きれたのか諦めたのか、周りの視線もちょっと和らいで来た気がする。
毎朝寮内に鳴り響く鐘の音で目が覚め、身支度して朝食を食べてから学園に向かう。この世界に目覚まし時計は無い。と言うか、前世の様な機械式時計は存在せず、日時計と砂時計の組み合わせで時刻を知る。王都では、王宮の日時計が標準時になっていて鐘が鳴らされ、それを受けて寮にも有る砂時計で時間を計って起床の鐘が鳴る仕組みだ。夜は王宮の巨大な砂時計が基準になって鐘の音が届く。鐘が煩いとか言うクレーマーは居ない。居たのかもしれないが居ない。夜の鐘は小さめに鳴らしているみたいだけど。村では村長の家、つまり俺の家の庭に日時計と鐘が有った。二時間毎に夜も鳴る王都と違って村では正午の鐘だけなので一日一回。俺も鳴らした事が有る。寮の起床の鐘を鳴らす人は何時どうやって起きているのかと言う疑問も持ったが、それは程なく解けた。答えは、寝てない、だった。宿直の人が二人で朝まで起きているんだって。
その寮の前でニコと待ち合わせ、登校するとまずサロンへ行き、片隅の丸テーブルに二人で着くまでがルーティーンだ。するとフェル嬢たちがニコに声をかけて来て、向こうのテーブルで女子会が始まる。最初はそうだったのだが、日に日に向こうのテーブルがこちらに近づいて来て、今では丸テーブルにぴったりくっ付き、ニコは丸テーブルの椅子に座ったまま、俺のすぐ隣で女子会が始まる様になった。彼女たちは俺に構わず話をしていて、俺が会話に加わる事も滅多に無く、かと言って以前の様に追いやられることも無く、いささか気まずい時間なのだが、ニコが楽しそうなら何よりだ。
それに気まずさが解消される時も少なく無い。ケイとセットがこちらのサロンに良く顔を出してくれるからだ。レイ王子とジンも偶にやって来る。クラスメイトの中には、この丸テーブルの事を「平民のテーブル」などと陰口を叩く者も居た様だが、王子もやって来ると知ると誰も言わなくなった。
登校したらそのまま直接科目用の教室に行けば良いじゃないかと思わなくも無いが、校門が閉まる時間と授業が始まる時間にはかなり間があるし、交友を深める時間としてわざとそうなっている感じ。授業の合間も長い。俺以外の男性陣はみなA組なのがちと寂しいけれど、授業でもニコがいつも隣だし、昼食になればこの九人で同じ長テーブルを囲んでワイワイやっている。俺とニコが一緒に居たがるので、男女のグループがくっついて大所帯だ。フェル嬢は、いつもレイ王子と同席するのは婚約者の件があからさまになって好ましくないと思ったらしいが、どこ吹く風のレイ王子を見て、気にしない事にしたみたい。
平民と貴族では共通の話題が少ないかと思いきや、案外そうでも無く、授業の話や寮生活の話で良く盛り上がる。家を出て初めて一人で暮らすのは、一部の例外を除いて皆同じだからね。身の回りの事を全部一人でやらなければならないのは、色々戸惑いもある。例外なのはレイ王子とジンだ。彼らは寮には入らず王宮から通っている。ジンも王宮に住んでるんだね。流石護衛役。正式じゃ無いけど。
そんな感じで今日もまた食堂で、九人でワイワイやっていると、セットが俺にこんな話を切り出した。
「もうすぐ剣技大会だね。ケイは優勝するつもりでいる様だけど、アルはどれほどの腕なんだい?」
「え? ああ・・」
入学してちょうど一か月になる来週、全校生徒がトーナメント形式で剣を競う大会が有る。一か月経って馴染んだ所で、戦って男の友情を、って事だろう。多分。女子もやるけどね。セットたちはクラスが違うので、俺が剣技の授業でどんな様子かを知らない。
「俺は・・どうだろ。自信があるような無いような」
