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#0 美少女吸血鬼は人見知りでコミュ障なので俺が守らないといけない

 男とは何か?

 男とはか弱い女の子を守るべき存在だ。俺はそう思う。

 だから今みたいに女の子とのお出かけの最中に道に迷ったなんて、情けないところを見せるわけにはいかない。

 いや、でもさ。さっきスマホの地図アプリ見てたら目的地はもうすぐだったのに、いつの間にか通り過ぎてたんだよ?

 おかしいなあ。一体どこの道を見落としたんだろう。

 ひょっとして、そもそも方角を勘違いしてたのか?

 そんな風に悩んでると、ツンツンと俺の背中をつっつく感触があった。


「ヒナ、大丈夫?」


 そちらを振り向けば、小柄で愛らしい黒髪美少女の姿が目に飛び込んでくる。

 頭の左側の髪を黄色いシュシュで纏めたワンサイドアップの髪型が今日もキュートだ。

 口数の少なくなった俺を心配してか、彼女の黒い瞳が不安げに揺れる。

 い、いや違うんだ! これは決して道に迷ったとかそういうわけじゃないんだ!


「悪いな夜宵(やよい)。ちょっと俺のスマホのGPSがGNSSでGDP攻撃を受けてるみたいだ。どうやら某国の凄腕ハッカーにハッキングとクラッキングを受けてクッキングしてるらしい。安心しろ、すぐにジャミングするから」

「なんか凄い取り込み中だった!」


 ふう、どうやら誤魔化せたようだな。


「危なかったぜ。あと一歩でも進んでいたらスナイパーに蜂の巣にされるところだった」

「スナイパーってそんなに身近に居るものなの!? 都会って恐い!」

「ああ、スナイパーは一人見かけたら三十匹はいると思え」

「ええっ! でも私は一人も見てないよ?」

「そうだ。俺とキミが見てる景色は違う。キミの目にスナイパーが映っていないなら、キミの世界にはスナイパーはいないということだ」

「なんか難しい話になってる!」


 うむうむ、夜宵は純粋だなあ。

 普段引きこもりで世間知らずのせいか、俺の冗談をすぐ真に受ける。

 そこで彼女は不安げに言葉を切り出した。


「あのさヒナ。もしかしてとは思うけど、迷子になってたりしないよね?」

「はっはっは! そんなわけないだろ。ちょっと進みすぎただけだって、少し道を戻れば目的地はすぐそこだからさ」

「そ、そうだよね。私、一人じゃ普段お出かけとかしないし、ヒナだけが頼りだからね」


 お、おう。夜宵にこんなに頼られてるなら尚更男としてしっかりしなければ。


「ほんとに私、一人だと切符も買えないんだから。この前、駅の券売機に間違って五円チョコ入れたらお釣りが五億円出てきた話はしたと思うけど」

「間違いなく初耳のトンデモ情報が出てきたな! その五億円はちゃんと交番に届けたか?」

「うん、交番に行ったら私が一万人目のお客様記念です、って五億円が五億倍になって返ってきた」

「日本経済壊れちゃう!」


 と、俺達がそんな風にふざけていたときだった。その場に第三者の声が割り込む。


「すいません、少しお尋ねしたいのですが」


 そちらに目を向けると、落ち着いた雰囲気の老紳士が柔らかな物腰で問いかけてきた。


「駅に向かうにはどちらに行ったらいいでしょうか?」


 彼の視線が夜宵へ向く。

 すると彼女は焦った様子で顔を赤くした。


「えっ、あの、その、ええっと!」


 知らない人から話しかけられたらすぐテンパるんだから、相変わらずのコミュ障っぷりだな。

 彼女の視線が虚空を彷徨い、助けを求めるような瞳が俺へ向けられる。

 そして夜宵は俺へと駆け寄り、背中に隠れてしまった。


「おや?」

「あはは、気を悪くしないでください。シャイなんですよこの子」


 キョトンとした様子の老紳士に俺は対応する。


「ええっと、駅でしたっけ。小村三丁目ですか? 小村坂上ですか? 今日はどちらへ行かれる予定です?」


 彼から目的地を聞き出し、俺は自分の分かる範囲で移動経路について助言する。


「ああ、それならバスに乗った方が早いかもしれませんね。どちらの駅にせよ少し距離がありますから」

「おやおや、ご丁寧にありがとうございます」

「そうだ。こちらからもお聞きしたいのですが、ブルーカレッジホールってご存知ないでしょうか?」

「ブルーカレッジホールに行かれるんですか? でしたらそこの道を真っ直ぐに進んで脇道を曲がったところですよ」

「へえ、そうなんですか。助かります」

「いえいえ私の方こそ、お世話になりました」


 そうして話を終えると、老紳士は一礼して去っていく。

 そこで背中に隠れていた夜宵が顔を出し、口を開く。


「なに、今のコミュ力?」

「なにって。うーん、標準装備かな」


 俺はそこまで自分のコミュ力が高いとは思ってない。普通レベルだと思う。

 それでもコミュ障の夜宵にとっては、その普通でさえ羨ましく映るのかもしれない。


「私、そんなの装備されてない」

「初期装備は個人差があるんだよ。大丈夫、夜宵には夜宵のいいところがあるから」


 暗い顔をする彼女に励ましの言葉を送る。


「私のいいところってなに?」


 夜宵のいいところ。そう言われて真っ先に思い浮かぶのは――


「そりゃ、やっぱり可愛いことだな」

「か、かわっ! ええっ?」


 夜宵が顔を真っ赤にして驚いている。

 ああ、違うんだ。別に人を顔だけで判断してるわけではなくてな。


「違うぞ夜宵。別に容姿に限った話ではなく。いや、勿論顔も可愛いんだけど。

 おどおどして自信なさげなところとか、コミュ障なところとか、なんていうか守ってあげたくなる可愛さというか」

「えっ、えっ、その! やめてよヒナ。そんな、恥ずかしいこと言うの禁止!」


 メチャクチャ照れながら、彼女は後退り、俺と距離を置く。

 あああ、なんていうか言わなくていいことまで言い過ぎた気がする。

 ひょっとして引かれただろうか? 女の子を口説くナンパ野郎だと思われただろうか?

 彼女と出会ってまだ二週間足らず。

 その間、距離が縮まったような、踏み込み過ぎたような。なんとも判断に困る位置にいると思う。

 今の関係は、ひとまず仲のいい友達と言っていいのだろうか?

 初対面のメチャクチャ警戒されてた時よりかは親しくなれたと思うが。

 俺は夜宵と初めて出会った日のことを思い起こすのだった。

面白かったと感じていただけたら、ページ下にある☆を沢山つけてブックマークをしていただけると嬉しさで作者の執筆モチベが大幅に上がります。

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