#26 スピードスター虎衛門2
忍者の攻撃がさらに激しさを増す。
脚部特性・怪踏乱打によって攻撃速度はさらに速くなっている。
このままでは剣で受けて凌ぎ続けるのは限界がある。
ここは一旦、距離を置かなければ。
そう判断し、夜宵はジャックを操作し、後方へ飛び退く。
「逃がさないっすよ」
そこに琥珀の追撃が迫る。
虎の被り物をした大河忍者の口が開き、そこから光線が吐き出された。
光線はジャックが着地するであろう地点を先読みしたように、その先の地面を照らす。
「頭部特性・魔鬼火死!」
ジャック・ザ・ヴァンパイアが地面に着地する。
その時、足元でガラスが割れるような音が響いた。
よく見るとジャックの周囲にはガラス製の透明な撒菱がばら撒かれている。
夜宵はすぐにステータス表示を確認した。
ジャックの脚部パーツに五パーセント程度の微細なダメージが発生している。
ダメージ自体はまったく大したことはない。
一回撒菱を踏んで五パーセントのダメージということは、あと二十回踏んでようやく脚部パーツの破壊に至るペースだ。
この程度なら踏んでもさほど問題はない。夜宵がそう思ったところで、ジャック・ザ・ヴァンパイアの右隣に、青白く燃える人魂が浮かび上がった。
そしてその人魂には、7、という数字が刻まれている。
「これは!」
夜宵の顔が強ばる。この撒菱にはダメージを与える以外に他の効果もあるのだと悟ったのだ。
琥珀は不適に笑いながら言葉を放つ。
「この魔鬼火死を踏んだマドールには死のカウントダウンが始まるんすよ。さあ、覚悟するっす」
大河忍者が地を蹴り、吸血鬼へ接近する。
その右腕から繰り出される三本爪の一突きを、ジャックは剣で弾きながら再度距離をとる。
その時また、ガラスの割れる音が響いた。
ジャックの脚部パーツにダメージが入り、その隣に浮いた人魂に刻まれた数字が6を示す。
「あーあ、また魔鬼火死を踏んだんすね。しょうがないっすねー」
夜宵もそろそろこの撒菱の効果を理解し始めた。
「カウントが減った……」
その呟きに琥珀は嬉しそうに言葉を返す。
「そうっす! 魔鬼火死を踏む度に死のカウントは一つづつ進み、それがゼロになった時、たとえパーツが無事でもそのマドールは機能停止する! それが魔鬼火死の効果っすよ!」
それは夜宵の想像した通りの凶悪な効果だった。
彼女は苦しげに奥歯を噛みながらジャック・ザ・ヴァンパイアを操作する。
ジャックはその場から駆け出し、大河忍者から距離をとろうとする。
しかしどれだけの速さで駆け抜けようともその隣にはピッタリと離れず人魂が追走するのだった。
死のカウントダウンからは逃げられない。
そしてそれだけではない。
「ここから逃げて先輩と合流するつもりかもしれないっすが、逃がさないっすよヴァンピィ!」
大河忍者が後ろから追ってくる。
その口から光線を開き、ジャック・ザ・ヴァンパイアの進行方向に撒菱をばら撒いた。
それを見てジャックは足を止めざる負えない。
こういった設置系のトラップの真価は敵の動きを制限することにある。
そして近接戦闘において移動範囲が制限されるということは一方的な不利を意味する。
足を止めたジャックの背後から忍者が爪を振り下ろす。
ジャックは振り向き、それに魔剣で対抗する。
回避はできない。動けば撒菱を踏んでしまう。
だが怪踏乱打の効果で大河忍者の攻撃速度は神速の粋に達している。
三本爪は魔剣による防御を掻い潜り、ジャックの胸を切り裂いた!
「ジャック!」
夜宵は目を見張る。
頭部パーツへの大ダメージ。
ステータス表示を見ると、ジャックの頭部パーツの装甲ゲージは八割以上が削りとられていた。
これ以上のダメージはジャックの機能停止を意味する。
逃げなくては。そう思って後退ると、またその足元でガラス製の撒菱が割れた。
ジャックの隣に浮かぶ人魂の数字が6から5へと減る。
「くっ」
絶体絶命の窮地に夜宵の表情が歪んだ。
「さあ、追い詰めたっすよ。ヴァンピィ!」




