01話 序章
ゆるっとした異世界ものです。よろしくお願いします。
とにかくツイてない人生だった。家庭の事とか学校の事とか病気の事とか色々あるけれど、何がツイてないって、今こうして青信号で渡っている横断歩道の真ん中で暴走トラックに惹かれようとしている事だ。暴走トラックだよ?
そんなラノベみたいな話が自分の身に起きるくらいツイてない。これ、せめて転生でもしちゃうなら帳尻も会うってもんだけど、無いだろうなあ。なにせツイてないんだから。ああ、たった十七年で終わるのか。つくづく思う。幸運に恵まれた人生を送ってみたかった・・。
◆ ◆
・・って本当に転生しちゃったよ。マジか!?
いやいや、そう思えて実は死ぬ間際の一瞬で超リアルな妄想が展開されているだけかも。走馬灯の一種みたいな。それにしてもリアルだよなあ。今の俺はアルバス・エンデナという名前で五歳。エンデナ村の村長の家の一人息子だ。
鏡に映る自分の姿は、かつての自分の面影も多少は有るが、茶色がかった黒髪で顔立ちも西洋風が混じった様に見える。今迄の、物心付いてから五歳までの記憶もそれなりに覚えているし、トラックに轢かれる前の人生の記憶もはっきりしている。轢かれた瞬間とその後どうなったのかは良く分からないが、ふと気が付いたら二つの記憶が繋がっていた。
頬を抓れば痛いし、息を止めれば苦しいし、音も匂いも完全にリアルだ。大体、窓の外に見える景色は俺が住んでいた街とは全然違うし、そういう場所に行った記憶もない。いや、五歳まで住んでいる村だから記憶はあるが・・ってややこしいな。
今居るこの家の周りは畑に囲まれたド田舎だ。道は舗装されておらず、電気もガスも無い。もしこれが転生だとすれば、この世界は前世でいう所の中世レベルみたいで、そういう物がハナから存在しない。勿論ネットもテレビも無い。
でも五歳までの記憶の中では特に不便も感じていないかな。むしろ優しい両親に健康な体、嬉しくて楽しい思い出ばかりだ。おまけに隣に同い年のニコリナって名の女の子が住んでいるのだけど・・お、丁度やって来た。
「アルー! あそぼー!」
この子が幼いながら超カワイイ。これはツイてる。しかも俺にすごく懐いてて、こうしていつも一緒に遊んでいる。この小さな開拓農村には一緒に遊べる同年代の子供は俺しか居ないってのもあるんだけど。
「おまたせ、ニコ」
「今日は何して遊ぶ?」
「そうだなあ。天気も良いから川にでも行くか」
「あ、あれ教えて! 魔法も使ってないのに石がピョンピョン飛ぶの!」
「ああ、水切りね」
「あれ、本当に魔法使ってないの?」
「使ってないよ。そもそも使えないし」
そう、この世界には魔法があるんだよね。さすが異世界! 俺には魔力が少なくて魔法を行使出来ないけど、それでも魔法がある世界に転生出来たのなら、これは中々に面白そうだし死んだ甲斐も有ったと言うものだ。どうせなら異世界転生お約束のチート魔力が欲しかったけど、贅沢を言ったらキリが無いか。大体、転生特典を貰う以前に神様らしき人に会っていないしな。
「じゃあ、絶対わたしも出来る様になる!」
「練習すれば誰でも出来るよ」
「頑張る!」
天気の良い日が続いたせいで、何日も陽が暮れるまで付き合されたけど、この世界ではこんな感じで楽しい毎日だ。まあ、いつか走馬灯があっけなく消えるのかもしれないけど、それまではアルとしての人生を楽しむ事にするか。
◇ ◇
ズボボボーーーーン!!!! ガランガラン ・・カンッ
八歳になった。そして鍋と蓋が吹っ飛んだ。ついでに俺の農民ライフ将来設計も吹っ飛んで行った。
◇ ◇
ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます! 更新は週一で行う予定ですが、不定期になるかも・・。