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#22 決勝戦の相手は?

 その後、俺達キャンプファイアは破竹の勢いで勝ち進んだ。

 予選ブロックを四勝一敗で一位通過。

 決勝トーナメントへ進出し、そこでも勝ち抜いていく。

 予選で敗退した人達は帰宅するのも自由となっているが、大半は決勝トーナメントを観戦する為に残っていた。

 勝ち進めば勝ち進むほどに俺達の試合を観るギャラリーも増えていく。


「ヴァンピィさん凄いな。あの人のコマンド入力、速すぎて目で追えないぜ」

「ああ、流石はシングルス上位プレイヤー。対戦相手はみんなあのスピードに翻弄されてるな」

「ふむ、確かにヴァンピィくんは素晴らしいプレイヤーだ。だがダブルスはそれだけで勝てるほど単純じゃない。見たまえ」


 なんか解説者っぽいサングラスのおじさんが現れて、俺達の試合を観ながら語りだしたぞ。


「近接戦闘を得意とするジャック・ザ・ヴァンパイアを前線で戦わせながら、遠距離攻撃を得意とするプロミネンス・ドラコで後方から援護する。

 この戦い方はダブルスのセオリーとも呼べる基本戦術だ。ヴァンピィくんが力を発揮できているのは、ヒナくんの的確な援護があってこそ。二人の息のあった連携がお互いの力を何倍にも引き出しているのだよ」


 だから誰なんだあのサングラスのおじさんは。

 なんで休日なのにスーツ姿なの?

 しかもやたら派手なスーツだし。ヤクザなのか?

 と、そんなことより試合に集中しないと。


「ヴァンピィ! トドメは任せろ」

「うん! お願い!」


 最低限の言葉で意志疎通し、プロミネンス・ドラコの火炎球(ファイアボール)が、敵の鮫型マドールを捉える。

 そして敵機体の機能停止(ダウン)が決定した。


「ウィナアー! キャンプファイア! これで決勝進出だああああああ!」


 やたらテンションの高い司会のお兄さんの宣言が会場に響く。

 優勝まであと一勝。まさか本当にここまで来れるとは!


「やったねヒナ! あとひとつ頑張ろ!」


 普段は大人しい夜宵も興奮気味にそう吐き出した。


「ああ、やろうぜ。あと一個勝って優勝だ!」


 果たして、決勝戦の相手は誰なのか。

 そう思っていると司会のお兄さんが、高らかに言い放つ。


「既に隣の部屋ではもう一つの準決勝が決着し、決勝進出チームにはこの部屋の前で待機していただいています。

 それではお呼びしましょう! キャンプファイアと決勝戦を戦う相手チーム! バニートラップ!」


 バニートラップ! 虎衛門とたまごやきさんのチームだ。

 すっかり忘れていたが、このオフ会に参加する切っ掛けとなったツイッター乗っ取りの犯人である。

 そんな相手とまさか決勝で当たるなんて。

 司会の宣言を受けて部屋の入り口が開き、二つの人影が姿を現す。

 彼らこそバニートラップ。

 だがその二人を見て俺の思考は停止した。

 その姿はとてもよく見知った相手であるが、こんな場所で会うなんてまったく予想もしていなかったからだ。


「あれあれー、どうしたんすか先輩! そんな間抜けヅラしちゃってー!」

「そうですよお兄様。ここまで勝ち上がってきたんですから、それに見合った威厳を持っていただかないと」


 お、お前達は!

 赤いリボンカチューシャをつけた亜麻色髪のゆるふわウェーブロングの少女が穏やかに笑う。


「自己紹介が遅れましたね。私はたまごやきです」


 栗色髪の少女も長い尻尾髪を揺らしながら元気よく言葉を吐き出した。


「そして私が虎衛門だ!」


 光流、琥珀。その二人はどこからどう見ても俺の幼馴染みで妹分の少女達だった。


「お前ら!」


 危うく本名が喉元まで出かかったのを堪える。


「ヒナ、知り合い?」


 夜宵が不思議そうに俺に視線を投げかけてきた。

 俺がそれに答えるより先に、琥珀は夜宵を指差し、言葉をぶつける。


「アンタがヴァンピィか。よくも先輩を誑かしてくれたな!」

「え? え?」


 初対面の相手にいきなり因縁をつけられて、夜宵は困惑した様子を見せる。


「おい、一体何の話だ。あと人を指差すな」


 俺が琥珀に向けて釘を刺すと、そこに光流が割り込んできた。


「それは私から説明しましょう。そう、あれは一週間前の日曜日のことでした」


 そう言って彼女は語り始める。


「虎衛門こと虎ちゃんはお兄様が大好きでした。

 前の日曜日も虎ちゃんはお兄様と遊ぼうとお家にお邪魔したのですが、悲しいことにお兄様は他の女の子とデートに行ってしまいました。

 失意の中で虎ちゃんはお兄様のパソコンを使って、ツイッターに悪戯投稿することを思いつきます。

 勿論私は駄目だよって咎めたのですが、虎ちゃんを止めることはできずに悪戯ツイートは送信されてしまいました」


 よよよ、と泣き真似をしながらそんな話をする光流。

 いや、絶対嘘だぞ。

 俺のパソコンには光流じゃないとログインできないし、絶対コイツもノリノリで協力したぞ。


「その時、タイムラインに双子座オフの告知が流れてきて虎ちゃんは天啓を得ました。

 正体不明のツイッター乗っ取り犯を名乗って、お兄様を双子座オフに参加させようと」

「どうしてそうなるんだ?」


 琥珀が俺と遊べなくて不機嫌だったのはわかるが、それがどうして双子座オフへの参加に繋がるのだろうか?

 光流は、ちっちっち、と顔の前で指を振って説明してくれる。

「考えてみてください。双子座オフに出ることになったお兄様が最初にぶつかる壁は何か? そう、チームメイト探しです」


 あー、確かに。


「お兄様はきっとこう考える筈です。

 残り一週間でチームメイトになってくれる人なんて見つからない。

 いや、待てよ。いるじゃないかとても身近に。

 可愛くてキュートで自分の頼みを何でも聞いてくれて、可愛くてキュートで魔法人形(マドール)の腕も確かで、可愛くてキュートでちょっと頭のネジが緩くてそんなところも可愛い後輩が!」

「可愛くてキュートアピールうざいな」

「おいこら、私のこと頭のネジが緩いとか思ってたのか、たまごやき!」

「あっ、すいません虎ちゃん。つい本音が」


 一ミリも誤魔化せてないぞ光流。

 そこで琥珀が話を引き継ぐ。


「とにかく、先輩は私とチームを組む筈だったんすよ!

 そうなればもう目的は達成。虎衛門は捨てアカウントにでもして、新しいアカウントを作って大会に参加。先輩と一緒に大会に出て一日遊べる予定だったのに」


 そこまで言って、ぐぎぎと悔しげに歯軋りする琥珀。

 そうか、全ては俺と遊びたくてやったことなのか。

 そんなに寂しい思いをさせていたとは、悪いことをしたな。

 琥珀は再び夜宵を指差しながら告げる。


「ヴァンピィ! アンタは許さないっす!」

「まあ、あの時お兄様はヴァンピィさんとデート中だったわけですから、側にいたヴァンピィさんを真っ先に誘うことは予想がつくわけですが、そんなことにも気付かない可愛い可愛い虎ちゃんは、筋違いにもヴァンピィさんを恨むのでした、というお話です」


 うんまあ、琥珀は昔からアホの子可愛いところがあるのはわかるけどね。

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