28話 「誓い」
朝、目を覚ますと隣には当然エンジュがいた。エンジュは早起きな俺と違って起きるのが遅い。それは吸血鬼ゆえだからエンジュがただ単に朝に弱い、ということで。
「後で飯作らないとな……」
はだけた着物に袖を通し、欠伸をしながら呟く。あまり細かいことは言えないが、長い夜だった。……ただそれだけ。
「ん、ヨシ……?」
「今日は早いな。おはよう、エンジュ」
「おはよう、ヨシ……。……もう少し寝ててもいい?」
「あぁ、いいぞ。今日は日曜日だからずっと一緒にいられるし。それに月代の件もあるから今日は家から出ない」
「それ、食事は大丈夫なの……?」
「買いだめしてあるから大丈夫だ。でも昼はインスタントラーメンになるかもな。たまには良いだろ? お姫様」
「そう、ね。たまにはそういう日も……いい、わ」
「おやすみ、お姫様」
言って、俺はエンジュの額にキスをする。無償の愛と言われる意味のそれは、俺がエンジュに手向ける確かな愛情だった。
ひとまずキッチンへと向かう。時計を見ると時刻は六時七分。相変わらず通常運転だな、と一人苦笑した。
先にエンジュの分を一緒に作ってしまうと彼女のご飯が冷めてしまうので、エンジュのご飯は彼女が起きてから作ることに決めた。……さて、今日の朝ご飯は何にしよう。
「ご飯とハムエッグとインスタントコーンスープ。後は……」
そうだ。確かほうれん草やウインナーがまだ残ってたはず。
「残り物のバターソテーといきますか」
朝に料理を作るのは何でもないいつも通りの日常なのだが、隆司じいさんにやられた足の傷が痛んで立ち仕事が結構キツかった。
あまり無理をすべきでは無いと分かっているけれど、ここは意地でも作っておきたかった。そうでもしないと俺のプライドが引きちぎられてしまうからだ。
「よし、出来た」
まずは自分用の分を一つ。おぼんを持って居間へ行き、ちゃぶ台の上にご飯を置いて正座する。
「いただきます」
◇◇◇
数十分後。朝ご飯を食べ終えた俺は皿洗いに奮闘していた。と言ってもまだ一人分なのですぐに終わるし、足の痛みさえ我慢出来ればどうってことは無い。
「これでスッキリしたぞ」
皿や茶碗を乾かす用の食器入れに並べ、一息つく。後はエンジュが起きるまでゆっくりするだけだ。しかしテレビは今面白いのはやっていないだろうし、スマホをいじってネットサーフィンする気分でもなし。
「……エンジュが起きるまで二度寝するか」
うん、たまにはこういう日もありかもしれない。俺はいそいそと部屋に戻り、エンジュの隣で浅い眠りにつくことにした。
――暖かい、幸せな夢を見る。それはあるはずのない『もしも』の夢。なぜか幼い俺が小さい頃のエンジュと遊ぶ夢を見た。花畑の中、追いかけっこをしたり花冠を作りあったり。そんな他愛のない夢。
なんて穏やかな時間なのだろう。もし小さい頃にエンジュと出会うことがあったのなら、俺の人生はどう変わっていたのか。ふと、そう思う。
最後の魔法使いと呼ばれたテオさんとも仲良く出来たかもしれない。エンジュとテオさんが引き裂かれる運命も無かったのかもしれない。
そういう『かもしれない』ことばかり考えてしまう。ただでさえ昨日の夜は色んなことがあったのだ。月代家に殺されかけ、足の神経を切られ、エンジュの話を聞いて――……そして、二人肌を重ねた夜を過ごして。
「……ん」
自然、目が覚める。朝を迎えてから以前よりもエンジュを愛おしいと思えるようになった。守りたいと。一人にだなんて、絶対にさせたくないと。
寝息を立てるエンジュに向かって、俺は一人呟く。
「俺には何の力も無いかもしれないけれど、お前を――エンジュを守れるような、そんな男になるよ。俺は」




