#34 戦いの後で
試合が終わり、ギャラリーの歓声が会場内を飛び交う。
「凄い勝負だったな」「どっちも強かったー」「ヴァンピィさん達おめでとー」「順調にゲームを支配していたバニートラップに対し、キャンプファイアの土壇場での巻き返しには目を見張るものがあったな。特に勝負を分けたのはパートナーへの信頼の差と言えるかもしれん」
解説者ポジションのサングラスヤクザおじさん、結局この人誰なんだよ。
「負けたあー! うううう、悔しいー」
琥珀が涙目になりながら地団駄を踏む。
その隣に立つ光流は立体映像を切りながら俺達に笑顔を向けてくれた。
「私達の完敗です。お兄様、ヴァンピィさん、優勝おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。お前は案外悔しがらないんだな」
なんだがんだで向こうもオフ会初優勝が懸かっていた筈だ。
その問いに光流は、ふふっ、と微笑みを返す。
「もちろん、ハラワタが煮えくり返るほど悔しいですが、それを顔に出したら相手を喜ばせるだけじゃないですか」
えー!
こっちもこっちで目茶苦茶負けず嫌いだったわ。
でも、と光流の言葉は続く。
「今日は私にとっても初めてのオフ会参加でしたが、とても楽しかったです。
普段はオンライン対戦がメインですが、直接相手と顔を合わせて対戦するのもいいものですね」
そっか、光流もオフ会の魅力をわかってくれたか。
「私達が倒した相手の屈辱に歪む顔、絶望に沈む表情。敗者が勝者に向ける尊敬と羨望の眼差し、最高に気持ち良かったです」
深窓の令嬢のようにお淑やかな笑みを浮かべたまま、とんでもないドS発言が飛び出したあー!
キミ、そんな風に考えながら今まで対戦ゲームやってたの?
「しかし私達が負けたのは事実。ベットした分の賭け金を払わないといけませんね」
その光流の呟きに反応したのは夜宵だった。
「そういえば、試合前にヒナを賭けるとか言ってたね」
そうだったな。つまり、俺達が勝ったということは代わりに何か貰えるのか?
「はい、負けた代償として虎ちゃんを差し出します。煮るなり焼くなり好きにしてください」
とても楽しそうな様子で琥珀の背中を押す光流。
幼馴染みを躊躇なく売りやがったぞコイツ。
と、そんなことを言ってる場合じゃなかった。
背中を押された琥珀はよろめきながら前につんのめる。
「おい、危ないぞ」
言いながら俺は倒れそうになる琥珀に駆け寄り、彼女を抱き止めた。
「せ、せんぱーい」
俺に寄りかかった琥珀は、弱々しい声を上げながらこちらを見上げる。
「本当にごめんなさい。私、先輩のツイッターに悪戯したり、虎衛門を名乗ってDMで先輩をからかったり。先輩に酷いことばかりしちゃいました。
お詫びに私、先輩のものになりますから。悪い子の私をお仕置きしてください」
な、なんだと?
試合中は憎たらしいほどに、こちらを煽ったり強気に挑発してきた彼女が、負けた途端こんなにしおらしくなって涙目で哀願してくるなんて。
も、物凄く嗜虐心をくすぐられる。
この子を苛めたい!
はっ、いけないいけない。
俺は琥珀の両肩を掴み、彼女を引き剥がすと共に煩悩を消し去る。
琥珀にMっ気があることがわかったが、俺は常識人でいないと。
妹分二人にちょっとヤバめな性癖が発覚した今だからこそ俺は理性を保たないといけないんだ。
そうだよな夜宵? 俺達は常識人代表でいような。
「はあっ、はあっ、ところでたまごやきさん。そろそろ抱き締めていいですか?」
鼻息荒ーい! 手つきがいやらしーい! 涎垂れてるー!
もう駄目だ。この空間、変態しかいない!