言葉を濁す俺。はっきり言って、俺の剣はへなちょこだ。幼少の頃から剣を習っている貴族たちと比べると、剣歴一年の俺なんて文字通り付け焼刃に過ぎない。授業でも苦労している。だが大会となると、ちと事情が変わって来る。授業では純粋に剣の技術だけを教わるが、大会では、土魔法の一種で剣に魔力を纏わせ強化した、魔剣を使った戦いになるのだ。俺の魔力は九階級なので、ここに優位性が出る。学生は、皆七階級以上と言っても、殆どがその七だ。偶に八、極々稀に九。十はまず居ない。俺の見かけの階級が極々稀な九である事は、クラスメイトたちからの風当たりが余計に強くなりそうだったので、当面隠す事にしている。ここに居る皆にもまだ言っていない。魔法の授業でも加減している。でも今度の大会は、全力で行くつもり。
「なんだ、はっきりしないな」
ケイが熱気のこもった視線を向けてくる。
「良い所まで行けるかもしれないし、すぐ負けるかもしれないし、やってみないと分からないよ」
「そういう時は、何処を目指しているか答えるものだ。結果は後から付いてくる」
ジンが一緒になって圧力をかけてくる。レイ王子が、まあまあ、と往なしているが二人は視線を外さない。この熱血漢コンビめ。
「そのジンは優勝を目指しているのですか?」
引き気味になっている俺を見て、リサ嬢が矛先を和らげてくれた。
「無論だ」
「おう、当たったらお互い手加減なしだぜ」
「ああ」
目を合わせ、火花を散らすケイとジン。でも楽しそう。
「ニコも頑張ってね。あなた、筋は良さそうだもの」
「そうかなあ」
横でリリイ嬢がニコを励ます。
「そうよ。わたしも負けないからね」
「わたくしも負けるつもりはありませんわ」
ニコの剣も俺と似たようなもので、彼女たちはそれを知っている。余裕の表情だが果たしてどうなるやら。
「僕も立場上、無様な結果は残せないから、本気を出すつもりさ」
レイ王子が言う。立場で言えば俺は初戦敗退でも問題ないんだけど、心の内ではあわよくば優勝を、なんて考えている。そこまで甘くないかな? でも俺の魔力三倍剣をもってすれば・・
もうちょっと何か格好良い技名を考えた方が良いかも。
◇ ◇
昼食を終え、教室へ向かう。午後の一コマ目は歴史だ。内容はこの国の成り立ちから始まって、歴代の王について順番に教わるみたい。今はまだずっと昔の王様の話をやっている。
他の授業はどんなかと言うと、政治は、思っていたのとちょっと違って、今現在行われている国の施策と地理、それと領地経営について学ぶ様だ。農業や漁業のやり方なんかも含まれていて、上級生になると実習も有ると聞いた。剣技はもっぱら実習だ。教室を使ったのは最初だけで、授業中はずっとグラウンドで剣を振るう。俺にとっては唯一苦手な時間だ。嫌いじゃ無いけど。女子も女子同士で剣を打ち合う。卒業してから騎士団に入る女子も時々居るんだとか。
魔法は、座学と実習が半々くらい。まず系統別に魔法の種類と成り立ちを教わり、グラウンドに出て実際にやってみる。成り立ちを教わるのは魔法発動の際のイメージ作りに役立つからだ。分かりやすい例が水系統の遠見魔法で、まず望遠鏡に使われるレンズと言う物があり、それを模すイメージが作れなければ発動できない。ただ遠くを見たいと念じるだけではダメなのだ。今は土魔法を教わっている。火魔法、土魔法、水魔法、風魔法と順に習い、レベルを上げてまた火魔法に戻るといった感じのカリキュラム。この学園に来る様な者なら俺も含めてたいてい皆一通りの魔法を使えるが、改めて学び直す事になっている。今まで知らなかった魔法もそのうち出て来るかもしれない。
どの授業も何とか付いて行けそうだ。そして通常の授業の他に、幾つかの年間行事が予定されている。前世では体育祭も文化祭もあまり良い思い出は無かったので、結構楽しみにしているのだ。
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