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#50 キスの味

 夜宵の家に上がり、傷口を洗った後、夜宵の部屋で彼女の手当てを受ける。

 とは言っても絆創膏を貼ってもらうだけだが。


「ヒナ、本当にありがとうね」

「ああ、まあな。俺達の大事な思い出を壊されたくないって、無我夢中だったよ」


 俺は部屋に置かれた魔法人形(マドール)モデルStand(スタンド)を見ながらそう答える。

 しかし夜宵は首を横に振った。


「それだけじゃない。私が魔法人形(マドール)をやってきたこと、無駄じゃないって言ってくれて嬉しかった」


 ああ、そのことか。


「無駄なわけないだろ。魔法人形(マドール)のお陰で俺達は出会えたんだ。俺達の過ごしてきた時間を無駄なんて言われてたまるかよ」


 そこで俺は水零の言葉を思い出した。


「まっ、感謝の気持ちがあるなら行動で示して欲しいな」


 そう告げると夜宵は不思議そうに首を傾げる。


「お礼が欲しいってこと?」

「ああ、ご褒美のチューならいつでも歓迎だぞ」


 自分で言ってて気持ち悪すぎた。

 やっぱこの台詞、美少女の水零だからこそ許される台詞だわ。

 しかし予想に反して、夜宵は顔を真っ赤にして慌てふためいた。


「えっ、えっ、それは、その、恥ずかしいよ」


 うおー! すげえウブな反応! 恥じらってる夜宵可愛いいいいい!

 しばらく逡巡した後、彼女は意を決したように言葉を吐き出す。


「ヒナ、恥ずかしいから目を瞑って?」


 うっそマジで? 本当にキスしてくれるの?

 夜宵の照れてる顔を見れただけで十分な収穫だと思ってたのに、とんでもボーナス来ちゃう?

 俺は夜宵のことが大好きだ。こんなチャンス見逃せる筈もない。

 言われた通りに目を瞑って、ドキドキしながらその時を待つ。

 夜宵の深呼吸が聞こえる。彼女も緊張しているのだろう。

 そしてしばしの沈黙の後。



「いくね」



 と夜宵の声が聞こえ。



 ちゅっ、とした感触があった。



 おでこに。



 俺は目を開く。


「おでこかー。おでこチューかー」


 それはそれで、にやけそうになるほど嬉しいんだけど、俺は自分のにやけ顔を誤魔化す意味も込めて、夜宵をさらにからかってみる。


「夜宵ちゃん、狙いが上にずれてる。もうちょっと下だよ」


 我ながらキモいと思いながら自分の唇を指で叩いて示す。

 耳まで真っ赤になった夜宵がそれに反論した。


「そこは駄目! そこにしたらリア充になっちゃうから駄目!」


 ちいっ、駄目か。

 それにしても、頼めばおでこチューまでしてくれるなんて、夜宵のチョロさが心配になるな。

 明日からの学校生活大丈夫かな。

 今みたいに知らん男子からチューしてとか、からかわれて、本気にしたりしないかな?

 心配だな。やっぱり夜宵は俺が守らないと。


「本当に夜宵ちゃんはチョロ過ぎて心配になるなー」

「相手がヒナだからだよ! 他の男子にやるわけないじゃん!」


 と、恥じらいながらも精一杯の弁解をするのだった。

 さあ、いよいよ明日は夜宵の登校初日だ!

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