第一話 その眼に映るのは……
異世界恋愛にチャレンジします。
雨の降り頻り雷の止まない夜、わたくしは地べたへと倒れている。
「んん……ここは……?」
身体を起こす為に地に手を付くと眼の前には骨の手が見え、それが自身の手である事に気付く。
「この手……、わたくしの手ですわ……。 何故この様な事に、きゃああああ!!」
周囲を見渡すと人の白骨化した死体の山が取り囲む様に横たわっている。
「はぁ……はぁ……落ち着くのよわたくし……、こういう時は思い出せる範囲で自分の記憶を探るのよ。」
(わたくしの名前はミレイユ・シルベスター、名前は覚えてますわね。 最後の記憶は……そうだ、キース様との結婚前夜は覚えてますわ。)
キース・クレイドル、公爵家の御子息で平民のわたくしに良くしてくれて婚約までしてくれた素敵な殿方。
(キース様……お会いしとうございますが、この様な姿では会っても気付いてくれませんわよね……。)
少し歩いた所の湖で雨の波紋と暗闇で分かりづらいが全身が白骨化している姿が映っているのが分かる。
「わたくしは何者かに殺されてしまったのでしょうか? それとも呪いでしょうか?」
(何方でも構いませんわ、もう一度キース様に会いたい!)
今のわたくしの姿でもキース様が気付いてくれると信じて会いに行く事に決めましたわ、淡い希望を抱いて。
ークレイドル邸ー
「キース、あの平民の女の事は忘れろ! 元から釣り合わなかったのだ、貴族が平民と添い遂げるなど!」
「…………。」
「全く、お前は立場というのを分かっておらんな。 隣国のパーシアス嬢との婚約があるというのに私に恥をかかせるんじゃない!!」
「…………。」
「ふん、まあ良い。 あの卑しい女が死んだ訳だ、これで私の顔に泥を塗らずに……」
「死んでない!!」
先程まで沈黙を通していたキースの重い口が開くと怒気を交えた言葉が出て来た。
「おいおいキースお前も観たはずだろ、彼女の白骨死体を?」
「俺を騙そうったってそうは行かないぞ! アレは、別の誰かに決まってる! たった一日で人が白骨化してたまるか!!」
「往生際の悪い、婚約に愛など不要だ! 私も亡くなった妻に愛など持ってはいなかったのだからな! 頭を冷やして良く考えるのだな!!」
父親のハルトマンは踵を返し部屋から出て行くとキースは苦虫を噛み潰した様な表情になり、怒りを顕にしていた。
「クソッ!」
(アレは、あの白骨死体はミレイユで間違い無かった! あのクソ親父が誰かに頼んで仕組んだ事だろうな。 こんな家クソ喰らえだ! 親父の思い通りになると思うなよ、必ずミレイユを見つけだして俺もその場所で死んでやる!!)
ーミレイユ視点ー
白骨化した死体から離れ近くの森を彷徨う事数分、古びた洋館へと辿り着く。
「この洋館、随分と古そうですわね。 所々に蔦が伸びて苔が生えてますわね。」
「オイラ達の家に何か様かい淑女?」
「へ? きゃああああ! 骨が動いてますわ!!」
「へへへ、中々面白い冗談だねだけど君に言われたくないかな?」
「はっ、そうでしたわ! 今のわたくし骨でしたわ!!」
骸骨が動いている事に驚き叫び声を上げてしまいましたが、自分の姿を思い出しそこまで不思議でない事に気付く。
「ごめんなさい、変な声を出してしまって。 それにオイラ達って?」
「ああ、ここはオイラみたいに人里で暮らせなくなった奴らが集まる場所さ。」
「そう、なんですの?」
「おっとそうだ、自己紹介が遅れたねオイラはスケルトンのスカル! 宜しくな君は?」
「わたくしはミレイユ・シルベスターですわ。」
「それ本名?」
「本名ですわ。」
スカルは難しい表情をしながら、しばらく考え込むと何かを閃いたのか唐突に指の骨を鳴らす。
「流石に本名はマズいから君は“レディ・ボーン”と名乗りなよ!」
「レディ・ボーン? 本名がマズいってのは何がですの?」
「今は言えない、けどその時が来たら教えてあげるね。」
わたくしはスカルからレディ・ボーンと名乗る様に促され承諾すると洋館の中へと案内される。
洋館の中は至る所に蜘蛛の巣が張っており、黴が発生し何年もの間、手入れがされていない事が分かる。
「やあ、スカル新しい仲間かい?」
「ようレイス喜べ、この洋館にも華が出来たぞ!」
「華?」
「華ぁ? どっちかっつったら骨だろ?」
「違いない!」
「「ハハハハッ!!」」
「ふふ。」
紫色の人魂の様な物が現れスカルとの会話を聞いていると少しは気が紛れ自然とわたくしは笑っていた。
「なあ、オイラってコメディアンの才能有るかもな!」
「そうかあ? 笑いの才能磨くより先にこの洋館磨けや、黴臭くて敵わねーぜ!」
「それでしたら、わたくしが掃除しますわ。」
「良いのか?」
「ええ、時間はかかりますでしょうが。」
「じゃあ頼んだぜ、オイラは寝とくから。」
「お前も手伝うんだよ!!」
「わ、分かったから引っ張んな!」
「ふふ。」
わたくし達は洋館の掃除で、まずは高い位置にある蜘蛛の巣はレイスに取ってもらい、黴ら布を濡らしてスカルと一緒に拭き取っていく。
「蜘蛛の巣はこんなもんで良いだろ。」
「ひえ〜、これ全部やってたら朝になっちまうよ!」
「でも掃除した後って、とても気持ちが良いですよ。」
「んじゃ、もうちょい頑張るか!」
「お前は、もっと頑張れよ!」
「へーいへい。」
雨も止み朝になるとようやく洋館の隅々まで溜まっていた埃や汚れをだいぶ落せ三人で背中合わせになり、遣り遂げた感に浸る。
「やっと終わった。」
「疲れたけど気持ち良いだろ?」
「まあな。」
疲労感からか、その場へ倒れ込み意識が遠退いていきました。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「大丈夫、眠っているだけだ。 無理も無いな、一日で色んな事が起きたんだろうね。 今は休ませてあげよう。」
「そうだな、悪いが俺には手足が無いから運べそうにないな。」
「見りゃ分かる、オイラはレディ・ボーンを寝室まで運ぶからレイスは一応朝食の用意をしといてくれ。」
「了解!」
スカルはミレイユを寝室のベッドまで運び、シーツを被せると部屋から出るとボソッと呟く。
「魔女め……どれだけ他人を不幸にすれば気が済むんだ。」
最後はキースも骨になります。




