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3話 「契り」

「どうする? 契りを交わす? しない?」


 エンジュの唐突な物言いに、俺は呆然としていた。


「な、なんだよそれ。じゃあ仮にしないって言ったらどうなるんだよ」


「さぁ、どうなるでしょう? あなたの血を全部吸い切ってしまうかも」


 くすくすと笑うエンジュ。その幼い笑みに残酷さが増して、俺は一歩後ずさった。


「いやね、そんな野蛮なことはしないわ。契りの有無は自由よ。けれど後悔しないように選びなさい。だって、これはあなたの人生の分岐に過ぎないのだから」


 ――人生の、分岐。そう聞くと呆気に取られる。これって実は重要なターニングポイントなんじゃないのか?

 

 エンジュの姿が女神にも悪魔にも見える。ここで間違えば何か重要なモノを見落としてしまいそうな気がして、俺は生唾を飲み込んだ。


「お、俺は……俺は――お前と契りを交わす。エンジュ」


「良い表情、百点満点。じゃあ、私と両手を重ねてくれないかしら」


「分かった」


 エンジュの冷たい手の上に、俺の一回り大きい手を重ねる。契約なので特に意識はしなかったが、これが異性との初めての握手だった。


「契約の内容はあなた、春野吉を支える。期限はあなたが命尽きるまで。つまり一生涯ってことね。それが例え短くとも、寿命を長く使い切っても関係ないわ。私があなたの目となり、手となり、足となり支える」


「これが契約の概要だけど、引き返すのは最後のチャンスよ。あなたはこの運命から逃げる? それともそのまま受け入れる?」


「逃げも隠れもしない。この契約を結んで、受け入れる。俺は生涯をお前と共にいることを誓う――」


「言ったわね。一生忘れないわよ、その言葉。ならこの契りは正式に交わされる。詠唱を唱えるわ。目をつむってて」


 エンジュの言葉通り目をつむる。何度も見た無の世界が俺を歓迎する。


「天に告げる。我は契りを交わす者。我は契約者の目となり、手となり、足となり、生涯を尽くし支えることを誓う。時には違い、迷えることがあれど、私達は歩み続ける。そして――我は何よりも、契約者の生存を願う」


 一瞬だけ互いの体温が高まったところで詠唱は終わった。これで完全に契約を結んだと言える。


「契約完了ね。私はあなたを見失うことなんてしない。そして、あなたは私の言われるままに支えられるのよ」


「なんだか釈然としないな……。本当に吸血鬼と誓いを交わしちまったのか、俺」


「あら、不満?」


「いいや、不満はない。けど……俺達はまだ友人ってことでいいんだよな」


「あなたがそう言うのなら合わせるわ。そうね、お友達から始めましょうって言ったのは私だものね」


 くすりと笑うエンジュ。その笑顔が愛らしくて、俺は少しだけ可愛いなんて思ってしまった。


「ま、まあっ、その時がきたら恋人になるんだよな……うん」


 自分でもよく分からない言葉を口にして、所在なく頭をかく。そんな俺がおかしいのか、エンジュは『そうね』とだけ言って笑った。

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