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#39 七月一日1

「やっほー太陽くん。最近夜宵といい感じらしいじゃない」


 放課後の喧騒に包まれた教室内で、水零は俺の机に近づきながら、そう話しかけてきた。


「一緒にお洋服買いにいったり、オフ会に行ったり、随分お楽しみって聞いたわよ」


 俺はその話を水零にはしてないので、情報源は夜宵だろう。

 俺の机に手をつきながら、水零のダル絡みは続く。


「ずるいなー太陽くんは。私が夜宵を遊びに誘った時なんて毎回断られてたのに。一体どんな弱みを握って夜宵に言うこと聞かせたのかしら?」

「人聞きが悪いことを言わない! キミはなにかね? 俺と夜宵が仲良くなるのがそんなに面白くないのかね?」

「もっちろーん。最初に太陽くんが夜宵をお出かけに誘った時だって、私は猛反対したからね。太陽くんは狼さんだから駄目よって。上半身が下半身と直結してる性欲モンスターなのよって」

「風評被害をばら蒔くのは止めなさい。それと上半身が下半身と直結してるのは至って普通の人体構造だからね」


 そうやって意地悪く笑う水零に俺は当てつけがましく言ってやる。


「全く不思議なこともあるもんだな。そんなに反対してるのに、夜宵に服を貸してくれたりするんだから」

「あっ」


 それを忘れてたという様子で間の抜けた顔を見せる彼女。

 普段は俺をからかうのが生き甲斐みたいなところはあるが、根はいい奴なんだよなこいつ。

 どうせ俺と出掛けるのを猛反対したなんてのも嘘だろう。


「ありがとな、夜宵のこと色々サポートしてくれたんだろ」


 素直に礼を言うと、それに面食らったのか水零は拗ねたように口を尖らせた。


「感謝の気持ちがあるなら行動で示して欲しいわね」

「一体何をご所望ですか、お嬢様」


 そう聞き返すと、水零は自分の唇を人差し指でトントンと叩く。


「ご褒美のチューならいつでも歓迎よ」


 ざわっ、と教室内の空気が変わった。

 学校一の美少女と噂され、男女問わず人気の高い星河水零の口から、キスして欲しいなどという問題発言が飛び出したのだ。

 クラスのみんなが俺達の一挙手一投足を固唾を呑んで見守ってるのが空気でわかる。

 くそー、相変わらずの小悪魔っ子めえ。

 他の相手には品行方正な優等生で通ってるのに、俺のことはありとあらゆる手段で弄んでくるんだよなコイツ。


「ここは教室内だからな、いかがわしい冗談はせめて場所を選んでくれよ」

「えー、なになに? 太陽くん、いかがわしい想像したのー? 私は唇チューとは言ってないよ。おでこでもほっぺでも、別にいいんだけどなー」


 そこまで言うと、水零は机に座ったままの俺の耳に顔を近づけ、怪しく囁いてきた。


「私の体のどこでも好きなところに、キスしていいのよ?」


 こ、こいつはー!

 流石に今の発言の衝撃はでかかった。


「水零、ちょっと外に出ようか!」


 これ以上の爆弾発言は俺の身が持たない。

 今の水零の台詞がクラスメイトに聞こえていないことを祈りながら、俺は彼女を廊下に連れ出すのだった。

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